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第3回 ─ 徒然草の旅

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2005/12/08   16:00
ソース
『bounce』 271号(2005/11/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 旅先で出会った人々、次にいつ会えるだろうか?

 好きな本や音楽、映画を教えてもらう。その日のうちに。口下手の彼女や彼がどんな思いを持って日々を過ごしているのか、その人を知る一さじの手掛かりになる。さあ、あの時のダンサーに聞いた大野一雄の本を注文してみよう。

 経験を深くし、ストーリーを感じた幾つかの経験。
 
〈キューバ〉
 床屋の待ち合いの席で、様々な髪型と肌の色をした人々が座っている。目の前で順番に刈られていく彼らは、全員同じ坊主頭になって帰っていく。電気バリカンひとつ、ラジオのサルサに合わせて踊る。わたしも自分の変わり果てた坊主頭を撫でながら、ハヴァナ旧市街の太陽の中、歩き出す。

〈バリ〉
 ウブドで影絵を観に行った帰り、ある青年と親しくなる。彼は自分の村の祭りに招待しようと言うので、わたしたちはバリ人の正装をして、村の祭りに向かう。何も分からないまま、見よう見まねでお祈りを捧げたり聖水をまいたり。激しい雨と村人だけの静かな祭りに、高揚した自己が滲みだす。

〈僕の瞬間は花だ〉――ラングストン・ヒューズ

 
 先週のこと。全国朗読の旅の幕切れに、仲間で石川県の山奥へ。バケツ太鼓やホイッスルを手に、ハミングしながら熊除け音楽隊があるく。沢を登り、野草を分け入って、何十もの切り株に対面する。そこには飴色に輝く美しいなめこ! 土地の兄さん、おばさんに教えてもらいながら、親指を使ってごっそり採ってゆくと、バケツはすぐさま一杯になる。なめこのヌメリを沢で洗い流し、わたしたちはご機嫌で山をおりてゆく……。

 移動するあいだ、色とりどりの花を見つけるから、わたしたちは旅を続ける。

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界各地で制作を続けるアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURES、Double Famousの一員として活躍する一方、KAMA AINAとしても活動中。12月27日には、東京・九段会館にてKAMA AINAのライヴを行う予定(共演は細野晴臣 & 東京シャイネス)。