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第10回 ─ 西海岸シンガー・ソングライター、タカ派とハト派

連載
鈴木惣一朗の貝がらラジオ
公開
2004/02/19   13:00
更新
2004/02/19   18:40
ソース
『bounce』 248号(2003/10/25)
テキスト
文/鈴木 惣一朗

70'sアメリカ西海岸をメロウに、そしてワイルドに彩ったシンガー・ソングライターたち

みなさん、わんばんこ。〈貝がらラジオ〉のお時間です。今回はアメリカ西海岸のシンガー・ソングライターたちをご紹介したいと思います。ザ・バンドを筆頭としたウッドストック周辺の男気溢れる硬派なサウンドを支持するアメリカン・ロック・ファンからすると、西海岸は少々軟派。僕が大学生のころは、ザ・バンドとイーグルスの両方を聴いている人はいませんでしたね。硬派な音楽ファンは硬派なウッドストックものを聴き、イーグルスは無視。でもイーグルスやポコといった西海岸軟派バンドは人気を博していて、実際にヒットチャートを賑わせていたのは軟派なアーティストたちの音楽だったんです。ではまず、そんな軟派の代表格、ジャクソン・ブラウンの名ライヴ盤『Running On Empty』から“Cocain”をどうぞ――(1)

(1)JACKSON BROWNE 『Running On Empty』 Asylum(1977)
   デレク&ザ・ドミノズ周辺にも同じようなテーマの曲があるのですが、ドラッギーなスウィートさを持っているドミノズ周辺に比べて、ジャクソン・ブラウンのほうは知ってるフリっぽい(笑)。でも、そこがまたジャクソン・ブラウンっぽくていいんです。


本作は、ロード(ツアー)をテーマにして制作されたもの。ロードっていうのは移動につぐ移動。車→会場→ホテル→そしてまた車……本作はそのすべての場所でフィールド・レコーディングしてるんです。デヴィッド・リンドレイとホテルの一室で弾いてたかと思うと、移動中のバスでプレイしていたり。やがて、会場に着いたところで録音が変わっていって、最後の曲は観客といっしょに合唱して終わっていく……そんなストーリーがあるんですね。こんなことやってるアーティストはほかにいないんじゃないでしょうか。長江健次似(笑)のジャクソン・ブラウンは、当時ロック・ファンからはナメられてたところもあるんですが、この作品には骨太さがあるんです。で、このジャクソン・ブラウンって人は、アサイラムという西海岸軟派アーティストたちが所属したレーベルの代表的アーティストだったのですが、そのレーベルの第1弾アーティストだったのが、ジュディ・シル。アシッド・フォークのテイストを持った女性シンガー・ソングライターです。では彼女のデビュー作『Judee Sill』から“The Lamb Away With The Crown”をお聴きください――(2)

(2) JUDEE SILL 『Judee Sill』 ワーナー(1971)
  西海岸サウンドのイコンとして、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンがいます。ジュディも彼からの影響を受けていたんじゃないでしょうか。本作ではギターの弾き語りにオーケストラ・サウンドをフィーチャーしたりして、独特のサウンドを作り上げているんです。


もとはヒッピーでコミューン生活を送っていたジュディ・シル。そういった背景もあって、彼女の歌には60年代の残り香があります。でも、その繊細さゆえに最後にはオーヴァードーズで亡くなったと言われているんです(詳細は不明)。アサイラムのアーティストは、みんなそういう〈痛み〉を持っていた、そういったところにレーベルの特色があったのではないでしょうか。だからアサイラムのサウンドにはニック・ドレイクのようなUKっぽいウェット感があるんです。そんな手触りを感じさせるアーティストのひとりに、JD(ジョン・デヴィッド)サウザーがいます。たとえば僕の好きなアルバム『Black Rose』は、アルバムのジャケットからも〈死〉の世界を連想させる文学的なモノ。でも裏ジャケでタキシード着ているのが腑に落ちないんですが(笑)。ではこのアルバムから“Silver Blue”をどうぞ――(3)

(3) JOHN DAVID SO-UTHER 『Black Rose』 Elektra(1976)
  “Silver Blue”にはベックのお父さん、デヴィッド・キャンベルがヴィオラで参加しているんですが、いま聴くとベックの『Sea Chan-ge』に通じる音の感触、アシッド感がある。西海岸とUKフォークをキャンベルが橋渡ししたような不思議な味わいなんです。


ピーター・アッシャーによるプロデュースで、アンドリュー・ゴールド(コイツもタキシード男!)、グレン・フライといったアーティストが脇を固めている本作。ジャクソン・ブラウンはもとより、イーグルスやジェイムス・テイラー一派との繋がりも見て取れます。そんな軟派たちの集うアサイラム周辺のなかで硬派なサウンドを鳴らしていたのが最近亡くなったウォーレン・ジヴォンでした。60年代に一度デビューした彼は、その後鳴かず飛ばずだったところをジャクソン・ブラウンに認められて70年代にアサイラムから再デビュー。彼のサード・アルバム『Excitable Boy』は、そのジャクソン・ブラウンがプロデュースを担当、バックを先のJDサウザーをはじめ、西海岸人脈が固めた彼の代表作です。ではアルバムからヒット曲“Werewolves Of London”(〈ロンドンの狼男〉)を聴いてください――(4)

(4) WARREN ZEVON 『Excitable Boy』 Asylum(1978)
  ここでピアノを弾いて歌うジヴォンは、エルトン・ジョンのようなピアノ・マンを思わせます。またジャケに似合わずワイルドな歌声はブルース・スプリングスティーンみたい。西というより東、あるいはUKのテイストを持ったジヴォンは異端的な存在だったんです。


しかし、西海岸タカ派の代表といえばやはりニール・ヤング!じゃないでしょうか。ニールはカナダ出身のアーティストなんですが、バッファロー・スプリングフィールドでのデビュー以来、西海岸を活動拠点にしてきたアーティスト。バッファローのころは少しアイドルっぽくて、ニッコリ笑ってたりもしたんですが、最近はむっつりと鬼みたいな顔つき。とはいえ、新作ごとにチャレンジングな姿勢は相変わらず。新作『Greendale』はある意味、プログレともいえる組曲構成で、僕にとってはまるでイエスの〈危機〉(笑)でした。ついに来日も決まり、老いてなおヤングな彼なのですが、では最近リイシューされた『Ha-wks & Doves』から“Captain Kennedy”をお聴きください――(5)

(5) NEIL YOUNG 『Haw-ks & Doves』 Warner Bros.(1980)
  ニール・ヤングはアメリカン・ロックっぽい険しい曲と甘い曲が書ける人なんですが、本作は後者に近い、落ち着いた雰囲気。実は今回のリイシューで初めて聴いたんですが、とにかく曲がいい。とてもスウィートな曲が収録されていて愛聴盤になりました。


東にボブ・ディランがいれば、西にニール・ヤングがいる、それくらいに孤高のスタンスで現在も活躍するニール・ヤングですが、西海岸的なメロウさもちゃんと持っているんですね。ジャクソン・ブラウンを筆頭とするセンシティヴで軟派な一派と、ウォーレン・ジヴォンやニール・ヤングといった硬派な一派が混ざり合った西海岸のシンガー・ソングライターたち。ニール・ヤングのアルバム・タイトルをモジれば、〈タカ派(硬派)とハト派(軟派)〉のサウンドが西海岸の陰影を作り上げていたんじゃないでしょうか。というわけで今月はこのへんで。来月もお楽しみに~!!

鈴木惣一朗

  WORLD STANDARDとして活動するかたわら、新バンド、RAMを結成するなど、エレクトロニカからルーツ・ミュージックまで幅広い音楽性を発揮する音楽家。身近な名盤を紹介した「ワールド・スタンダード・ロック」など著作も手掛け、その活動は多岐に渡る。11月27日には、本人いわく〈入魂のプロデュース作〉、高田漣『WONDERFUL WORLD』(nowgomix)が堂々リリースされる予定。

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