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第67回 ─ RAY DAVIES

連載
NEW OPUSコラム
公開
2006/03/23   23:00
更新
2006/03/23   23:46
ソース
『bounce』 273号(2006/2/25)
テキスト
文/加賀 龍一

今なお受け継がれる〈UKロックの父〉が放つ貫禄の初ソロ作で、シーンのルーツを探れ!


 2005年はポール・マッカートニーやポール・ウェラー、ニュー・オーダーといったUKのヴェテラン勢が大活躍したが、2006年はのっけからリヴィング・レジェンドたる〈最後の大物〉が、その重い腰を上げることとなった。英国民6千万人と世界中のキンキー・マニアが切望したレイ・デイヴィスの純然たるソロ・アルバム『Other People's Lives』がいよいよ世に放たれたのである。キンクスの『Phobia』から13年、キンクスのライヴ・カヴァーを含んだ変則ソロ・アルバム『The Storyteller』から8年という超重量級の腰である。

  64年に弟のデイヴらと共にキンクスとしてデビューして以来、ソングライターとしての才能は現在までにあらゆる場所で萌芽を遂げてきた。例えばアークティック・モンキーズやクークス、オーディナリー・ボーイズなどが、〈もっとも英国的〉とされるシニカルでウィットに富んだレイのソングライティングに影響を受けたと公言している。いささか強引だが、キンクス=レイ・デイヴィスの意志は英国民に絶えず根付きながら、いつでもそのサウンドは回帰させる力を持ち、そしてそれは現在の新世代UKバンドの躍進と少なからずの因果関係があると言えよう。そして今作も、隠居寸前だったミュージシャンが作ったものとは思えない尋常ならざる完成度を誇っている。現在はニューオーリンズを拠点にしているということもあってかアメリカン・ルーツ・ミュージックを添加しつつも、しっとりと泣かせるようなメロディーはまごうことなき〈英国産〉そのものである。また詞に関しても持ち前の皮肉を交えながら、新しい朝、出会いと別れ、過去との決別と、新しいスタートを決意するかのような意志がストレートに表れている点が興味深い。こうした詞曲共にピュアな〈現役感〉に満ちた本作は、〈レイ・デイヴィス、初のスタジオ・ソロ・アルバム!〉という期待の遥か先を行っている。UKロック好きの若者たちよ、アナタたちは今こそレイ・デイヴィスを聴くべきである。そこには現在、百花繚乱の如き盛り上がりを見せるシーンのルーツがある。そしてそれは同時に、〈英国史上最高の詩人〉という称号が今なお彼の手の中にあるということを再確認する作業でもあるのだ。

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