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第2回 ─ 藍色の音

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2005/11/17   13:00
更新
2005/11/17   15:54
ソース
『bounce』 270号(2005/10/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 名品、逸品が静かに語りかけてくる、白州正子の生活。「私は自分の好きなモノがわかるだけ」・・その著名で目利きの彼女が言う。

 それまでのわたしは、感覚的に世界中の音楽に触れていた。どのジャンルにも、その歴史の中に必ず好きな色合いがあると信じて。その色合いとは何であったのか? そんな疑問と彼女の言葉をしばらく心に持ち歩いていた。

 源氏物語のなかに、〈和琴を弾くときには座敷の奥で弾くのではなく、縁側の近くに出て、虫の声に合わせる程度にして弾くぐらいがよい〉と書かれてあると聞いた。〈音楽はその場所に在る音と一緒に聞く事で常に新しい響きを持つ〉と思っていたわたしは、その話に大きく共振した。

 思えば、映画のなかで役者が、ふと楽器を手にしてつま弾いたりハミングしている、そんな音の佇まいにずっと惹かれ続けている。簡素さと歌心はそこに在って、音はロケ現場の環境音とアンサンブルを奏でているような。

 ある夜、自分が素通りできなかった音楽の全てに、共通な感覚がある事を発見する。それは、英語で言う〈BLUE〉とポルトガル語の〈サウダージ〉の間に位置する心持ち。風景で伝えるなら、少し肌寒い静かな夜更けに、仄かな月の光が楽器に灯っているような……。音質で言うと、Hi-FiでもLo-Fiでもない、磨いた古靴の鈍い光を纏った質感。

 それから、わたしは言葉を探してみた。

 しばらくして〈藍色〉という言葉にたどり着く。

 日々の労働と感情の起伏の霧中に、うっすら見えていた影の色。

 人生は美しいと語りかけてくれる〈藍色の音〉。

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界各地で制作を続けるアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURES、Double Famousの一員としてのほか、KAMA AINAとしても活動中。11月27日には言葉のイヴェント〈BOOKWORM〉に参加。〈www.bookwormweb.net/〉にて詳細のチェックを