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第16回 ─ 年末特別企画! 菊地成孔が2004年の音楽界を振り返る

第16回 ─ 年末特別企画! 菊地成孔が2004年の音楽界を振り返る(2)

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/12/24   21:00
更新
2006/08/16   19:56
テキスト
文/ヤング係長

――今年の大きな話題と言えば、宇多田ヒカルが海外進出してチャート160位止まりだったことじゃないでしょうか。日本で900万枚売っているアーティストが海外では2万枚程度だったということがファンにはショックだったんじゃないかと思っているのですが。

  宇多田がアメリカで売れない理由はすごくはっきりしていると思う。プロモ・クリップを見たんだけど、エロくないわけよ全く。宇多田の音楽はアメリカではブラック・ミュージックだと思われる以外ないからさ。んで、アメリカでブラック・ミュージックをやる人はセクシーじゃないとダメじゃない、絶対。「日本で何百万枚売れた」とか全く関係ないわけで。

――シングル曲の歌詞はかなりセクシャルな内容だったみたいですけどね。

だからプロモ・クリップをエロくしなきゃいけないんだって(笑)。ブラック・ミュージックのプロモはエロいのが当たり前で、エロくなかったら事件なんだからさ(笑)。それはもうパスポートみたいなものでさ、セックス・アピールが基本装備だから。プロモには宇多田以外の外国人モデルが出てるんだけど、周りの人たちはエロい格好をしているのに、本人は腰巻みたいな水着で出ているんだよ(笑)。宇多田が体を晒せないっていうのがどこの検閲によるものか、ということが問題だね。メーカーなのか本人なのか。旦那の倫理的な判断ではないと俺は信じたいんだけどね。

  音楽的なクオリティの面では全く問題ないでしょ。「日本人の音楽はフェイクだ」って内外から言われ続けてきたけど、それ半分以上は言い過ぎだからね。例えば“マツケンサンバ”なんて本物のフィリー・ソウルと比べて全くなんの遜色もないんだよ。“Sky High”みたいなさぁ(笑)。宇多田なんて日本語の壁も越えているんだから、水着以外問題が見当たらない、全く(笑)。

それで俺は昔から書いているけど、宇多田の体はいいんだよ、すごく(笑)。一瞬幸せ太り……まあ、逆に結婚ストレスかも知れないけど、とにかく一時的には肥満したものの、プロモのためにシェイプ・アップもしていたらしいじゃないか。あれだけブラック・ミュージックにアジャストしておきながら、体が出せないという一点だけが極端に大和撫子なんだよね。

――では、彼女はこれからどうしたらいいんですかね?

  エロくすりゃそれで良いと思うけどね。「お前が見たいだけだろ」って言われたらそれっきりだけど(笑)、要するにアメリカ人の欲望にフィットできるかどうかが一番の問題なわけだからさ。だから日本での成績なんかとは別にDOUBLEとかが行ったら普通に売れるんじゃないかと思っているんだけどね。〈海外進出〉の意味が全然古いわけだ、日本は。〈メジャー・リーグ入り〉とか、〈一部上場〉っていう感覚だからね。そうじゃなく、向こうのニーズに応えればいいわけでしょ。

何回も言うけど、音楽的にはもう遜色ないわけだからさ。韓国の音楽も変わらないからね。新宿のコリアン・ゲットーに住んでいると、日々耳にする音楽がK-POPになっていくんだけど、一番凄いのが韓国のブラック・ミュージックなんだよ。MCもラップも全部韓国語なんだけど、トラックはもう凄く立派なわけ。歌のこぶしがちょっとシャーマニックでさ(笑)。レイシズムよりもコスモポリタニズム、つまり、民族性と超民族性のバランスはいつでも微妙だけど、ブラック・ミュージックまで行くと今や世界的な様式美だからさ、誰でもいつでもアメリカのブラック・ミュージックには参入できるとは思う。でも、パスポートとして、極端にセクシャルである覚悟が必要だよね。もうソフトポルノだもん(笑)。そこに応えることが出来ることが第一関門でしょう。ブラック・ミュージックでアメリカに進出したい人は、アメリカで成功している日系のポルノ女優を参考にすると良いと思うけどね。

逆に、今どんどん保守化・道徳化が進んでいるのがアメリカのロックなんだよね。ピューリタニズムが進行しているのよ。3年くらい前にインタビューで「イラク戦争の兵士はなにを聴いていると思うか」って質問を良くされたんだけど、そのときはなにを聴いていたのかわかんなかった。だんだんはっきりしてきたわけ。これは噂レヴェルだから一次的情報ではないけど、巷間言われているのは、ヘヴィーメタルなんだよ。ただ、音楽的にはヘヴィーメタルなんだけど、歌詞の内容は悪魔崇拝じゃなくてキリスト崇拝なんだよ。「ジーザス最高」って歌ってるヘビメタ。

ロックがどんどんピューリタンになっていって、ロック・アーティストはふくらはぎすら出さなくなる。それでブラック・ミュージックは全員ソフトポルノまがいっていうさ。その二極化がアメリカで起こっていて。どっちにアクセスするのかといったら宇多田はロック側にはアクセスできないからね。

  なんにしてもアメリカの今後は凄い重要でしょう。ロックがどんどん道徳的になっていく(笑)。70年代のヘヴィーメタルの役割っていうか、マリリン・マンソンがやっていたような反キリスト的行為を全部黒人が担わなきゃならなくなっていくんだよ。場合によっては危険だもの。容易に黒人差別に繋がってしまうわけだしさ。ブッシュ再選後のアメリカには、文化、特に倫理に関してパラダイムシフトが起こって、ムタクタだよね(笑)。その瞬間瞬間にヒステリーみたいに倫理の基盤を作ってはつぶしすると思うよ。しばらく。

――なるほど。では例えば日本からキリスト崇拝のロックをやってアメリカに進出することはできないんでしょうか?

いないと思うよ(笑)。唯一デーモン小暮だけにチャンスがある(笑)。転向して復帰、っていう(笑)。