
セルメン。日本では誰もが親しみを込めてそう呼ぶものだから、ずっとこのセルメンさんと(セルジオ・)メンデスさんを別人だと思い込んでいた人もいたらしい。いや、昔の話ね。それくらい、かねてからセルメンの名は一般層にも浸透していた。
セルジオ・メンデスは41年にリオデジャネイロはニテロイで生まれた。10代でボサノヴァの勃興を目撃し、62年にはカーネギー・ホールでの歴史的なボサノヴァ・コンサートにも出演。カエターノ・ヴェローゾらと同世代ながら、いち早く世界へ飛び立とうとしたわけだ。そしてアソシエイションが“Cherish”の大ヒットを放った66年、ソフト・ロックの台頭と時を同じくしてリリースされたのが“Mas Que Nada”(ジョルジ・ベン作)のヒットを含む『Sergio Mendes & Brasil '66』だった。そんな彼の進取の気性は、バイーア・ビートに挑んだ『Brasileiro』、さらに今回の新作『Timeless』でも変わっていない。
その『Timeless』にはブラック・アイド・ピーズ(以下BEP)のウィル・アイ・アムがプロデュースで全面的に参画。それと、女性ヴォーカルはやっぱりハマる。目立ちたがりのエリカ・バドゥもやや控えめで、セルメンの音楽性を深く理解した姿勢を見せている。もともとブラジルにはラップとよく似たシャベクリ芸=エンボラーダもあるし、“Fo'-Hop”はブラジル北東部の音楽であるフォホーを基にしている。『Timeless』は時間と場所、すなわち時空を超えようとする意欲作なのだ。
▼文中に登場する作品を紹介。