サザンオールスターズ、5大ドーム&アリーナ全13ヶ所26公演完走。「ありがとう」を届け切った圧巻のツアー・ファイナル東京ドーム公演のライヴ・レポート公開
Photo by 西槇太一
サザンオールスターズが10年ぶりとなるオリジナル・アルバム『THANK YOU SO MUCH』を携え、今年2025年1月より実施した全国アリーナ&ドーム・ツアー「サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」」が、5月29日の東京ドーム公演をもって大千秋楽を迎えた。
5月29日、時刻は18時30分。客電が落ちると東京ドームを埋め尽くした約5万人の拍手が一気にうねり、サポート陣に続いて野沢秀行(Perc)、関口和之(Ba)、原由子(Key/Vo)、松田弘(Dr)──そして最後に桑田佳祐(Vo/Gt)が姿を現す。ギターを肩に掛け、客席に向け手を振りながら時に丁寧にお辞儀をし、マイクの前に立つ。深く息を吸い込んだ桑田が「はぁ」というため息に続いて歌い始めた1曲目は“逢いたさ見たさ 病める My Mind”。静かに、しかし力強くライヴの幕が開ける。1982年発表の5thアルバム『NUDE MAN』に収録された、主人公が電話に出ない相手に漏らすため息で始まるこの楽曲。もどかしい恋の悩み、切なさを真正面から掬い取るサザンの原点を示すような一曲に、長年のファンは胸を締め付けられ、新世代のリスナーは聴き惚れる。アウトロで桑田が「THANK YOU SO MUCH!!」とツアー・タイトルを高らかに叫び、野沢が刻むカウベルのビートが聞こえてくると、オーバードライヴを噛ませた硬質なギターと躍動するピアノが鼓動を高鳴らせるロック・チューン“ジャンヌ・ダルクによろしく”へ。真紅の引き幕が割れ、眩い照明が拡がり、銀テープと共にスクリーンには「SOUTHERN ALL STARS」の文字が。この一撃で、切なさに揺れたドームが一気に興奮のるつぼに様変わり。脈々と受け継がれるロックの遺伝子を今のサザンが全身で轟かせる――そんな凄みと清々しさが同時に漂う、まさに「熱いステージが始まる」瞬間だった。
「こんばんは! 6年ぶりに帰って参りました。THE ALFEEより年下のサザンオールスターズです!」──軽妙な挨拶で観客を和ませると、“せつない胸に風が吹いてた”、“愛する女性(ひと)とのすれ違い”と1980~90年代の名曲を畳み掛け、ドームにノスタルジーと高揚感を同時に呼び込む。青い照明と波音が広がり、お馴染みのシンセが海面の煌めきを描くと大歓声が上がる。松田が刻むタイトなビートに呼応する関口のベースが心地よい“海”だ。続く“ラチエン通りのシスター”では愛しくも切ない桑田の歌声が響き、“神の島遥か国”では琉球衣装のダンサーの軽やかなステップに客席全体が大きく腕を振って応え、会場が常夏の楽園に。そして、前半の大きな見せ場となったのは“愛の言霊(ことだま) ~Spiritual Message~”。イントロが始まると割れんばかりの大歓声が湧き上がり、燃え上がる炎とブラス隊の重厚なアレンジ、ダンサブルなリズムに繰り返される「抒情詩」(せりふ)が観衆の魂を揺さぶる。
「10年ぶりのアルバムをリリースいたしました!」──桑田の言葉とともに、新作『THANK YOU SO MUCH』のジャケット写真がセンターのヴィジョンに大きく映し出され、アルバム収録の楽曲が披露される新曲コーナーへ。今年2025年の元旦に配信された“桜、ひらり”では、水彩画のような淡い桜のイメージがスクリーンに映し出され、被災地への祈りと未来への希望を浮かび上がらせた。続く“神様からの贈り物”は、軽やかなギターのカッティングとリズム・セクションが生み出すモータウン・ビートが高揚感を誘う一曲。スクリーンには尾崎紀世彦や坂本九、永六輔等偉大な音楽人の映像や写真が次々映し出され、バンドの歩みが偉大な先人たちの系譜の中にあることを視覚的に訴え掛けると同時に、彼等の創造してきた音楽の先に現在のサザンがあるということに胸が熱くなる。続いて披露されたのは、現代の異常気象や今もなお海の向こうで続く紛争を憂う“史上最恐のモンスター”、少ない音数だからこそ歌詞に聴き入り、紡がれた言葉の一つ一つが胸の奥にグッと入り込んでくる“暮れゆく街のふたり”。そしてこの新曲コーナーの最後を飾るのが、原由子がリードする“風のタイムマシンにのって”。鎌倉~江ノ島の海辺の映像と共に爽やかな風を吹かせると、楽器を持ち替えアコースティック・セットに。1stアルバム『熱い胸さわぎ』より、ボサノヴァ調の“別れ話は最後に”で成熟したアンサンブルを聴かせる。
曲目をあえて言わず桑田が1人アコースティック・ギターをかき鳴らしてスタートしたのは“ニッポンのヒール”。会場を盛り上げた勢いそのままに、軽快なリズムと共に始まるメンバー紹介。1つのグループが、時に立ち止まることがあったとしても、47年もの間続き、今も多くの人々に愛され続けていること、それ自体が奇跡のようなことだ。熟練のバンドならではの味わいのあるメンバー紹介に、そんな思いも重なって胸がいっぱいになる。その後披露されたのは、およそ半世紀の時を経て最新アルバムに収録された幻の未発表曲“悲しみはブギの彼方に”。デビュー前に制作されたこの楽曲を、「今」のサザンが奏でる。桑田がのびのびとハスキー・ヴォイスを響かせながら心底楽しそうに鳴らすスライド・ギター。関口のウォーキング・ベースと松田のドラムが生み出す心地よいフィルの上を自由に跳ねる原のピアノと、グルーヴを前進させる野沢のコンガ。そこには、5大ドームを即完させるような巨大なバンドの姿はなく、顔を見合わせて音を重ねることの純粋な喜びに溢れた、若き日のサザンオールスターズの姿があった。紡がれてきたバンドの過去と現在、そして未来を繋ぐ道筋にこの曲があり、間違いなく本ツアーのハイライトの1つと言えるだろう。
アルバムと同じ流れでメドレーとして繋がる“ミツコとカンジ”、そこから銀河を駆ける“夢の宇宙旅行”へ雪崩れ込む流れは、まさに最新形のサザンオールスターズ。夜空に輝く星雲のように無数のリストバンド型「THANK YOU SO MUCHライト」がドームを異空間に誘う。照明やレーザーがロケットの軌跡を描き、会場全体が宇宙船と化したかと思ったのも束の間、誰しもが抱える罪の意識をあぶり出すテクノ・チューン“ごめんね母さん”、EDMをサザン流ディスコに昇華した“恋のブギウギナイト”で東京ドームは巨大なダンス・ホールへ様変わり。煌びやかなドレスを身に纏ったダンサーがステージに現れ、ド派手なネオンとミラー・ボールがギラギラと光る空間に観客が沸き立つ。そこから“LOVE AFFAIR~秘密のデート~”、“マチルダBABY”、“ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)”と怒濤のごとくヒット楽曲が繰り出され、極め付けは戦隊衣装のダンサーが淫靡に乱舞する“マンピーのG★SPOT”。地上波では到底流せない「サザン流至高のエンタメ」で本編を締めると、客席は笑いと熱狂の渦に包まれた。
アンコールは“Relay~杜の詩”で静かに再開。緑色の光の束が荘厳な森を描き出し、重厚なコーラスに胸を打たれていると、続く“東京VICTORY”では、5万人全員が、腕に付けた「THANK YOU SO MUCHライト」とともに拳を一斉に突き上げ、360度見回す限りの光が会場を埋め尽くす。桑田の「もっといきますかー!」の煽りと共に原が弾くイントロで観客を沸かせた“希望の轍”では2023年にデビュー45周年を記念した「茅ヶ崎ライブ2023」の映像が映り、デビュー45周年から続く物語を本ツアーへ、そして未来へと繋ぐ。桑田が着用するTシャツの背中に描かれた「感謝」の文字がヴィジョンに大写しになると、最後のデビュー曲“勝手にシンドバッド”へ。華やかな衣装に身を包んだサンバ・ダンサーに加えて、巨人軍のマスコット・キャラクター ジャビット&シスタージャビットや、トニー谷、プロレスラーのコスプレをした総勢40名を超えるダンサーが入り乱れ、東京ドームは巨大なカーニバル会場と化した。
日本全国13都市26公演、さらにライヴ・ビューイングで楽しんだ全国15万人の観客を含めると約75万人を動員した6年ぶりの全国ツアーはこうして大団円を迎えた。ダンサーやサポート・メンバーがステージを降りた後も、メンバー5人はステージの上手、下手を行き来して深々と頭を下げ、全国47都道府県の映画館で生中継を見守るファンにも感謝を送る。アルバム『THANK YOU SO MUCH』に込めた想いそのままに、音と言葉と笑顔で「ありがとう」を届け切った圧巻のツアー・ファイナルだった。
Photo by 西槇太一
▼リリース情報
サザンオールスターズ
16thオリジナル・アルバム
『THANK YOU SO MUCH』
NOW ON SALE
▼イベント情報
「茅ヶ崎サザン芸術花火2025」
6月7日(土)神奈川 サザンビーチちがさき
開場 15:30 / 開演 19:15(予定) ※雨天決行/荒天中止
▼映画情報
『盤上の向日葵』
10月31日(金)全国公開
監督/脚本:熊澤尚人
原作:柚月裕子「盤上の向日葵」(中央公論新社)
出演:坂口健太郎 / 渡辺謙
音楽:富貴晴美
主題歌:サザンオールスターズ “暮れゆく街のふたり”
製作:「盤上の向日葵」製作委員会
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松竹
(C)2025映画「盤上の向日葵」製作委員会
▼書籍情報
「レコード・コレクターズ2025年4月号」
特集:サザンオールスターズ
カテゴリ : タワーレコード オンライン ニュース
掲載: 2025年06月02日 20:00