ロックとパンク/ニューウェイヴの橋渡し。〈元祖ヴィジュアル系〉? グラム★ロックの世界とは
みなさんこんにちハッスル! 「貝がらラジオ」のお時間です。さて今回は、グラム★ロックについて。70年代初頭に登場し、グリッター(ギンギラ)・ロックともいわれていたこのサウンドは、ケバい格好をした〈元祖ヴィジュアル系〉ともいえるもの。サウンドの基本はT・レックスのようなギター・リフを主体としたポップなブギーで、そこからさまざまな拡がりを見せていきます。でも音楽的なベースとなっているのは60年代フォークで、T・レックスも初期はアシッド・フォークのようなサウンドでした。ではなぜ、彼らが化粧をしたりケバい格好をするようになったのか? 振り返れば70年代は、アメリカではシンガー・ソングライター・ブームで、〈バック・トゥー・ザ・ルーツ〉な時代。イギリスでもルーツに回帰した結果、行き着いたのが詩人のボードレールなどに代表される19世紀の耽美主義でした。そのデカダンスな美学にグラムは影響を受けているのです。でもサウンドは、とてもイノセントなポップ・ミュージックなのがおもしろいところ。では、そうして生まれ変わったT・レックスの『The Slider』から“Telegram Sam”を聴いてください――(1)
(1)T.REX 『The Slider』 Repertoire(1972)
中学生のころ、ゴダイゴの大ファンだった僕は、タケカワユキヒデのアルバムを買いに行ったレコード屋で、初めてこの曲を聴きました。そのカッコ良さに衝撃を受けた僕は、結局T・レックスのシングルを手に入れたんです。でもマーク・ボランは正直気持ち悪かった(笑)。
マーク・ボランと並んで〈グラム・ロックの2美神〉といえるのがデヴィッド・ボウイ。ボウイも初期はボブ・ディランから影響を受けたり、バート・ヤンシュなんかをバックにブリティッシュ・トラッドをやっていた人。イギリス人としてのルーツを紐解いていった結果が、やがて19世紀の作家、オスカー・ワイルドへと行き着き、トランスセクシャルなセンスへと導かれていったのです。ある意味これって〈ディスカヴァー・イングランド〉。つまり、グラムの持つ人工美/耽美主義はイギリス固有の文化と深く関わっていて、だからこそアメリカには飛び火しにくかったのかもしれません。ではレアテイク満載のデヴィッド・ボウイ『Aladdin Sane』の〈30周年記念盤〉から“Lady Grinning Soul”を聴いてください――(2)
(2)DAVID BOWIE 『Aladdin Sane -30th Anniversary 2CD Edition』 EMI(1973)
アンディ・ウォーホルと出会うことで、その〈キャンプ〉の精神に触発されて自分をキャラクター化していくボウイ。本作は彼がもっともグラマラスだった時期を代表する一枚で、未発表音源を収めたDisc-2は、その貴重な記録なのです。
ロキシー・ミュージック、スパークスといったアートスクール系バンドもグラム的なエッセンスを持っていました。どちらも単に〈グラム〉と括るにはあまりにもオリジナリティーがありすぎますが、ヴィジュアルの強烈さとドライなポップ・センスにはグラムの匂いが……。両者とも70年代にはヒップなレーベルで知られたアイランドを拠点に活動していたのもオモシロイところ。でも、もともとスパークスはアーシーなレーベル、ベアズヴィル出身でした。ところが兄のロン・メールはチョビ髭を生やし、グーチョ・マルクスみたいな風貌でキャラクター化。弟のラッセルもハイトーン・ヴォイスで中性化していったのです。では、そのグラマラスに変身を遂げた4作目『Kimono My House』から“Amature Hour”をどうぞ――(3)
(3)SPARKS 『Kimono My House』 Island(1974)
本作のプロデューサーを担当したのがトニー・ヴィスコンティ。彼はボラン~ボウイ~スパークスを繋ぐ重要な存在ですが、もう名前からしてグラマラス(笑)。ニューウェイヴにおけるコニー・プランクがそうだったように、ヴィスコンティもグラムの影の主役なのです。
さて、最近ふたたび話題のクイーン。グラムという文脈で語られることは少ないものの、彼らもグラマラスなエッセンスを持ったバンドだと思います。デビュー当時はアイドルっぽい扱いだった彼ら。“Killer Queen”あたりから、フレディ・マーキュリーのゲイ・テイストが開花し、オペラ化。独自の美意識を持つようになります。フレディがロックで何をしたかったのかってことを考えると、グラムと共通するものが見えてくるのではないでしょうか。では『Sheer Heart Attack』から“Killer Queen”を――(4)
(4)QUEEN 『Sheer Heart Attack』 Parlophone(1974)
昔、クイーンのライヴを観に行った時、フレディが振り袖を着て登場したのを見て驚きました。今から思えば一種のカミングアウトだったのかも知れませんね。勇気がいることだったのかも知れませんが、フレディはその個性と才能で乗り越えたのです。
やがてグラムは、ニューヨーク・ドールズやアンディ・ウォーホルを介してパンクへと繋がっていく。ドールズのマネージャーをしていたマルコム・マクラーレンは、セックス・ピストルズを手掛けることでパンク・ムーヴメントを生み出しますが、ピストルズもまたギター・リフを主体としたブギーであり、ある意味〈パンク〉というイメージに忠実なコスプレ。そういう意味でグラムは60年代のリアル・ロックとパンク/ニューウェイヴを橋渡しする存在でした。ちなみに当時グラムを聴いていたのは主に女の子で、男は気持ち悪いって無視していた。だからグラムをバカにしてた男子はパンク/ニューウェイヴに順応できなかったんです。ではそんな流れのなかで登場したジャパンのデビュー作『Adolescent Sex』から“Transmission”をどうぞ――(5)
(5)JAPAN 『Adolescent Sex』 BMG(1978)

ニューヨーク・ドールズに影響されたようなヴィジュアルと、ホワイト・レゲエ的サウンドとの取り合わせが新鮮だった彼ら。やがて人工的なニューウェイヴ・サウンドへとシフトしていく彼らは、グラムの末裔といえるのではないでしょうか。
グラムはロックの過剰なパロディーとして生まれたもの。だから自分たちがパロディーの対象となった時点でシーンは終息してしまう。ルーツ・ミュージックは30年やってても、グラムは30年やれません。この儚さ。でも最初にポップスに演劇性を持ち込んで体系化したのはグラムであり、そのエッセンスは現在、さまざまなカタチでシーンに息づいているのです――というわけで、来月もお楽しみに!
鈴木惣一朗
WORLD STANDARDやRAMなどで活躍、エレクトロニカからルーツ・ミュージックまで幅広い音楽性を披露する音楽家。身近な名盤を紹介した「ワールド・スタンダード・ロック」など著作も手掛け、その活動は多岐に渡る。anonymassの新作『harusame』(ミディクリエイティブ)に〈ロック・ドラマー〉として参加したDJ惣一朗(こちらをチェック!)。現在は、今秋リリース予定のWORLD STANDARD〈20周年記念盤〉の制作に日夜頑張っておりマス!!