宮本浩次、ギター1本で挑戦した「ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り」ライヴ・レポート到着

宮本浩次(エレファントカシマシ)が、53歳の誕生日である6月12日に恵比寿LIQUIDROOMにて初のソロ・ライヴを開催。同公演のライヴ・レポートが到着した。
凄まじいパフォーマンスだった。終演後しばらく経っても、しびれるような余韻の残るステージだった。
6月12日、エレファントカシマシの宮本浩次が、恵比寿LIQUIDROOMにて初のソロ・ライヴを開催した。公演名は「ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り」。この日は、自身53歳となる誕生日でもある。記念すべき日に彼が見せたのは、まさに熱唱という言葉がぴったりくる歌と演奏。生身のエネルギーをダイレクトに伝えるような弾き語りのパフォーマンスだった。
開演時刻を少し過ぎ、ピンと張り詰めた緊張感の漂う会場に黒いシャツを身に纏った宮本が姿を現す。アコースティック・ギターを抱え“風と共に”を歌い始めると、その瞬間に空気ががらりと変わる。思わず惹き込まれる。続けて披露したのは、自身が出演する月桂冠「THE SHOT」CMに書き下ろした新曲“going my way”。歓声と手拍子と共に「ヘイ! ヘイ! ヘイ!」とCMでも聴けるフレーズをエネルギッシュに歌い上げると「すいません、ここまでしかできてないんで」と告げて、“おはよう こんにちは”へ。宮本は叩きつけるようにアコースティック・ギターをかき鳴らし、足を大きく踏み鳴らしながら弾き語る。続けて歌ったのは、美しいアルペジオから始まるスロー・ナンバー“偶成”。1990年にリリースされたアルバム『生活』に収録された楽曲だ。冒頭の朗々とした歌い回しから、身体全体を使って唸り声を上げるようなサビへ、ひとつの曲の中で強烈なダイナミクスを持った歌の表現を見せる。続く“四月の風”も含め、まず痛感させられたのは、宮本浩次の歌い手としての圧倒的な存在感だ。
この日のセットリストは宮本自身の選曲によるエレファントカシマシのナンバーと、そして今年に入って始動したソロ・プロジェクトの名義で発表された新曲たち。なかでもまっさらな新境地を感じさせてくれたのが、続いて披露した“解き放て、我らが新時代”だった。ソフトバンクCMに書き下ろしたヒップホップ・スタイルのこの曲は、この日、マイク・スタンドの脇に置かれたPCで鳴らしたビートと共に演奏。「全部自分で作った音なんで、弾き語りと一緒だということで」と告げて、シンプルなビートと録音された宮本自身のバック・ヴォーカルと共にラップを披露する。途中からはマイク・スタンドを倒し、ギターを置き、マイクを握り、迫真のパフォーマンスで大きな歓声を呼んでいた。
「初めてのコンサートにこんなに集まってもらって、本当にありがとう」と告げた宮本は、エレキ・ギターに持ち替えて“孤独な太陽”を歌い、続けて「大学の授業中に作った歌です」と、“太陽ギラギラ”へ。これまでバンド編成でたびたび披露されてきた楽曲たちが、まったく違った響きで聴こえてくる。オーディエンスと一対一の抜き身の関係で伝わってくる。とても濃密な空間だ。
そして、この日のライヴのひとつのクライマックスとなっていたのが、「♪リキッドルーム、ベイベー!」と即興のメロディで歌ってから披露されたソロ第1弾楽曲“冬の花”。ドラマ「後妻業」の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。音源では小林武史のプロデュースによってストリングスをふんだんに用いた壮麗なサウンドに仕上げられていたが、この日、弾き語りのスタイルで伝わったのは、切なく狂おしい旋律が持つピュアな美しさ。「何回も歌詞を書き直した、すごいお気に入りの歌なんですよね。自慢の新曲です」と宮本も語っていたが、メロディ・メーカーとしての彼の真骨頂を示すような1曲と言えるだろう。
後半は“赤い薔薇”に続けて、高橋一生に提供した楽曲“きみに会いたい-Dance with you-”をセルフ・カバー。この曲もソングライターとしての宮本浩次の新境地を示す1曲と言っていいだろう。バンド・サウンドの枠組みからも、自身が歌うというこれまでの大前提からも解き放たれたことで生まれたダンス・ナンバーだ。音源のアレンジと違いアコースティック・ギター1本で弾き語るスタイルでも、楽曲の持つ情熱的なファンクネスが伝わってくる。さらには会場中の手拍子が巻き起こった“桜の花、舞い上がる道を”から“やさしさ”と続け、MCでは「こんなにたくさんの人の前で祝ってもらえるのは初めてです、ありがとう」と誕生日を迎えた感慨を語る。
終盤はギターを振り回し力強い歌声を放った“ファイティングマン”から“てって”とエレファントカシマシ初期の楽曲を続けて披露。当時宮本が住んでいた団地の部屋で弾き語りの形で作っていたという楽曲たちだ。本編ラスト“待つ男”も、こぶしの効いたパワフルな歌い回しを響かせる。生々しい熱量に満ちた、圧巻のパフォーマンスだった。
アンコールの拍手に応えて再び登場した宮本は、まず口笛も交えて“月夜の散歩”を優しく歌い上げる。さらには腰掛けていた椅子に右足を置き、まっすぐに前を見据え“デーデ”を歌う。「俺の誕生日、祝ってくれて、ありがとう。また会おう!」と告げて“友達がいるのさ”を歌い、最後には“花男”を披露して、深々と頭を下げ、宮本はステージを降りた。
1988年のデビューから30年間、宮本は、ソロ名義の作品やライヴも他アーティストへの楽曲提供や客演も一切なく、一貫して「エレファントカシマシの宮本浩次」であり続けてきた。しかし、53歳の誕生日を迎えたこの日に見せたのは、まっさらな、新しい才能の可能性だった。
バンドの全盛期を更新したエレファントカシマシの30周年アニバーサリー・イヤーを経て、ソロという新たな挑戦に踏み出した宮本。彼は今、アーティストとしての黄金期を迎えようとしている。そういう予感を抱いた一夜だった。
Text by 柴 那典



カテゴリ : タワーレコード オンライン ニュース
掲載: 2019年06月14日 09:52







