90年代を代表するカリスマ・バンド=サブライムが成し遂げた偉業……その軌跡には彼らが愛され続ける理由が秘められていた!

〈ミクスチャー〉というジャンルが現在よりも画一化されていなかった90年代初頭に、パンク、レゲエ、ダブ、スカ、ブルース、ヒップホップをミックスさせて、90年代最大のカリスマ・バンドとなったのがこのサブライムだ。
89年夏、南カリフォルニアはロングビーチを拠点にブラッドリー・ノウェル(ヴォーカル/ギター)、エリック・ウィルソン(ベース)、バド・ゴー(ドラムス)の3人によってライヴ活動を開始したサブライムは、友達の家のリヴィングやガレージでのホーム・パーティーやビーチ・パーティー、クラブなどありとあらゆる場所において自由かつDIYなスタンスで音楽をプレイ。みずからの力でインディー・レーベル=スカンクを立ち上げて、92年にファースト・アルバム『40 Oz. To Freedom』をリリースする。その後、2年の間に5回のツアーを行って、同作はディストリビューターの手助けを借りないまま口コミのみで5,000枚のセールスを記録するという偉業を成し遂げた。
94年にはセカンド・アルバム『Robbin' The Hood』をリリース。ほぼ宅録ながらこのアルバムは各シーンから絶賛された。また、パンク・ロックとエクストリーム・スポーツの最大の祭典である〈ワープト・ツアー〉に出演するなど、地道なライヴ活動によって西海岸での揺るぎない地位を確立した彼らは、ついにメジャー・レーベルであるMCAとの契約を獲得する。
しかし、96年5月25日、悲劇は起きた。メジャー・デビュー・アルバム『Sublime』のリリースを約1か月後に控えたこの日、バンドの中心人物であるブラッドがオーヴァードーズにより急逝してしまう。ソウルフルな歌声と天才的なソングライティング・センスを併せ持った稀有の存在=ブラッドを失ったことが、世界中のファンにどれだけ深い悲しみを与えたことか……。これによりバンドは活動停止を余儀なくされてしまうが、皮肉なことに同作は彼の死後から現在まで週に5,000枚という驚異のセールスをキープし続けている。そして、いまやサブライムの作品は世界中でトータル・セールス1,500万枚を記録し、数字から見ても90年代のTOP10内にランクインするロック・バンドのひとつとなったのである。
こうして伝説のバンドと化したサブライムだが、その影響は多岐に渡って絶大な力を及ぼしている。もちろん、サブライムに影響を受けたミクスチャー・バンドがいまだに頻出していることは言うまでもないが、彼らの魅力は音楽だけでは語り尽くせない。サブライムこそが音楽と同様に海やサーフィンを愛し、ボード・カルチャーやファッションともリンクするカリフォルニアのライフスタイルを確立した存在である、と言い切っても過言ではないだろう。それゆえにサブライムは人々の心の中に強く根付いていて、いまだに誰もその領域に立ち入ることができない唯一無二の存在であり続けるのだ。
今回リリースされるサブライムのトリビュート盤『Look At All The Love Me Found:A Tri-bute To Sublime』のライナーノーツには、参加者や制作者サイドからの彼らへの尊敬の言葉と、彼らがいかにサブライムを愛して止まないかが綴られているが、サブライムと共に時間を過ごせた人は幸せだ。羨ましい。残念ながら、ほぼ後追いに近い筆者には彼らと同じ時間を共有した経験はないが、彼らの音楽を聴いていた時代には自分なりの思い出がある。そして、いまでもブラッドの歌声を聴くとその情景が鮮明に蘇るような気がする。そんな思い出がない人もこれからサブライムの音楽を聴いて、新たなストーリーを描けばいい。そうやってサブライムの存在を忘れずにずっと語り継いでいくことが、我々リスナーにもできる彼らに対する尊敬と愛情の表現方法なんじゃないだろうか。