絵の具の筆洗いがこぼれたような雲が広がって、今日は昼から雨が降っています。いつの間にかフェイドインして知らぬ間にフェイドアウトするであろう秋を横目に寝過ごして、今年の冬こそ絶対に毛のついたジャンパーを買おうと、5年ぐらい前から毎年繰り返している自分への誓いを呪いのように思い出しているところです。条件は、ぶ厚くなくて、でも頑丈で温かくて、10年ぐらい着られるようなシンプルなもの。これが探しだすと意外によく見つかるんですが、僕の給料では恐くてなかなか買えないのです。だから、今年こそは勇気を出して買ってしまおうかと考えているんですが、中学生並みの生活水準なので、あと一歩、踏み切る為の言い訳が必要になりそうです。
ところで、最近とあるベンチでたばこを吸って、人生そのものをサボッているときに、ふいに足下に蟻の巣があることを発見して、クッキーの破片を近くに置いてみたら、みるみるうちに群がって、細かく細かく巣に持ち帰っていきました。それが予想以上に面白くて、何粒も置いてみては、じーっと観察していました。人に話してもなかなか伝わりにくい種類の楽しみなんですが、万人共通の娯楽要素も含んでいる気がしました。例えば、動物園に行って偶然エサの時間に出くわすと少し得した気分になります。ライオンが血のついた肉を食べているところ、微動だにしなかったコアラがユーカリか何かの葉っぱを食べているところ、ヘビがネズミを呑み込んでいるところ。夏のあいだ、夜11時には寝て朝6時には起きていたのですが、最近また夜型に戻ってしまい、夜中にTVをつけていることが多いんですが、番組が全て終了したあとの、あの例の、夜の道路を屋上のカメラからひたすら撮り続けている映像の代わりに、たまにでいいので、蟻の巣の近くにクッキーを置いて固定カメラで撮影している映像を流して欲しいです。〈衣・食・住〉のうちの、最もアグレッシヴな〈食〉の部分は、ああ繰り返し繰り返し、蟻も生きているんだなぁと妙な安心感を覚えさせてくれます。夜中に寂しくなってコンビニで立ち読みをして、言い訳みたいに牛乳を買って帰る回数も、もう少し減るんじゃないかと思うのですが。
夜も更けてきた踏切の町の片隅で、色々な個人的願いを込めて、関係者各位様、届きましたらどうかご検討下さい(あ、でももうすぐケーブルTVをひくので無理でも大丈夫です)。
次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。最新作『from RAINBOW TOWN』も好評を集めるなか、年末に行われる〈ROCKIN' ON PERSENTS COUNTDOWN JAPAN 05/06〉にも出演予定。その他の最新情報は〈www.miceteeth.net〉まで
今月のBGM
PIOTR ANDERSZEWSKI
『French Suite.5, Partita Bwv.831』
Harmonia Mundi(1999)
この間、来日していたので観に行ってきました。チケットが5,000円もしたのに途中でちょっと寝てしまいました。2つ前の席のおばあちゃんも、スースー気持ち良さそうに寝ていました。生ビールがおいしかったです。