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第78回 ─ TUCKERがかける魔法、TUCKERがかけられた魔法

連載
360°
公開
2005/12/22   13:00
ソース
『bounce』 271号(2005/11/25)
テキスト
文/望月 哲

セカンド・カミング!! ニュー・アルバム『ELECTOON WIZARD』でTUCKERが追求したものとは!?

 ロウ・テクノロジーの極みともいえるエレクトーンを駆使し、観る(聴く)者すべてを圧倒するような、パンクでヒップでエクストリームなサウンドを生み出す超絶パフォーマー、TUCKER。「演奏はもちろん、個人的なゴス趣味まで(笑)、自分っぽい感覚を上手く出せたような気がする」と本人が語るとおり、今回届けられたセカンド・アルバム『ELECTOON WIZARD』では彼の持つ一種独特な志向性や価値観が随所に渡って見事に発揮されることとなった。

「世間の流行りとは関係なく、いままで聴いてきたものを大事にしてるようなところが自分のなかにあって。やっぱりダサいところも含めて自分の武器にするべきだと思うんです。今回のアルバムにも、中学生の頃に聴いてた〈ジャパメタ〉的な要素が入ってる曲もあるし。いわゆるパンク的なセンスと、速弾きみたいな、あんまり女の子にモテなさそうなセンスがミックスされた感じが格好いいなと思うんですよ。そういう感覚は当然、アルバムにも反映されてるし」。

 そんなTUCKERワールドをいっそう盛り上げるべく参加したのが、AFRA、HIFANA、笹沼位吉(SLY MONGOOSE)、ロボ宙、KEN-ONE、Jackie & The Cedricsなど、日頃から馴染み深いミュージシャンたち。

「スタイルはカブってないけれど、おもしろさや格好いいと思える感覚を共有できるような人たちばかりですね。あと、僕、昔からひとつのジャンルに就職しちゃうような感覚が全然ないんですよ。いままで本当にいろんな音楽を同時に楽しんできたから。いろんな人たちに参加してもらうことで、そのへんの自分らしさもいっしょに出せればいいなと思って」。

〈白鳥の湖〉で幕を開ける今作では、ジャズ・フルート奏者であるヒューバート・ロウズの“Let Her Go”と、ハードコア・ラップの古典ともいえるハウス・オブ・ペイン“Jump Around”をカヴァー。特に原曲本来のマッチョでヴァイオレントな雰囲気とエレクトーンのチープな音色がキワキワなバランスで拮抗し、なんともいえないマヌケ美を醸し出した後者のカヴァーは強烈だ。

「ラップを鍵盤でカヴァーしてるんですけど、これが予想以上に難しくて。〈パケロン、パケレン、パケロン、パケレン〉って何度もラップを聴き直して、鍵盤押して〈これかな?〉みたいな(笑)。ラップを鍵盤でカヴァーしたのって間違いなく世界初だと思うんで、それは声を大にして言いたいですよ。まあ、後に続く人はいないでしょうけど(笑)」。

 そう。そこに咲くのが、たとえ世界にひとつだけのアダ花だとしても、彼が追求しているのは、あくまでも自分の個性をとことんまで突き詰めたオンリーワンのオリジナリティーなのだ。

「たとえばヒップホップに影響されてなにかを表現するとして、そのままのスタイルでやっても全然おもしろくないじゃないですか。せいぜい、本場のヤツらから〈格好良くカヴァーしてくれて御苦労!〉ぐらいの感じで肩叩かれて終わりでしょ。そうじゃなくて、本場のヤツらがビックリするぐらい、こっちで勝手に発展させちゃえばいいと思うんですよ。そこからおもしろいものが生まれるんだろうし、自分もそういうことを常に追求し続けるユニークな存在をめざしていきたいですね」。

 ていうか正味の話、いま現在、洋の東西を見渡しても、ここまで個性的かつキテレツな才能には、そうそうお目にかかることができないでしょう。〈エレクトーンの魔法使い〉に世界がコロッとやられちゃう日も、それほど遠い日のことではないのかもしれない。いやマジで!
▼『ELECTOON WIZARD』に参加したアーティストの作品を一部紹介。


笹沼位吉のプロデュース/参加曲を集めたコンピ『BASS ON A TRUE STORY』(ユニバーサル)

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