NEWS & COLUMN ニュース/記事

第54回 ─ 与世山澄子

連載
NEW OPUSコラム
公開
2005/12/22   13:00
更新
2005/12/22   16:36
ソース
『bounce』 271号(2005/11/25)
テキスト
文/田辺 有朋

あなたの面影に抱かれて……当時と変わらぬ至福の時を刻み続ける名作が、いま甦る


 沖縄にもジャズはある。72年の本土復帰までアメリカの統治下に置かれ、現在も米軍のキャンプが散在する沖縄。であればジャズが根付くことは当然と思えるが、〈内地〉の人間には少々その実像が掴みにくい。そんなオキナワン・ジャズにあって、80年代に絶賛を浴びた伝説的シンガーが存在する。八重山は小浜島出身の彼女の名は与世山澄子(よせやますみこ)。その歌声は今日まで口コミで評判を呼び、今年8月には20年ぶりの新作『インタリュード』をリリース。彼女が営む那覇市内の同名ジャズ・スポットで録音されたこの作品には南博、菊地成孔ら凄腕ジャズメンが参加。熟達の極みにある現役シンガーとしての真価を生々しく伝えてくれる。そして、かつて彼女の存在を世に知らしめた80年代の3作品が、最新リマスタリングを施されてリイシューされる。この機会にぜひともジャズ界の至宝を〈再発見〉しておきたい。

 彼女の記念すべき83年発表のデビュー作『イントロデューシング』。ピアノ・トリオの渋めな伴奏を受け、時にチャーミングに、時にブルージーに、驚くほど表情豊かなヴォーカルに圧倒される。得意のジャズ・スタンダードが並ぶなか、ビリー・ジョエルの“New York State Of Mind”が実に鮮烈だ。

 続く2作目の『ウィズ・マル』。マルとはもちろんいまは亡きピアニスト、マル・ウォルドロンその人。かつてビリー・ホリデイの伴奏を務めた彼だけに、その歌伴はまさに絶妙だ。“Round Midnight”“My Funny Valentine”などの有名曲が並び、さらに3曲でストリングスを起用。ゆえに50年代風の雰囲気も漂わせるが、決して色褪せた懐古趣味に終わらないフレッシュな情熱は、20年の時を経たいまでも感じ取れる。

 そして前作で共演したマルとさらに交流を深め、今度はヴォーカルとピアノだけ、2人で臨んだ3作目が『DUO』だ。シンプルな編成になって“Body And Soul”“Misty”といった名バラードでの表現力がより一層際立つ。ほんのり明かりを灯すように音を重ねるピアノと、その揺らぐ光の中で幻惑的に浮かび上がるヴォーカル。ジャズ・スピリットを共鳴し合う両者のコラボレーションが生んだ名作といえる。この3作品では歌わなかったマルの代表曲“Left Alone”を、最新作『インタリュード』で取り上げた澄子。マル亡きいま、〈Left Alone〉=〈独り残された〉心情を歌う、というのは浅はかな詮索だろうか。

▼再発された与世山澄子の作品を紹介

▼与世山澄子関連盤を紹介