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第4回 ─ ブルース・フォー・リラクシン

連載
鈴木惣一朗の貝がらラジオ
公開
2003/07/17   17:00
更新
2003/07/17   20:06
ソース
『bounce』 244号(2003/6/25)
テキスト
文/bounce編集部

ブルースが持つ、ゆった~りとした空気感。戦前ブルースから音響シーンに繋がるリラクシンな響きを楽しもう!

こんにちは。今月も〈貝がらラジオ〉の時間がやってきました。お相手は私、鈴木惣一朗がお届けします。第4貝は〈ブルース・フォー・リラクシン〉と題してお送りしたいと思いますが、実は僕自身、純粋なブルース・ファンとはいえないんです。でも、自宅でもっと気楽に聴けるブルースがないかと探していました。例えば戦前ブルースの本を紐解けば、ロバート・ジョンソンやチャーリー・パットンといった名前が出てきますが、そういった人たちの音を部屋で聴くととてもヘヴィーだったりする。もっとリラックスできるブルースはないものか? そうやって探しているうちに見つかったのがミシシッピ・ジョン・ハートだったんです。ジョン・ハートは1920年代にすでに歌を吹き込んでいた人。元は農夫で、飛行機を見ては〈あ、天使だ……〉ってずっと思っていたとか(笑)。ではまず最初に、そんなミシシッピ・ジョン・ハートの『Folksongs And Blues 1963』から“Avalon Blues”をどうぞ――(1)


(1) MISSISSIPPI JO-HN HURT 『Folksongs And Blues 1963』 ヴィヴィド(1963)
ジョン・ハートのいいところは、なんといっても〈響き〉。ブルースってテクニック重視で聴かれることが多いんですが、彼はそんなに巧くはない(笑)。でも、そのたどたどしさが習慣性のある〈響き〉を持っているんです。

ミシシッピ・ジョン・ハートは、ブルース・ファンのなかでは白人的過ぎる、ソフト過ぎるとして敬遠されることも多いようなんですが、僕にはピッタリくるんです。シンガー・ソングライターっぽい佇まいがいいのかもしれません。そんなジョン・ハートの〈女性版〉といえるのがエリザベス・コットン。左利きの彼女は、たまたま右利き用のギターを間違えて手に取ってしまったんですが、そのまま我流で弾き方をマスターしちゃった人なんです。誰も正しい弾き方を教えてくれなかったんですね(笑)。でも、それが味わいある響きを生んでいるんです。アンティ・アリスっていうキュートなハワイアンのおばあさんにも通じるものがある。でもみんな可愛い名前ですね(笑)。ではエリザベス・コットンの『Freigt Train And Other North Carolina Folk Songs And Tunes』から“Freigt Train”を。カワイイよ!――(2)

(2)ELIZABETH COTTEN 『Freight Train And Other North Carolina Folk Songs And Tunes』 Smithsonian Folkways(1958)
彼女も決して巧いアーティストではないんだけれど、とても可愛らしく歌う。ブルース版ブロッサム・ディアリー? ブロッサムのファンなら絶対、コットンのことも好きになるはず!

話をジョン・ハートに戻すと、彼は60年代の白人フォーク・リヴァイヴァルで〈再発見〉されるわけですが、その後、70年代にはアメリカン・ルーツ・ミュージックに対するロック側からの発見/評価も高まります。要するにロックの〈自分探し〉。そんな時、ボブ・ディランは事故に遭い入院し、それをきっかけに彼も〈自分探し〉をする。それが『The Basement Tapes』です。彼は、仕事がなくドラッグとアルコール漬けだったザ・バンドの連中を呼ぶのですが、「正気でいるために毎日演奏した」とザ・バンドのメンバーは後に語っています。そして、アルバム制作の背景には、ハリー・スミスという奇人がアメリカン・ルーツ・ミュージックを纏めた百科辞典的アンソロジー『Anthology Of American Folk Music』の存在があったのです。では『The Basement Tapes』から“Bessie Smith”を聴いてください――(3)

(3) THE BAND 『The Basement Tapes』 Columbia(1975)
本作は、ザ・バンドにとっては生きていくための音楽。ディランにとっては、〈ロックスター〉から自分自身に戻るための音楽でした。そんな強い想いが交差しているからこそ、このアルバムは、いまでも名作として語り継がれているんでしょうね。

アメリカン・ルーツ・ミュージックを学ぶうえで欠かせないコンピ『Anthology Of American Folk Music』を聴いていても、いちばんポップに聞こえるのはやはりジョン・ハート。それがどうしてなのかはうまく説明できないのですが、それってある意味〈ポップスの秘密〉なんじゃないかと思うんです。だから、彼のことを気にしてるミュージシャンはますます増えているみたいで、そんなミュージシャンたちによるカヴァー集が『Avalon Blues』。ではそのなかから、ビル・モリッシーの“Pay Day”をどうぞ――(4)

(4) VARIOUS ARTISTS 『Avalon Blues』 Vanguard(2001)
このアルバムでは僕にジョン・ハートの存在を教えてくれたブルース・コバーンのほかにも、ベン・ハーパーやベックなんかが彼の歌を採り上げています。なかでもビル・モリッシーは、現代にジョン・ハートの精神を受け継ぐ素晴らしいシンガーなんです!

この『Avalon Blues』にベックが参加しているのはとても大きなことだと思います。ベックのナンバーはものすごく音が悪い。つまり音響としてブルースを聴いてるんですね。歌とかギターの技術ではなく音響的な側面でブルースという音楽を捉えている。それはジム・オルークなんかもそうです。僕は家でいつも小さい音でかけるものが決まっていて、セゴビアのクラシック・ギターと、志の輔の落語(笑)、そしてジョン・ハートも一時期よく流してました。どれもその響きを味わっているんです。ジョン・フェイヒィも、ジョン・ハートをひとつの〈音響〉として聴いていて、自分の作品でジョン・ハートに1曲捧げていますし、その感覚はジム・オルークへと受け継がれていきます。そしてベックもまた、彼らと同じ耳を持っているんじゃないでしょうか。ではベックの『One Foot In The Grave』から“He's A Mighty Good Leader”を聴いてください――(5)

(5) BECK 『One Foot In The Grave』 K(1994)
カルヴィン・ジョンソンとコラボレートしたこのアルバムでも、ベックはボロボロの音で、カントリー・ブルースを表現しました。ベックにとってブルースは、ルーツ・ミュージックとして崇めるものじゃなくて、ほかのジャンルの音楽と平等にひとつの素材なんですね。

日常の延長でギターを弾く。農夫が一日の仕事を終えて自宅でギターを弾くような生活感が、ブルースにリラクシンなムードを与えているんじゃないでしょうか。オープン・チューニングだとそんなに弦を押さえないでも、気楽に弾くことができるんです。人に聴かせるというより、自分に聴かせるための歌。だからブルースはひとりで聴くのにぴったり。寝る前とかね。そんな時はビールじゃなくて芋焼酎なんかがオススメです。みなさんもゼヒお試しください! ――というわけで、また来月!!

鈴木惣一朗
WORLD STANDARDとして活動するかたわら、NOAHLEWIS' MAHLON TAITSのメンバーとしても活躍するなど、エレクトロニカからルーツ・ミュージックまで幅広い音楽性を発揮する音楽家。最近リリースされたばかりのお蕎麦コンピ(?)『SOB-A-MBIENT;Music for Your Favorite Soba Shop』(スピードスター)に参加、トム・ウェイツのカヴァーで美味しくお蕎麦を頂いてます!

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