メジャーとディールしない男、ヴィニール盤にメッセージを刻み続けた男、デトロイトを捨てなかった男…デトロイトの地下テクノ集団〈UNDERGROUND RESISTANCE〉を支える男マッド・マイクが動いた。ギャラクシー・2・ギャラクシー・プロジェクトの10年の総決算となるCDと、ロランド脱退の報を携えての来日&ヨーロッパ・ツアー。恵比寿リキッドルームで彼らを待っていたのは、マッド・マイク病に10年間苛まれてきた日本のオーディエンスだった!!

少し遅れて到着すると、既に場内は暗転。ステージの上ではバンド・メンバーの影が激しくゆれ、曲が立ち上がるたび、プレイヤーのアドリブ演奏が高みにのぼるたび、フロアに歓声が響く。〈アンダーグラウンド・スタイル〉なURの照明演出にまず驚いたが、それ以上に驚かされたのは観客のリアクションだった。プロレス会場でレスラーのアジテーションに共鳴するときの歓声に近いかもしれない。
さて、デトロイトから来たUR軍団のパフォーマンスをご報告。ロス・ヘルマノスは、DJロランドがDJスケジュールとの折り合いがつかず離脱したという中でのライヴだったが、そのパフォーマンスは当夜ベストともいえる強烈なグルーヴ。フロアの熱狂に応えるように、ジョー・クラウゼルも狂喜しそうなパーカッションの乱打が弾み、キーボードのジェラルド・ミッチェルが身体を上下に激しく揺らしながらプレイ。「初来日の際に日本のオーディエンスに感銘を受けて作った」という曲“Resurrection”なども演奏し、最後はアンセム“Jaguar”でしめた。〈ジャガー〉ではジェラルドが原曲にはないようなモントゥーノ演奏で鍵盤を駆け上がり、ラテンの昂揚を得たフロア・アンセムとして披露された。ヘルマノスは今まで、ロランドが鍵となるプロジェクトだと思われてきた節があるが、ジェラルド・ミッチェルのミュージシャンシップと熱いラテン魂がその鍵であることが証明されたような瞬間だった。
一方、真っ暗なステージで目をひいたのがURの用意したヴィジュアル。ステージ後方のスクリーンにはデトロイトの景色やデトロイト音楽のフェス〈MOVEMENT〉の写真のほか、ロス・ヘルマノスのライヴでは〈thank you...〉というメッセージとともに彼らのルーツとなったアーティストが投影された。レイ・チャールズ、カーティス・メイフィールド、スライ・アンド・ファミリーストーン、バーニー・ウォーレル、マーヴィン・ゲイ、ウォー、サンタナ、ファンク・ブラザーズ、チック・コリア、モータウン、ジェイムス・ブラウン…。「基本的にブラック・ミュージックと呼ばれるもの全てを俺は信用している」というマッド・マイクの過去のインタビュー発言を裏付けるような並びだが(別の場面ではラリー・レヴァンの写真も投影された)、現在のURでも重要な要素であるヒスパニック系のミュージシャンも登場した。VJはコラージュというよりはスライド・ショー・スタイルで、技巧的というよりはローテクだったが、〈安い機材でメッセージを具体化する〉というURのコンセプト同様メッセージ性が強い。
ショウにあわせデトロイト・ハード・テクノ中心のセレクションのジェイムス・ペニントンのDJに続いて、登場したのはエレクトロファンク軍団とミスター・ディ。前回の来日時には郊外でライヴを行い、MCと鍵盤演奏を主軸に、まさにゲットー・テックなショウを披露したが、今回はさらに幅を広げてトーキング・ボックスでのロボ声メロウ・ファンクから、〈ゴッドファーザーのテーマ〉よりフレーズを拝借した暴走族調イケイケ・ゲットー・テックなども披露。MC主体のパフォーマンスで英語が伝わりきらずに演者観衆双方が不自由するような瞬間もあったが、図太いマシーン・ファンクは強力!
さてギャラクシー・2・ギャラクシー。冒頭“Return of the Dragons”のドラが鳴るとともに、〈待ってました!〉とばかりに歓声が響く。筆者も含めて会場のほとんどがステージで揺れるシルエットの誰がUR総帥=マッド・マイクかも判別もつかず、ひたすら目前で展開するアンセムに呼応するという不思議な盛り上がり。ジョーイ・ベルトラム“Energy Flash”のアシッド的要素をURが還元したような“Amazon”に続き、“Transition”、“Jupiter Jazz”、“First Galactic Baptist Church”と次々とクラシックが披露されていく。後半になると時折クラフトワークの楽曲にあわせて、ソロ回しをするなどの遊びもみせた。
G2Gのアンコールでは藤原大輔(sax)が招かれ、フュージョン調の“Momma's Basement”から始める。続いて〈UR〉ワッペン付きのMA-1ジャンパーを着たキーボードの男(後日判明したが、この男がマッド・マイクだった)がステージ中央に歩み寄り、「次に演奏するのは、ジャコ・パストリアスが活動していた……」とことわり、ブレイクビーツ・ループにのりウェザー・リポート“Birdland”をカヴァー。最新アルバムに収録された新曲2曲はゴスペルやフュージョンの様式をかなりダイレクトに取り入れたものであり、マッド・マイクのルーツ指向やフュージョン回帰が色濃くでたが、それがG2Gのライヴにもハッキリと現れた瞬間だった。巨漢のベーシストが緊張気味にテーマを弾く姿を、藤原大輔が見守る姿が印象的。そして最後には“Hi-Tech Jazz”をライヴ・ヴァージョンで披露、冒頭のイントロを除けばほとんど原曲に近いアレンジ。サンプリングしたサックス音で奏でられたメロディ、TR-909のシンプルなリズム、ブギーなシンセベースのライン…幾千のハウス音源と大差ない機材を用いジャズ・フュージョンの編曲を活かして作られた“Hi-Tech Jazz”は、ロマンティックな語り手によってさんざん評されてきたし、それが冒頭の熱狂や、日本での〈デトロイト産のダンス・ミュージック〉というブランド全体への過剰評価にすら繋がっていると思う。ただそれでも、この曲にはデトロイト・テクノ・マジックがあった! としかいいようがない。発表から10年を経て目前で演奏された瞬間に、圧倒的に響いてしまったのだから。
※bounce 262号(2月25日発行)ではpeople tree特集にて、UNDERGROUND RESISTANCE/GALAXY 2 GALAXYを大フィーチャー!