SISTER JET 『JETBOY JETGIRL』
目下、〈着火・炎上・爆発〉というスローガンを掲げて大驀進中のスリーピース・バンド、SISTER JETより〈炎上編〉にあたるミニ・アルバム『JETBOY JETGIRL』が到着! 瑞々しい日本語ビート・ロックにスウィンギング・ロンドンの空気を充填し、全力でバーストさせた3人に話を訊いた。
ここで炎上だよ!
――今日は本当にお久しぶりもいいところで、『our first love EP』の時以来だから、もう1年半ぶりぐらいなんですが。
ワタルS(ヴォーカル/ギター)「ホント、お久しぶりです!」
――今回は新作『JETBOY JETGIRL』の取材なんですが、まずは、ざっとこの1年半を振り返りたいなと思って。前にお会いした時からは、だいぶ状況が変わりましたよね?
ワタル「うん。変わりましたね」
―― 私がSISTER JETの名前をよく見かけるようになったのは、今年のアタマ頃からですかね。〈2000年代最後の年に注目のニューカマー〉的な特集がいろいろな媒体で組まれるようになって、かなり取り上げられていた気がします。そこで、「キタキタキタ!」と思ってて。
ショウサカベ(ベース/コーラス)「〈こいつらキタ!〉と(笑)」
ワタル「(笑)……で、5月に『三次元ダンスLP』を出して。なんでその時、(取材に)来てくれなかったんですか!?」
――申し訳ございません(笑)。ほら、誌面に登場していただいたことですし、WEBは……え~と……身を引いたんです!
ワタル「またぁ!」
――でも、ちゃんと〈三次元ダンス〉もチェックしてましたよ?
ワタル「マジですか(笑)? 5月に〈三次元ダンス〉を出した時は、まだお客さんがドカンと増えた感じじゃなかったと思うんだよね。ツアー回って、おっきいイヴェントにも出たけど、お客さん側には〈このバンドは一体なんなんだ?〉みたいに受け止められてるのかなあってことをずっと感じてて。たぶんね、変わったのは7 月のワンマン。その時に〈興味本位で行ってみよう〉みたいなお客さんをガッチリ掴んだ手応えがあって。1時間半ぐらいのライヴをやって、〈あ、 SISTER JETってこういうバンドなんだ〉ってお客さんに伝わって、そんでフェスとか出て、ライヴの動員もボーンと増えてきて……で、やっぱいま、いい状況を感じてるから〈間髪入れずに出そうぜ、ミニ・アルバム。ここで炎上だよ!〉っていう。〈すぐ出す! すぐ出す! すぐ出す!〉って言って……」
――で、この短いスパンで今作が出来たと。
サカベ「スタッフも含めて、みんながすごくいい感じになってきたから」
ワタル「来週の締め切りまであと1曲書いてください、って言われて〈おし!〉って。スタジオ押さえておきました、って言われて〈はい!〉って」
サカベ「〈着火・炎上・爆発〉をモットーにやってるんですけど、今回はそれの〈炎上編〉なんですよ」
――あ、そう言えば来年の春頃に〈爆発〉が起こるという噂を……。
サカベ「爆破予告が(笑)」
ワタル「(笑)決まってますよ。カウントダウンのあれが、回ってるよね」
ケンスケアオキ(ドラムス/コーラス)「ああ、時限爆弾の」
ワタル「そう! 時限爆弾のタイマーが」
――(笑)それも楽しみですが、じゃあ〈炎上編〉に話を戻すと、今回は勢いというか、ライヴ感が前面に出てますよね。
ワタル「そうですね。ライヴ感とか、ビート・バンド感を出したというか。ライヴとかツアーがグワーッて続いてて、ライヴ終わった後に、もうちょっとノリのいい曲なりやり方なりで、お客さんをもっとノリノリにさせたいよね、っていう話はしてて。そのままもうレコーディングって感じだったから、自然とそういうほうに向いてたのかな」
――確かにビート・バンド感はメチャメチャありますよね。でも個人的な意見としては、〈our first love〉の時から……。
ワタル「言ってた、言ってた! ザ・フーとか言ってたよね」
――はい。ワイルドなビートを鳴らす人たちだな、っていう印象があって、そう原稿にも書いたんですけども、世間的なイメージはそうじゃないんだな、ってずっと感じてて。
ワタル「そうそうそうそう! わかる人にはわかってもらえてたんだけど……でも確かに音源もね、やっぱ最初の録音だからカチコチだったし、インタヴューもそうだけど……〈もっと爆発していいんだ〉っていうのがだんだんわかってきて。ホント、今回はあの時言われたことをうまく音像化できたな、って思う」
サカベ「え、前ってライヴ観ないでそれ言ってた?」
ワタル「言ってた、言ってた。〈フーみたいな〉って」
サカベ「へぇ~、鋭え」
ワタル・ケンスケ「鋭え、って(笑)」
――(笑)だから、謙遜してますけど、ちゃんと初作から強烈なビートが鳴ってたんです。ポップなメロディーとかワタルさんの声が持ってるスウィートさとか、もちろんそこもSISTER JETの重要な要素なんですけど、もっと両方同時に伝わってほしいな、って思ってたら……今回のミニ・アルバムですよ。本領発揮というか、地が出たというか。
サカベ「(笑)だから、今回はもっとわかりやすく示したかったんですよね」
ワタル「そうそう。こんぐらいやっちまわないとね、たぶん、伝わらないんだろうな、って」
――じゃあ録った時は、やっちまった感があった?
ワタル「うん。〈来た! これ、やりたかったことです!〉って」
悪ノリが炸裂して、そのなかからいいアイデアを使った感じ
――ちなみに、今回はセルフ・プロデュースですか?
ワタル「1、2曲目は片寄(明人)さんが入ってますね」
――ということをなぜ訊いたかというと、今作はビートがとんでもなく立っていると同時に、アレンジのおもしろさにも耳が行って。シンセの使い方とか、例えば“恋してクレイジー”は……。
ワタル「堀江(博久)さんに弾いてもらったやつね」
―― そうですね。この曲、実はかなりパンチが効いてるのに、ものすごくキャッチーじゃないですか。堀江さんのキーボードにプラスして、サビではミラーボールみたいにキラキラした……ちょっとエモトロニカっぽいシンセが入っていたりとか。他の曲でもエレポップ風の味付けが施されていたり、あと“さよならポケット”ではストリングスっぽいシンセも……。
ワタル「ストリングスに聴こえました? あれ、普通に聴いたら、そう聴こえないんじゃないかなって思うんだけど、そうなんです。彼のアレにも書いてあるんですよ」
――彼のアレ???
ワタル「(ジャケット上のケンスケのクレジットを指して)ドラム、コーラス、プログラミングって書いてあるの。意外とケンスケはアレンジャー気質というか、セルフ(・プロデュース)ってなった時に〈こんなん作ってきちゃった~、笑って流して〉みたいな感じで(アレンジ版を)持ってきて。“バイバイハニー”の〈テレッテッテッテッ〉みたいなところも弾いてたし、新たな一面がすごい出た、って感じがしたけど」
ケンスケ「最初はギャグでね、ストリングスだけじゃなくラッパとかまで入れてたんですけど」
ワタル「それは消した。〈要らねえよ!〉って(笑)」
サカベ「ラッパも良かったんだけど、ロックっぽくないね、って」
ケンスケ「2、3回みんなで聴いてるうちに〈これ、意外とおもしれえな〉と思って、そのまま入れちゃった」
ワタル「でも、すごい雑に入れてくるの、それを。スタジオで聴くと、リズムがまったく合ってないの。だから〈もう1回弾いて〉って言ってんのに、〈同じフレーズはもう弾けない〉とかアーティスト的なことを言うし。堀江さんがそれ言ってたのは格好良かったけどさ、お前は弾けってことだよ!」
ケンスケ「違う、違う(笑)。俺はトラックを何個も作って、こっちでこうやって弾いたらそれに合わせてそっちでも弾いて、そこに〈足りないから真ん中にもこういうのを入れよう〉とかやってるから弾けないの!」
ワタル「そうか。三部構成だ」
――勝手に話が進んでますね(笑)。
サカベ「(笑)っていうのもあれなんですよ。レコーディング中、横の部屋で遊びみたいにパッパッパッてやってたら、それがすごい良くて」
ワタル「結局、暇じゃないですか」
ケンスケ「ドラマーはね(笑)」
ワタル「ウェイティング時間が長い。リズム録っちゃって、あとかぶせって言ったらギターと歌、コーラスだから、ほとんど俺だけだし。この2人はみかん食って遊んでるぐらいしかないから、〈じゃあ、いっちゃう?〉みたいな。悪ノリが炸裂して、そのなかからいいアイデアを使ったって感じかな」
ビートルズしか聴いてないんです、っていうキャラでいたい
―― あと、このバンドにはデビュー当初から〈ダンス〉っていうキーワードがあって。ビート・ロックで〈ダンス〉を掲げてるバンドって当時はあんまりいなくて、最近だとTHE BAWDIESとかと共振する部分があるのかな、と思うんですけど、シーンの状況もだんだん変わってきてるのを感じます?
ワタル「そうだね。周りも変わってきたね」
――ただ、SISTER JETのおもしろいところは、横の繋がりがないところから……というか、ホントに3人だけで、いきなりポーンと出てきたところかなと(笑)。
サカベ「ああ~、そうですね(笑)」
ワタル「そうなんだよね。友達がいないところから(笑)、〈これが最高だ!〉っていう3人の勝手な趣味と解釈で。でも本当にそうだと思う。もちろん横は意識してるんだけど……」
サカベ「うん。むしろすごい意識してますね」
ワタル「でも友達になりたいとは思わない!」
サカベ「友達になってくれないっていうか(笑)」
――(笑)3人の勝手な趣味と解釈で、っておっしゃってましたけど、確かに最初から自信がありましたよね。
サカベ「そうですね。こういう音楽やってる人っていまいないし、俺らはこれが2010年の音楽であると思ってる。自分たちのセンスを信じてるし、お互いリスペクトし合ってるから、だから間違いないって思えるんじゃないかな」
――加えて、〈踊らせる〉ために不可欠なグルーヴも相当強化されてきていると思いますが。
ケンスケ「ああ~、うん。軸になるものが自分のなかでないとイヤなんですよ。例えば、ハウス・ミュージックは4つ打ちっていうのが大体あるじゃないですか? だから周りがどうあってもバランスが保ってられる。そういうのがバンド(・サウンド)にもあって、それはみんなに見えないけど、自分のなかでそういうリズムを常に取り続けてられる状態じゃないとイヤで、このミニ・アルバムにはまだそれがある……あっ、〈まだ〉とか言っちゃった(全員笑)。いままで以上にちゃんとできてますね(笑)。だからなんか、それを崩したくないな、って最近はすごい思ったりしてて。みんなが必ず帰ってこれるリズム感っつうか。しかもポップなもので」
――だからこそ、リズム隊は暴れられるとか? 今回は、〈何やってんの!?〉って指さしたくなるぐらい暴れまくってますよね(笑)。
3人「あははは(爆笑)!!」
サカベ「いい突っ込みですね(笑)。そんなに不思議な感じになってますか?」
――ドッカン、ドッカンいろんなところにぶつかりながら、物ともせずにとにかく突き進んでいく、みたいな暴走ぶりが素晴らしいというか。
ケンスケ「サカベとか、すごいジャンキーみたいなベースだなって、最近になって思ったけどね(笑)。ホントにぶつかりまくってるっていうか(笑)」
サカベ「俺はケンちゃんのドラムのほうがそうだと思いますけどね。この人いっつも……なんて言ったらいいんだろうな? 感覚がすごい麻痺してるっていうか、とにかくパワフルでカオティックなもの好きで。エキセントリックな趣味なんですよ」
――そういう部分が含まれていつつも、〈キャッチーでピュアなビート・ポップス(前作のキャッチコピー)〉って言わせてしまうミラクルがこのバンドにはあるんですよ。
ケンスケ「そう! そこなんですよ。そこを崩しちゃダメですよね」
ワタル「やり続けないと」
ケンスケ「そこを、何とかして俺が守ってる」
ワタル「何? キーパー(笑)?」
ケンスケ「それは、2人にはわからないかもしれないけど、みたいな」
ワタル「別にわかりたくもないです!」
――まあまあ(笑)。で、今作はビート・バンド感を打ち出しながらも、楽曲を聴けば、リスナーとしての3人はブリティッシュ・ビート一辺倒でもない、っていうことがわかるわけで。
ワタル「うん。そんなこと言いながら、聴いてるのは全然違ったりするよね。俺は、シンガー・ソングライター系が好きだったり」
――例えば?
ワタル「そのなかでも最高峰なのは、ジュディ・シルとか、ジェイムズ・テイラーとか。最近はソウルも70年代のものを聴いてるし……もちろんビート・バンドは好きだけど、それは聴きすぎて飽きちゃったって感じで、別のとこに行っちゃってる。俺、思うんだけど、けっこう俺らって音楽ファンだよね? あんまり表には出さないけど」
ケンスケ「うん」
ワタル「なんかの雑誌に俺ら、〈実は洋楽のバックグラウンドがありながら、それをマニアックに出さない〉みたいに書かれてて、そこが強みなのかなって思った」
ケンスケ「出さないっていうか、出したらそのままになるっていうのはあるんじゃないの?」
ワタル「いやいや、だって、俺らって(取り上げられ方を見ると)なんか頭悪そうじゃん。ビートルズしか聴いてないんです、みたいな感じでさ。だから逆に、ビートルズしか聴いてないんだけど、って言いたいんだよ」
ケンスケ「それはある。言いたい」
ワタル「ビートルズしか聴いてないんです、っていうキャラでいたい。もっと音楽知ってる人、いっぱいいるしね。だから〈俺たちなんも知らないんです、でもこんなん出来ました〉っていうほうが格好良いな、って」
――とにかく出す音が格好良ければいいですもんね。
ワタル「うん」
――それで、だんだん状況が良くなってきてるっていうのは、いい音楽をブレずに鳴らしてきたっていう証拠だと思うし。
ワタル「うん」
もうラヴソングは歌わない!?
――似たような話で言えば、〈ラヴソングしか歌わない〉っていうのも、ある意味でフィルターになっちゃってるのかもしれないですね。
ワタル「うん。でも、これはオフレコだけど、次(の作品で)はもう言いたいことを言おうかな、と思って。最近、歌詞書いてると〈ここで1回吐き棄てようかな〉って思うんですよね」
サカベ「いいじゃん、それ。オフレコじゃなくて」
ケンスケ「オンで」
ワタル「オン? こういうのこそ、オン? 次はホント、いいたいことをブチまけたい。言葉遣いもちょっと悪くしたい、と思って……(全員笑)」
サカベ「言葉遣いを悪くしたい、って(笑)」
――メチャクチャわかりやすいところから(笑)。
ワタル「うん(笑)。それが、逆にスウィートな曲に乗ってるみたいな」
サカベ「うん、おもしろいね」
――それはラヴソング以外にも言いたいことが溜まってきてるってこと?
ワタル「溜まってきてますね。うーん、ラヴソングと言えばラヴソングなのかなあ? でも恋愛とかじゃなくて、俺からの、みんなへの大きな愛というか」
サカベ「ディスるのも愛のうちのひとつだもんね」
ワタル「いやいやディスるとかじゃなくてさ。なんかねー、俺、基本的に女の子のことと、ちょっと音楽のことを考えていて」
――音楽はちょっとなんだ(笑)。
ワタル「うん。8:2ぐらいですかね(笑)。でまあ、女の子のことを考えていて、叶わないことが多いと。それが歌詞に出てるんだけど、それって自分だけの問題だったりするし、もうちょっとね、それ以外にも言いたいことがいっぱい出てきた。次はすごいことになるかもしれないですね。あとまあ、いまは〈聴いてくれる人がいる〉っていうことを自分のなかで感じられる状況でいるから、そこで、俺っていうのを初めて出せるというか。臆病なんですよね(笑)。だから、最近は〈いい状況だからこそ、言いたいこと言いたいな〉ってすごい思う」
サカベ「どんどん爆発に向かってきてますね(笑)」
ワタル「爆発してますよ」
――だけど今作だって、恋愛をテーマにしていても〈この時代のユウツなぼくらの〉とか〈憂鬱〉という言葉がいくつか出てきているし、ラヴソングと言ってもだんだん変わってきているというか。
ワタル「〈our first love〉の時はホントに、ビートルズで言えば〈ラ~ヴ、ラ~ヴ・ミ・ドゥ♪〉だったからね。それが、最近はけっこう言いたいことを織り交ぜつつで……次は『Help!』が出るっていうことですね」
――爆発ポイントが『Help!』か。なるほどね。
ワタル「で、〈ホワイト・アルバム〉は4年後ぐらい」
――そっか。道のりは長いですね。
ワタル「長いよ(笑)。でも、毎回こういうふうに変わっていってるのが目に見えるのは、見てるほうも楽しいと思うんだよね。例えばアー写だって、単に違う角度から撮っただけみたいなのを3枚、4枚並べられてもおもしろくないじゃん? いまね、〈これをやりたい〉っていうモードがその時その時で変わってってるのを感じてて。〈三次元ダンス〉はけっこうベスト・アルバム的な感じではあったけど、今回で〈大騒ぎ〉な作品を出して、次は『Help!』で言いたいこと言って……そういうふうにどんどん変わっていけるぐらいの音楽的なバックグラウンドが俺らにはあるし、そうやって突き進めるようなバンドだな、って、これ作って感じたな。その時々でコンセプトを持って」
サカベ「そうね。あの、洋楽ってそういう意識が高いじゃないですか。新しい価値観を、ってどんどん前に進んでいく。自分たちにもそういう意識があるから、なかなか同じような曲はできないし。そこは変えたくないですね」
――ちゃんと変わっていけないと、バンドって長く続かないですしね。
ワタル「そう思う。その第一歩として、やっぱ歌詞でブチ壊しますよ。3枚、ラヴソング歌って……〈もうラヴソングは歌わない〉ってやるか(笑)」
――次で? それはまた極端な(笑)。
ケンスケ・サカベ「それいいね(笑)」
ワタル「あんだけ〈ロックはラヴソングじゃねえのか!〉とか噛み付いといてさ(笑)」
サカベ「で、その次では戻ってるんでしょ(笑)」
――〈ラヴソングしか歌わない!〉〈もうラヴソングは歌わない!〉と続いて、次は〈やっぱ、ラヴソングだよね!〉とか(笑)?
ワタル「いいね。それでいこうか(笑)?」
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