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ダンスホール・レゲエ世界侵略の前に立ちふさがる文化/風土の壁

 年明けの自動車事故から奇跡の復活を遂げたビーニ・マンが、新たなトラブルに巻き込まれている。イギリスのゲイ・グループ〈Outrage!〉が中心になって展開している、ゲイ・バッシングのリリックに対する抗議運動のやり玉に真っ先に上がり、最新アルバム『Back To Basics』のプロモーションにもろに悪影響が出ているのだ。まず、7月初頭のイギリス公演は、空港に着いた途端にロンドン市警に逮捕され、歌詞の意味を尋問されたうえ、コンサート自体がキャンセルに。そのほかのヨーロッパ諸国でのツアーもキャンセルになってしまった。ブジュ・バントン、バウンティ・キラー、エレファント・マン、ヴァイブス・カーテル、シズラ、T.O.K.、ケイプルトンらも同じく抗議の対象にされているが、一番煽りを喰らっているのが知名度が高く、先ごろアルバムを出したばかりのビーニで、その動きが飛び火したアメリカでも、〈MTVビデオ・ミュージック・アワード〉のプレ・コンサートを降板させられたほか、所属しているヴァージンとの関係も微妙になっている。ゲイ活動家たちのあまりの勢いに押されて、各スポンサーも弱腰になり、ジャマイカ・カラーを多用したデザインでヒットを放ったブランドの一つも、アテネ・オリンピックでのパーティーでブジュ・バントンの持ち時間を短縮したうえ、彼のドイツ・ツアーのスポンサーを降りてしまった。ジャマイカは同性愛者を表向きは受け入れないお国柄で、ゲイ・バッシングの曲も単純にそれを反映したものである。確かにジャマイカ内で同性愛者の人が攻撃される事件も起きており、ダンスホール・レゲエがそれを促進するというのが抗議をしているグループ側の論点で、ヘヴィメタルが暴力や自殺を喚起する音楽として保守層に嫌われたのと同じ理論だ。先ごろ、イギリスを訪れたヴァイブス・カーテルはBBCのラジオのインタヴューに応え、同性愛者の人々への謝罪に近いコメントを発した途端、ジャマイカの新聞で揶揄されてしまい、各アーティストは国際的な成功と、国での人気の板挟みになっている。行きすぎた事態を是正するため、メディアを中心にした揺り戻しも起きはじめている。9月6日付のニューヨーク・タイムス紙は双方の立場を明確にしたうえ、事実関係を説明した中立的な記事を掲載、イギリスのガーディアン紙は、ダンスホール・レゲエがロンドンのゲイ・クラブで人気があるというDJのコメントを中心にした構成の記事を載せている。ニューヨークではこの流れに屈せず、レイバー・デイ・ウィークエンド恒例のHot97主催のレゲエ・コンサートが9月3日に予定通りに行われた。蓋を開けてみれば、会場のハマースティン・ボールルームの前には抗議のプラカードを掲げた人は12人のみと大人しいものだった。レディ・ソウ、タント・メトロ&ディヴォンテ、ケヴィン・リトル、ベイビー・シャムのほか、問題にされているT.O.K.、ヴァイブス・カーテル、ビーニ・マン、エレファント・マンが出演。ホストのジャバがT.O.K.の件の曲をかけた以外は、完全にゲイ・バッシング・ネタは御法度で幕を閉じた。

掲載: 2004年09月30日 20:00

更新: 2004年09月30日 20:49