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第9回 ─ レット・イット・ビートルズ(そして4人は……)

連載
鈴木惣一朗の貝がらラジオ
公開
2003/11/27   15:00
更新
2004/02/19   18:39
ソース
『bounce』 249号(2003/11/25)
テキスト
文/鈴木 惣一朗

緊急特集〈赤ラジオ〉に続いて、ビートルズ解散後の4人にフォーカス。なすがままに、4人が歩いたそれぞれの道

みなさん今晩ベソ。〈貝がらラジオ〉のお時間です。今月はビートルズ特集として〈赤ラジオ〉〈青ラジオ〉、合わせて2本立て(2枚組!)でお送りしていますが、ここでは〈青ラジオ〉として、『Let It Be』がリリースされた70年以降のメンバーのソロ活動をご紹介。でも、ビートルズの新作『Let It Be...Naked』を特集した〈赤ラジオ〉もぜひチェックしてくださいね。

70年代に入ると、シンガー・ソングライターたちが台頭してきます。そんな内省的な空気がシーンを包みはじめる頃、ポール・マッカートニーは田舎の家に引きこもり、そこで初めてのソロ作『McCartney』を完成させます。かつてのロックスターが、家族とともに田舎に引きこもってレコーディングするっていうのは当時かなり珍しいこと。そのためか当時本作はつまらないアルバムとして評価も低かったのですが、僕にとってはポールの孤独や悲鳴が聞こえるようで、聴けば聴くほど深みが増してくるアルバム。そういったところが『Let It Be』に似ていると思うんですが……。ではこのアルバムから“Teddy Boy”をお聴きください―(1)

(1) PAUL McCARTNEY 『McCartney』 EMI(1970)
  この曲はバディ・ホリーへのオマージュというか、自分自身の思春期へのオマージュ。なおかつ、出会った頃〈テディ・ボーイ〉として最高にカッコよかったジョン・レノンに対して、〈あの頃に帰ろう〉というメッセージが込められたラヴレターでもあったんです(涙)。

ポールとは反対にビートルズの解散を心待ちにしていたのがジョージ・ハリスン。映画「ビートルズ/レット・イット・ビー」(70年)ではジョージとポールがケンカするシーンがあったりするのですが、そうした想いが解散後にアナログでは3枚組のアルバム『All Things Must Pass』として爆発したのです。そうとう溜まってたんですねえ(笑)。このアルバムはエリック・クラプトンやデラニー&ボニー、リンゴ・スターといった仲間たちとともに作られているんですが、全体のサウンドをトリートメントしているのがフィル・スペクター。そういう意味で、本作は『Let It Be』に近い人間関係なんです。ではここからタイトル曲をどうぞ――(2)

(2) GEORGE HARRISON 『All Things Must Pass』 EMI(1970)
  スワンプ・ロック~黒人音楽をスペクター・サウンドでまとめる――そんなアイデアをビートルズの解散によって、ジョージは現実化させました。解散をポジティヴなエネルギーに変えることができたのはジョージだけかも。70年代ロックの先駆け!

ジョージとともに解散肯定派だったのがジョン・レノンで、ヨーコとともにソロ活動を始めることになります。彼の代表作『John Len-non/Plastic Ono Band』(ジョンの魂)をプロデュースしているのもフィル・スペクター。でもここでは従来の〈ウォール・オブ・サウンド〉とは違ったアプローチでプロデュースしているのが興味深いところですね。エコーを抑えて、しんとした、ある意味、日本的ワビサビを感じさせるサウンド。音の質感としてはジョージの『All Things Must Pass』とは正反対なのですが、そこに過度期を迎えていたフィル・スペクターの〈揺れ〉を感じさせておもしろいし、ジョージとジョンがそれぞれのソロ・アルバムでスペクターを続投させたのに対して、ポールは自宅に引きこもったというのも、『Let It Be』制作時の背景を知るうえでおもしろいと思います。ではその〈ジョンの魂〉から“God”をお聴きください――(3)

(3) JOHN LENNON 『Jo-hn Lennon/Plastic Ono Band』 EMI(1970)
  この曲で、〈僕はケネディーも、ビートルズも、何も信じない。信じるのはヨーコだけ〉なんてことを歌っているジョン。ヨーコについては仕方ないとして、ビートルズのことを歌うのは早過ぎる(笑)。解散して日も浅いのに。若かったんですね。

そして、トリはやっぱりリンゴ・スター。リンゴは次第に関係が疎遠になっていったほかのメンバー3人を繋ぎ止めたナイスガイであり、ビートルズの解散をもっとも悲しんだ男でした。だからこそ、ソロ・アルバム『Ringo』ではメンバーの誰よりもポップなアルバムを作った。当時売れっ子だったリチャード・ペリーをプロデューサーに迎えて制作された本作からは、“Photograph”(思い出のフォトグラフ)がスマッシュ・ヒット。当時この曲は、ほかのどのメンバーの作品よりもヒットしたんですが、解散後、いちばん先にヒット作を作ったのはリンゴだったんです。では『Ringo』から“It Don't Come Easy”(明日への願い)をお聴きください――(4)

(4) RINGO STARR 『R-ingo』 EMI(1973)
  このアルバムにはビートルズのメンバー全員が参加していて、〈『Abbey Road』その後〉として聴くこともできます。当時僕はジョージやジョンが書いた曲を聴きながら、〈もし本人が歌っていたら……〉なんて妄想したりして。そういう点でも本作は罪深いアルバム(笑)なのです。

解散後の4人のソロ・アルバムを見ていくと、それぞれが〈プチ〉ビートルズとして活動していたような気がします。でも、〈プチ〉だからおいしさもちょっぴり。ビートルズとしてのアルバムがメインディッシュだとしたら、ソロは点心みたいなもの(笑)。思春期を迎えていた僕は、その点心をつつきながら、77年のトーキング・ヘッズ登場まで、ビートルズの影を追い続けていたのでした。というわけで、ウィングスの再評価を願いつつ(ムリかなあ……)、来月もモア・ベターよん!!

鈴木惣一朗

  WORLD STANDARDやRAMなどで活躍、エレクトロニカからルーツ・ミュージックまで幅広い音楽性を発揮する音楽家。身近な名盤を紹介した「ワールド・スタンダード・ロック」など著作も手掛け、その活動は多岐に渡る。最近のプロデュース作としては、RAMのメンバーでもある高田漣の〈奇跡のセカンド!〉(本人談)『素晴らしき世界』(nowgomix)がリリースされたばかり。

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