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第5回 ─ 70'sUKハード・ロックの勇者たち

連載
鈴木惣一朗の貝がらラジオ
公開
2003/08/21   17:00
更新
2003/08/21   18:14
ソース
『bounce』 245号(2003/7/25)
テキスト
文/bounce編集部

ロックがさらにビッグな存在になった70年代。ハードなギター・サウンドに青春の躍動を聴く!!

みなさん、こんにちは。「貝がらラジオ」のお時間です。お相手は私、ペッコリ44歳、鈴木惣一朗でお届けします。さて、第5貝は70年代UKハード・ロックの特集。これまで古~い音楽ばかり紹介してきたので、巷では僕のことを〈50代くらいでは?〉と思ってるみたいですが、そんな歳じゃありません! 僕の思春期は70年代。この時期にUKハード・ロックは花開き、やがてパンクの登場とともに消えていくのです。UKハード・ロックの王者、レッド・ツェッペリンも例外ではありませんでした。当時の雑誌にはこんな文章も。〈ツェッペリンの偉大さを讃えるよりも、クラッシュの今の重要さを讃えよ〉。う~ん。確かに僕もその時期そう思ってツェッペリンを封印したものです(しみじみ)。ところが、最近リリースされたツェッペリンのライヴ盤『How The West Was Won』がオリコン・チャートに入ってくる(!)状況を見ていると、今度は〈ツェッペリンの今の重要さを讃えよ!〉という気持ちになってきます。今の世代にとっては、まさに〈新作〉なんですね。では、そんなツェッペリンの『Physical Graffiti』から〈黒い田舎の女〉(“Ka-shimir”)をお聴きください――(1)

(1) LED ZEPPELIN 『Physical Graffti』 Swan Song(1975)
 グループとしての絶頂期で、制作意欲も高く2枚組になった本作。いってみればツェッペリン版〈ホワイト・アルバム〉じゃないでしょうか? ハード・ロックに限らず、トラッドやフォーク・ブルースも収録されていて、バンドの多面性を窺い知れる名作なのです。

多くの成功したバンドがそうであるように、ツェッペリンも自分たちのレーベルを作りました。それが〈スワン・ソング〉。そこからはバッド・カンパニーやディテクティヴなどというツェッペリンの弟分バンドが登場してきます。心の狭いファンは本家を讃えてその弟分バンドをバカにするのですが、真のファンはその弟分までおいし~く頂く(笑)。なかでもバッド・カンパニーはツェッペリンとも互角に渡り合える実力派でした。では彼らのファースト・アルバム『Bad Company』から、僕がアマチュア時代、最初にコピーした曲“Can't Get Enough”をドウゾ――(2)

(2) BAD COMPANY 『Bad Company』 Swan Song(1974)
 バッド・カンパニーの母胎となったのがフリー。彼らはザ・バンドやウェラーズみたいに空間を生かした音作りをするバンドでした。そこに、グラムやプログレをやっていたメンバーが加わることで、幅の広い音楽性を持ったんですね。

当時はツェッペリンやディープ・パープルが大御所であり、下にエアロスミス、さらに下にエンジェル!なんていうヴィジュアル系のバンドもいました。ベイ・シティ・ローラーズがもてはやされたりして、ハード・ロックもアイドル化していった時代。クイーンもそんな雰囲気のなかでデビューするのですが、徐々に独自のヒネくれたアート・センスを開花させていきます。『Jazz』はまさにそんなアルバム。ぼくは内ジャケの、さまざまな楽器をスタジオに並べた写真を見てグッときてた。〈いつかこんなことやってみたい!〉(笑)。だから今ではスタジオに入ると、使う使わないは別としてある楽器はみんな並べてます(笑)。というわけで、『Jazz』から“Mustapha”をお聴きください――(3)

(3) QUEEN 『Jazz』 Hollywood(1978)
 まずタイトルがヘン。インナーにはヌード写真があしらわれていたりして、彼らのアート性が際立つ作品です。ツェッペリン“Kashimir”と並ぶ中近東ハード・ロック・ナンバー“Must-apha”には、当時の友達はみんなひいてました。“We Will Rock You”で帰ってくるんですが(笑)。

ハード・ロック・バンドが変わったことをやろうとしても、なかなか受け入れてはもらえません。でもミュージシャンは音楽性の幅を広げたくなるもの。ユーライア・ヒープもそうです。彼らの代表作『Look At Yourself』に収録されたタイトル曲では、アフロ・ファンク・バンドのオシビサが参加したりしてます。それに特殊ジャケで、真ん中が鏡のようになっている。〈自分を見つめろ!〉というメッセージなんですね。ちなみに僕は当時ドラマーだったんですが、浜松で行われていたアマチュア選手権に出場、この曲を演奏して見事優勝しました。でもその後、僕はテクノ/ニューウェイヴの流れのなかでリズムマシーンを使うようになり、ドラムを捨て、やがてウクレレを持つことになる……。もしかしたらあのころが僕のドラマーとしてのピークだったんじゃないでしょうか(笑)。では、想い出のユーライア・ヒープ『Look At Yourself』からタイトル曲を――(4)

(4) URIAH HEEP 『Look At Yourself』 Castle(1971)
 たぶん、タイトル曲よりもみんなに愛されているのが“July Mo-rning”。これはツェッペリンの〈天国の階段〉みたいな、叙情性溢れるナンバーなんです。ちなみにここでキーボードを弾いてるのが鬼才ケン・ヘンズレイ。それにしても邦題〈対自核〉のインパクトよ!!

こういった当時愛聴していたアルバムをCDで聴き直す時、そこに懐かしいという感情以外に、やはり何か意味がないとつまらない。でも数年前、こういった旧作を音響的に聴き直すことで、再発見があったんです。今回紹介したなかではクイーンの『Jazz』なんかは特にそうだったんですが、ジム・オルークも僕と同じような耳で聴いていたことを知りびっくりしました。そんなジムも再評価してたのがパトゥー。時代的にちょっとプログレやジャズの要素もあるバンドなんです。ではパトゥーの『Patoo』から“The Man”を――(5)

(5) PATTO 『Patto』 Akarma(1970)
 変拍子を多用してるんですが、とてもスムースで音楽性も高い。音が左右のスピーカーにパンニングされたりして凝った音作りなんですが聴きやすいんです。ちなみにギタリストのオリ・ハルソールは、テンペストからラトルズまでを渡り歩く幅広い音楽性を持った人でもありました。

こうしたハード・ロック・バンドは、どこか60年代のバンドに比べると低く見られているような気がします。ちょうどロックがビジネスとして成立していった時代だった、ってことも関係しているのかもしれません。でもよく聴いてみれば、ハード・ロック・バンドの持っていた(実は)深い音楽性に触れることができると思うんです。ツェッペリンにしても、彼らのアコースティックなナンバーを聴くと、ブリティッシュ・フォーク・ミュージックからの影響を見つけることができます。だから〈ハード・ロック〉という言葉の偏見をとって、バンドの素の部分に耳を傾けてほしいですね。それぞれのバンドの核に対峙してほしい。いってみりゃ〈対峙核〉(笑)!――ということで、また来月!! 〈スタコラ・ツー、ツー・ラコタス〉。

鈴木惣一朗
 WORLD STANDARDとして活動しつつ、NOAHLEWIS' MAHLON TAITSのメンバーとしても活躍するなど、エレクトロニカからルーツ・ミュージックまで幅広い音楽性を発揮する音楽家。8月6日には、伊藤ゴロー、青柳拓次、高田蓮らと結成したバンド、RAMのファースト・アルバム『HOME FAMILY LOVE』(Chordiary)がリリースされます。本誌P110での、にこやかなインタヴューも要チェック!!

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