新しい音楽が生まれる瞬間。そこには既存のカテゴリーをブチ壊し、未踏のエリアへと踏み込む破壊者たちの姿があった。そんな彼らの挑戦とエクストリームな音楽を紹介するデストロイヤー列伝!!
80年代後半に生まれ、発展を続ける〈ジャンク〉を巡ってトーク・バトルが勃発!!
既存のカテゴリーを破壊し、われわれに斬新なスタイルと価値観を提示した冒険家たちを讃えるこの連載も今回が4回目。〈ジャンク〉がテーマとはいうものの、そこには過去の日本における洋楽ロック観のカオスぶりも見え隠れ……。さてさてどんな話題が飛び出すか? 乞うご期待!!
池田義昭(以下:IKE)「小林さんが〈ジャンク〉と出会ったのはいつ頃ですか?」
小林英樹(以下:KOBA)「あれは僕が高校生ぐらいだった頃……87~89年?」
IKE「それはなにをキッカケに?」
KOBA「当時は輸入盤屋でほとんどUS盤を扱っていなくて、その頃にUKで誕生したレーベルがブラスト・ファースト。そもそもこのレーベルはUKにソニック・ユース(写真)を紹介するために立ち上げられたわけなんだけど、そのブラスト・ファーストがUSのおもしろいバンドをUK盤として発表しはじめた。ソニック・ユースの仲介でビッグ・ブラックがリリースされ、それからはバットホール・サーファーズ、ダイナソーJrというように……。僕自身、まったく免疫がないそれらのサウンドに〈なんじゃこりゃ!?〉って(笑)」
IKE「(笑)そんだけ濃ゆいメンツを初めて聴いたら、〈なんじゃこりゃ!?〉ってなっちゃいますよ。で、そんな当時から〈ジャンク〉というカテゴリーはあったんですか?」
KOBA「……そういえば、あった。輸入盤屋にも〈ジャンク・コーナー〉とかあったし(笑)。オーストラリアにバースデイ・パーティーがいて、ニューウェイヴ周辺からはスロッビング・グリッスルやサイキックTV、USには二大横綱としてソニック・ユースとスワンズがいてと……」
IKE「なるほど。〈ジャンク〉の定義じゃないけど、何をもって〈ジャンク〉と呼ばれていたんですか?」
KOBA「グチャグチャ! ノイズ・ギターやメタル・パーカッションを使用した前衛的なサウンドでヴォーカルが〈ヴォ~!!〉みたいな感じ? 当時主流だった繊細なニューウェイヴ勢の対極にあった音楽だね。〈ジャンク〉のほかにも〈スカム・サウンド〉〈ギター・シット〉っていう呼ばれ方もしてたよ(笑)」
IKE「そして〈ジャンク〉にとって重要な90年代初頭を迎えるわけですね。この時期〈ジャンク〉にとっての重要なレーベルは? 日本ではどんな状況でした?」
KOBA「サブ・ポップ、タッチ&ゴー、SSTなどのレーベルが、ハードコア・パンク作品を発表しながら〈ジャンク〉もリリースしていた。でもまだ日本では情報が不足していて、〈ジャンク・コーナー〉にグリーン・リヴァーが置いてあったりね。買って聴いたら〈ハードロックじゃん!?〉みたいなさ(笑)。まだまだ混沌とした状況だったな」
IKE「その後、グランジ・ムーヴメントが到来しますが、はUSロック・シーン全体の中で〈ジャンク〉はどのあたりに位置していたのでしょうか?」
KOBA「僕と同世代で〈ジャンク〉を聴いていた人は、大きな渦に吸収されるかたちでそのままグランジへ流れていったと思う。ガレージを〈ジャンク〉テイストにしたマッドハニーがいるサブ・ポップとか、ドロドロ系のカウズがいたアンフェタミンとか、それなりに拠り所を見つけながらね。だけど、ニルヴァーナの出現後〈グランジ・サウンド〉が確立されてシーンがメジャーな方向へと進みはじめた。しかし、ここで重要なのがスティーヴ・アルビニの存在なんだよ。彼がプロデュースしているニルヴァーナが大ブレイクしても、アルビニ本人のバンド、レイプマンやシェラックはしっかりと〈ジャンク〉を守ってた」
IKE「やはり〈ジャンク〉といったら、アルビニは欠かすことができませんもんね。あと、アルビニのプロデュースといえばジーザス・リザードですか? とにかくアルビニの支持は根強いものがある」
KOBA「確かに。そのあと、彼のフォロワー的にバストロ(写真)が出現して〈シカゴ系〉に繋がっていくわけだから。スタイルはまったく違うけど、〈ジャンク〉がいちばんメジャーになった成功例は〈シカゴ系〉なんだからさ(笑)」
IKE「なるほど。姿は変われど〈ジャンク〉のDNAは脈々と生き続けている、と」
KOBA「そうなんだ。だけど、バストロがトータスに変化したときのショックったらなかったよ!」
IKE「つまり、90年代後半は潜伏期ってわけですね」
KOBA「そうなんだけど、頑固なまでに〈ジャンク〉のスタイルをキープしていた男がいるよ。いまもスピードダウンする気配すらないけど(笑)」
IKE「マイク・パットン!」
KOBA「そうそう。だけど彼ってさ、多作で人気もあるけど歴史に残るような名作を作ったことがない(笑)。それはそれで〈ジャンク〉っぽくて最高なんだけど」
IKE「(笑)勝手に命名すると〈ミスター・ジャンク〉! まさしく破天荒な男ですから。そして最後は2000年以降の話ですが、ライトニング・ボルトなど新たな流れを感じさせる次世代バンドが出現してきました」
KOBA「彼らやブラックダイスは、間違いなく〈BOREDOMSチルドレン〉。当初僕は彼らの音楽に対して、ローファイの流れにあるものだと思ってたんだけど、ちょっと違う印象を抱きはじめた。インディーの充実期、80~90年の音楽をたくさん聴いて、研究した末に生まれてきた〈ジャンク〉だと思う」
IKE「〈ジャンク〉に新局面が到来!ってところですか? これからも目が離せませんね」
▼対談中に登場したアーティストの作品を紹介