DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔(5月23日には菊地成孔クインテット・ライブ・ダブにて〈intoxicate〉への出演も決定)が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!
当欄読者の皆様またしてもこんにちは。どうもどうも。書き方を変えればどどううもも。そういえば〈鼻ダニ〉の存在はどうなったのでしょう? 鼻ダニの。ピーク時は「3人に一人の鼻の毛穴の中に居る!」と、恐怖記事と美容記事でお馴染みの『○性セ○ン』等で、恐怖記事と美容記事のダブル効果を狙い、大成功を納めたあの話題は……と、一向にこの国の株券が CDに成らないことに業を煮やし、少々乱暴な挨拶に出てしまいました。申し訳有りません(土下座)。
とそんな、今日か今日かと毎日日本経済新聞を見ているウチに最近、すっかり頭が薄くなり、どんどん火野正平に似てきたな。と、若い読者の方には解りようもない指摘を年輩の方々から受けている菊地であります。地下鉄が東京メトロなどという80年代のダメ・ニューウェーブ・バンド(解散してからメンバーの一人がテレビのパーソナリティになるような)みたいな名前に変わってる暇があったら、一日も早く、株券をCDに、株式会社をCD式会社にして頂きたい。領収書貰うとき「頭、CDで」と、まるでデジタルな河童みたいな(もう止めた。だってぜんっぜん当たんないんだもん! うぎょー!!←逆ギレ)
はいでは、早速嫌々前々回の答え合わせから行ってみましょう。やだなー。
編集担当 Hくんより
「菊地さん。前々回の答え合わせは以下になります。
■AI“After The Rain”
予想枚数 15,000枚 → 14,600枚(発売4週目)
■Every Little Thing “ソラアイ”
予想枚数 80,000枚 → 44,182枚(発売4週目)
■上原多香子“ブルー・ライト・ヨコハマ”
予想枚数 20,000枚 → 11,710枚(発売4週目) ※オリコン調べ
またもや1枚が当たり(わずか400枚の差!)、そして他の2枚はハズレ。でした。過去の答え合わせを見ても、2枚は大ハズレでも、1枚は(ほぼ)当たりという傾向が見られます。今回の予想は、槇原、平井がそれぞれ“世界にひとつだけの花”、“大きな古時計”というヒット作を越えられるか? という部分が興味深いところでありますので、この2枚を当てに行きましょう。それでは、今回もよろしくお願いいたします」。
なんだよもう「野球で言えば3割打者ですね」とか「鼻ダニで言えば100%ですね」とか何とか、お世辞のひとつもくれればいいのに Hくんたら。それにブルー・ライト・ヨコハマは「半分当たり」にしない?三割五分みたいなさ。そうか。だめか(しょぼーん)……って、しかも何だよ!(笑)この一枚目はよ!(笑)
■綾小路きみまろ“交通安全漫談”
わかんねえよっ!(笑)聴いたよ!(笑)すんごく面白いよ!(笑)
と、逆ギレしながら大笑いで聴いてしまいました(笑・しかも癒されるのねこれ)。というか、昨年末の当欄特別企画「年間チャートを斬る」のバックナンバーを読み返して頂ければお解りの通り、この人のアルバムが上位チャートに入っていたのですね。このとき僕は「今まで色物の人々が出すレコードというのはシングルの一発物に決まっていた。今やシングル低調、アルバム好調という傾向は、綾小路きみまろでさえアルバム勝負になっている」という話をしたのですが、今回はミニアルバム。というか「警視庁の交通安全キャンペーンの一環として、非売品配布用(限定5千本)に製作されたカセットテープに問い合わせが殺到。そこでご要望にお応えするため緊急発売が決定いたしました」とあります。何というか、コメント出来ません。社会学的に(笑)。「お年寄りが若者の運転によって怪我をする」という交通事故傾向が、最近顕著なのだそうです(そういえば僕の母親も車に轢かれて……でも、その時はドライヴァーも80歳で、老年ドライヴァーの事故傾向が増えている。と聞いたんだけどなあ)。
この人の特異のような伝統的の様なキャラクターに関しては説明を要しますまい。あの語り口、あのメガネ、あの髪型、あの衣装。の、ご存じご老人のアイドル。であります。ユーザーの99%はターゲット・マーケット通りにご老人の皆様。そして1%は、こういったアイテムをコレクションしているモンド好事家。の皆様でありましょう。「交通戦争。といえばジャック・タチと綾小路きみまろがお馴染みだが」とか気の利いた事も言えますし「冒頭に出てくる、暴走族が老人を轢くシーンの恐怖感は、免許を取るときに見せられるあの警視庁製作のおっそろしい事故映画のそれを思い出させる」とか「それに続く、雅やかでゴージャズな演歌インストによるオーバーチュアは、さすがテイチクの演歌セクション老舗の味。モンド系パーティーのマストに成るかも」とか何とか言えなくもないでしょう(ほとんど言えない・笑)。
でもしかし、やはりこの人は、来るべき老人化社会。という社会問題を基盤に置いているという意味で、実は爆笑問題にも匹敵する強度を持っていると思います。僕でも噴き出してしまう面白い時間は掴みの数分だけ。それからは、シリアスなネタ……というより、交通事故の現状。やお年寄りへの交通事故防止アドヴァイス。老人ホームについて。などの真面目な情報を朗々と読み上げる事に徹し、アイテムの性質上からも解るとおり、基本的にはギャグ作品とは言えません。最後に「交通事故に気を付けて、健やかに長生きしてください」と、真面目な口調で心を込めて語りかける彼の額には汗が、自我には使命感が、そんじょそこらの戦争反対デモなどより何倍もシンシアな平和と安全への希求が感じられ、不覚にも僕はちょっと感動してしまいました。
ひとこと。がんばり続けて下さい。老人数。という数値を考えたこともないままに、3万5千枚。
■平井堅 “瞳をとじて”
平井堅、1年振りのオリジナル・シングル。しかもあの『世界の中心で、愛を叫ぶ』(←みんなこのタイトルが何の引用か知ってるよね?オリジナルはハーラン・エリスンの SF『世界の中心で愛を叫んだ獣』と言います。さあ、検索しよう。そして驚こう)の映画版の主題歌であります。これはもう何というか、売れない要因を探す方が難しいでしょう。
「瞳をとじて、別れた(死んだ)恋人を思い描く。っていうけど、俺は妄想や回想は目を開けたままするけどなあ。普通」(笑・僕、そうなんですけど。瞳を閉じると寝ちゃうので・笑)とか「別れた恋人の名前が瞳だったらどうすんだよ。閉じて。って何か縁起悪いじゃねえか」とか(笑・僕、そうなん以下自粛)いう難癖は、高い歌唱力と、ラヴバラードの永遠のテーマである〈別離と追憶〉を扱った歌詞、ストリングスをこれでもかと泣かせに泣かせたバックトラックの前では屁のつっぱりにもなりません。
楽曲的には、サビにクライマックスが置いてある。という王道の構造で、譜面が使えない本欄では説明がもどかしいのですが、滑らかな平行、同主短調への転調、サビ前の〈ちょっと洋楽臭い〉一瞬のケーデンス、過去のラブバラード・クラシックからちょっと抜いた感じのピアノのフック・フレーズなど、全く危なげがありません。しかもこの人は、こうしたオーセンティックなバラードにさえ〈顔をくしゃくしゃにする〉〈童謡を歌う〉とか言ったギミック(物まねの人用に。とでも言うべき)をちゃんと用意してくれる。というすさまじいプロ根性・サーヴィス意識であります。今回は「朝目覚める度に」という、出だしのフレーズを「あさ めさめるたびに」と、はっきり濁音を抜いて歌っています。「目覚める」を「めさめる」と読むのが微妙に雅やか。という事なのか、過剰なソフト・ヴォイスが勢い濁音を取ってしまった。という事なのか。何にせよ物まね勢はここに食らいつくこと請け合い。です。文句の付けようもなく、例え映画が詰まらなかったとしても7万枚。
■槇原敬之 “優しい歌が歌えない”
これは難しいなあ。こういうのが一番難しいです。同じ男性ヴォーカリストとして(自分で言っちゃったよおい。誰か後ろからハンマーで殴れ、俺を・笑)コメントさせて頂ければ、この人の歌唱力というのは、とんでもない物があります。一度『ミュージックフェア』か何かで、斉藤由貴とデュエットで“さよならをするために”というシャンソンを歌ったことがあったんですが、斉藤由貴からこの人にマイクが回った瞬間、凄まじいまでの美声と歌唱力と訴求力に、背筋が凍り付いた記憶があります。この人がバッテン所持で逮捕される直前のことでした。
“世界でひとつだけの花”という、世界各国後で訳されて歌われてもひとつもおかしくないグローバル・スタンダードなメッセージを商業作家として書いた後に、約1年ぶりの31枚目のシングルは(というか、その前の数枚から)屈折した物になっています。曲は、5小節目の、さりげなくも強烈な一瞬の転調も含め、大胆な同主調からのコード召還による、爽やかさと鬱屈感が混在した中期ビートルズ路線、一筋縄で行かないものの、コンポーズ・デザインはかなりの完成度といえましょう。そして、最終的にはハッピーエンディングで終わるものの、歌詞の世界は〈自己の内部に存在する暗部との闘い〉という、まるでダンテの様に重い物です。
僕はこのことを書くのをタブーとも何とも思っていないし、こんなことがタブーであり続ける限り、音楽批評なんてどうしようもなく腹の減った野良犬にでも喰われちまえ。と思っているのではっきりと書きますが、この人はゲイ・ピープルです。平井堅の如く〈ゲイ受けしそうな〉といったレヴェルではなく、真性でしょう。欧米のゲイ・ピープルがマッチョ的な美学やハウシーな美学を構築したのに対し、この国のゲイ・ピープルの中でも、もっとも動員力があるであろうこの人の屈折と内省。怒りにも似たオーラ。何せその気になれば背筋を凍らせるほどの歌唱力がある人が、この楽曲では(というか、恐らく、ほとんどのレコーディング作品で)力を抜いて、刀のつばに手を掛けたようにして歌っている、その凄み。売り上げ数よりも批評が気になりながらも、“世界に一つだけの花”で付いたファン。という、幸福な人々の数も加算した上で4万枚。
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