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第4回 ─ 空色の芸術

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2006/02/23   10:00
更新
2006/02/23   21:52
ソース
『bounce』 272号(2005/12/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 芸術は独特な時の感覚を身につけている。グラスゴーで出会ったアーティスト、ニコラ・エイトキンソン・デヴィッドソンの映像作品にもそれがある。海を見下ろす丘のベンチで、お喋りしたりタバコを燻らしている伯母さん二人。食堂で新聞を読みながら食事をする初老の男。そんな人々を、彼女は数分間ヴィデオにただ記録する。その独特な時が横たわるなか、傍観者はスクリーンの彼らをじっくり観察できる。すると、次第に様々な想いが乱反射しはじめる。

 芸術はプリズム。

〈写生の時間〉という京都美術館のコレクション展に出掛けた。およそ百年前に描かれた写生帳や素描、下絵、スケッチ等が大量に展示されていた。大きな額に下絵として墨で描かれたあひるの群。ザクロを色々な角度から写した帳面。二匹の猫のうち、一匹だけに色が塗られている画……。

 はじめて、わたしの気持ちに合う日本画を観た。

 それらを、途中芸術と呼んでみる。わたしは、制作途中の絵や録音途中の音楽が持つ強い引力にいつも魅惑されてきた。そこには簡素でラフな表現のなか、すでにエッセンスは凝縮されていて、作家の動き続ける精神を見つけることができる。どのように作品は完成に向かうのか、作家はどんな魂を抱えて制作に入ったのか、作品を前に途中芸術の過去と未来を想う。白黒フィルムで撮影された花の写真を観て、その色と運命を頭に描くように。

 翌週の金沢で、ドイツのアーティスト、リヒターの絵画と出会った。ちょうど観客の見上げた位置に掛かっていた眩しい青空の絵が、わたしの心に深く刺さった。帰り道、ミュージアムショップに立ち寄る。とある本の中に、こんな言葉をみつけた。

「本当の趣味は半端な趣味ではない」
 ・・コンスタブル

 わたしは、笑った、自分の手を見た、そして顔を上げた。

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界各地で制作を続けるアート・アクティヴィスト。現在はソロ・プロジェクトであるKAMA AINAのシングル&アルバムを制作中。1月29日には恒例となっている言葉のイヴェント〈BOOKWORM〉に参加。〈www.bookwormweb.net/〉にて詳細のチェックを