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第9回 ─ ラフ・トレード

第9回 ─ ラフ・トレード(2)

連載
Discographic  
公開
2002/12/19   15:00
更新
2002/12/19   18:46
ソース
『bounce』 238号(2002/11/25)
テキスト
文/妹沢 奈美

喧しくて美しいロックンロール

 ラフ・トレードがストロークスに続く次なる爆弾として彼らのシングル“What A Waster”をリリースした時から、ロンドンの街中の話題はこのバンドに集中した。当然、英国の音楽誌の表紙を飾り、バーナード・バトラーがプロデュースしたこのシングルは大人気に。とはいえレコード契約に関しては、さほど熱心ではなかったようだ。

「実際に何が起きたのか、詳しい話は知らないんだ。正直言って、僕にも謎なんだよ。ある日突然、髪の毛の豊かな男が僕らのリハーサル・スタジオに現れて、〈君たちの曲が気に入ったから、レコードにして出す気はないか〉って訊いてきた。〈そういう君は何者なの?〉と訊くと、〈ラフ・トレードの人間だけど〉と彼が答えたから、〈いいよ〉とその場で契約成立さ。どうやら僕らのマネージャーが手を回してくれたらしいんだ――バニーという、ペルシャ人で、めちゃくちゃな女の子。彼女が何かしてくれたらしいんだけど、具体的にどうしたかは、詳しく知らない。ちょっとした謎なんだ。……もしかしたら陰謀なのかもしれない」。

 ……何がどういう陰謀なんだ、とヤボに突っ込むことは彼らには意味がない。このロンドン出身の4人がめざす世界は、現実の世界を超えた〈アルカディア〉なのだから。

「〈アルカディア〉というのは〈無限の漂浪〉のことであって、想像力さえあれば何でも起こり得る境地なんだ。時々、行き着くことはできるんだよ。まあ、大抵の場合は30分間ぐらいという、短い時間だけなんだけどね。でも、〈SUMMER SONIC '02〉で日本に行った時はずっと、アルカディアにいるような気がしてた。凄く〈自由〉を感じたよ。何か、肌で感じるものがあったんだ」。

 概念先行? いや、その逆だ。彼らがギター、ベース、ドラムという最低限のツールで叩きだす音は、頭で何かを考えるまえに、横ッツラを殴られるほどに〈感じる〉ことができる類のインパクトを持つ。

「その〈最低限〉という言葉に象徴される、〈シンプルである〉ということがカギなんだ。感情や思想の連鎖が一見複雑そうに見えたとしても、僕らが歌っているのは、凄くシンプルなことだと思う。曲の中で語られているメッセージは簡単なことなんだよ。曲はすべてライヴ録りをしてる。その際、お互いがやっていることをちゃんと聞いて、みんなが同じ方向に動いていることをきちんと把握することを、アルバムを作る際にはいちばん心掛けたよ」。

 ちなみに、同レーベルの新鋭で、元ホームレスという共通項も持つA.R.E.ウエポンズについては「喧しくていい」、ストロークスに関しては「美しい」と、好印象を持っている様子。とはいえ、これらは2つともNYのバンドだ。英国出身で、彼らの存在感にもっともよく似たバンド――ジャムについて訊いてみると、一言、「美しく、喧しくていい」。

 ジャムが70年代の若者を牽引できた魅力とエネルギーが、このバンドにも確実に宿っている。喧しくて美しい、リバティーンズに。