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第5回 ─ あれはどうなったんだろう

連載
踏 切 次 第
公開
2006/03/23   23:00
更新
2006/03/23   23:14
ソース
『bounce』 273号(2006/2/25)
テキスト
文/次松 大助

次松大助が見つめる、とある町の日常──

 ――あけまして。妻の実家に梅見しが 花のつぼみに うぶ毛萌え萌え――

 この長い雨が降り止んで、あと一度か二度寒い日が過ぎれば、ようやく待ちに待った春の訪れです。春は大好きです。春になると、その街々で風上から麻袋いっぱいのネムリ粉を撒き散らす〈ネムリ粉翁(関東地方ではネリ粉婆)〉というのが現れ、その影響で春は眠たくなるのだそうです。冗談です。

 さて、僕はどうもあいまいなものが好きなようで、12時、3時、6時、9時にしか印の付いていない時計や、地球以外の知的生命体と出会える確率を割り出す数式など、あいまいだからこそロマンを感じてしまうことがたくさんあります。そして僕が惹かれるあいまいなもののひとつに、〈結末を知らない思い出〉というものがあります。

 高校二年生の頃、クラスではほとんど目立たない地味なメガネの女の子が、夏休み明けにぱたりと学校に来なくなりました。担任の先生も何も言っていなかったのでまったく気にしていなかったのですが、ある日、退学したらしいという噂が流れました。しかも、年上の男性との間に子供が出来たらしい、という話で、真偽はわかりませんが、〈あれはどうなったんだろう〉と今でもときどき思い出します。そして僕は、〈どうなったんだろう〉のまま放っておくのが好きなのです。まだ家がバブリーだった中学生の頃、家族で焼肉を食べに行き、その帰り際に父がレジの横に置いてある売り物のガムを勝手に取って一枚づつ家族に渡しました。僕は嫌だったので食べるふりをしてそのガムをポケットに隠し、そのまま家に帰ったのですが、家に着いてポケットを探してみると、そのガムはどこにも見当たりませんでした。今でもふとした瞬間に〈あのガムはどこに行ったんだろう〉と、なんとなく心地良くも感じながら、そのことを思い出します。

 これは僕の考え方ですが、色々な人と出会っては別れていくなかで、もう一度逢いたかった人々が暮らす架空の街を頭の中に造る〈レインボータウン〉という遊びがあります。そこに行けば、いつ誰とでも対話が出来ます。縁があって(円が合って)実際にもう一度会う人もいますが、そうでない人々はその街で時間の流れと共に日々変化していきます。〈あれはどうなったんだろう〉の続きは、その街でたくさんの時間をかけて話してもらえばいい。僕はそれで十分満足なのです。

次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。1月から行われた全国5都市を回るライヴ・ツアー〈tentosen PARTY〉も好評のうちに終わり、現在は4枚目となる新作をレコーディング中。最新情報は〈www.miceteeth.net〉にてチェック!!

今月のBGM
The Miceteeth『from RAINBOW TOWN』
サブスタンス
手前味噌ですが、結構好きなので聴いてもらいたいです。日本のどこかに〈春待ち組合〉というものがもしあれば、ぜひ組合歌にして頂きたいです。