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第70回 ─ タカツキの愛すべき、生まれて育っていくミュージック・サークル

連載
360°
公開
2005/07/28   12:00
更新
2005/07/28   13:01
ソース
『bounce』 267号(2005/7/25)
テキスト
文/一ノ木 裕之

タカツキが語る『タカツキタツキ』


 5MCから成るSMRYTRPSや、昨年の〈フジロック〉にも出演を果たしたSUIKAでの活動と並行して、ソロとしてもアルバム2枚を残すタカツキ。このほどリリースされる自身3枚目のアルバムには、本名そのままに『タカツキタツキ』というタイトルが付された。おのずとそこに大きな区切りのような意味を見い出したくなるが、「アルバムは毎回毎回、僕にとっては区切りで、今回が特別な区切りっていうのはないですね」と話す本人の意図は至ってあっさりとしたもの。

「このアルバム・タイトルはもっと人間を熟成させて、おじいちゃんになってそれこそ死ぬ前とかになってからの今生の総決算に取っておこうかなと思ってたタイトルなんですね。でも、その虎の子のタイトルを使ってしまって、〈この後どうしたらええんやろう?〉っていうのがおもしろそうやったんで」。

 ただ「おもしろそう」という、起こりゆくことへの彼の期待感をあくまでも強引に本作の制作作業へと重ね合わせるとしたら、彼が「おもしろそう」と思って実現したに違いないさまざまなコラボレーションを含む本作は、ずばりそれが結果にも直結したものである。スウィンギン・バッパーズを率いる吾妻光良、SUIKAの同志でありA Hundred Birdsでも活躍するタケウチカズタケ、copa salvoのピーチ岩崎、イルリメ、ヨシダダイキチ(AlayaVijana)、ASAYAKE PRODUCTION、そして活動を近くするRomancrewやSMRYTRPS、toto(SUIKA)をはじめとする女性陣……自作に対するこだわりを誰よりも隠さない彼が経験した一連のコラボは、「いろんな人と〈タカツキ〉っていうものを使って遊ぶ」ことであり、彼自身がこれまで抱いていた作り手として当然持つエゴの形も変えたようだ。

「前までは自分のひとりよがりでカッチリやって、そこからちょっとでもズレると自分のものじゃないと思ってしまう感じがあったけど、人との共同作業をやったからってそれが自分のものでなくなるわけでもないなあっていうのがわかった。僕の知らない僕の引き出しに誰かが気付いてたり、〈あ、そういうこともあるんや〉みたいな」。

 多くのゲストに囲まれたその音楽は、まさにタカツキの引き出しを存分に開け放してみせた、カラフルで瑞々しく、胸のすくような仕上がりとなった。それは閉じこもった自分を解放したであろう彼自身の気持ち良さとも重なってくる。

「目の前には僕の必要なものなんて何もないんだって失望してたけど、リリックで〈何もないと思ってたんだけど、それはたまたまあることに気付いてなかったんだ〉ってことを意味もわからないまま書いていったんですね。そしたら、やっぱりそうで。何もないって思ってるものもホントに存在してることに気付いてなかったんだな、って考えが強まりましたね。例えばそれは仲間の助けであったり、音楽を分かち合える人であったり、身近なもんでもそうだし、もうちょっとサイコなものでもそうだし(笑)」。

 自分のあるがままに、手に取れないし目にも見えない〈音楽〉という得体の知れないものを形にするという作業は、すべての音楽家が等しく行っていることにすぎない。ただ、ひとつのアルバムを大らかに、しかも誰もが共有しうる形で結実させた『タカツキタツキ』によって、タカツキが大きな何かを手にしたことは間違いなさそうだ。
▼タカツキのプロジェクトによる近作。

▼『タカツキタツキ』に参加した面々の作品を一部紹介。

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