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インタビュー

般若 『コンサート』

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年07月24日 17:59

更新: 2013年07月24日 17:59

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次



前号に続き、今月は般若自身に『コンサート』を語ってもらおう。ひたむきに己と向き合い、それでも前を向いて表現に取り組む男の姿がここにある



般若_A



自分自身が開かれていたタイミング

「『BLACK RAIN』は……凄く簡単に言うと、堅くて、やっぱ暗いイメージですよね。作ってる時期に〈3.11〉をちょうど跨いじゃったから、まあ、それはそうなる。でも、決して明るくはない艶な部分と、全体的に絶望ではない部分もあって、そこは一貫してる感じですね」。

自分の作品について「リスナーとしてはあんまり好きじゃないんっすよ」と言って憚らない男ではあるが、期せずして重い意味を背負うこととなった前作を振り返る眼差しは淡々として客観的だ。そして、その視線は静かに次へ向かっている。ストイックに己と向き合う、一筋縄じゃいかない憎まれっ子が作り上げた7枚目のアルバム『コンサート』。あらかじめ言っておくと、これは般若の最高傑作だ。

アルバムに向けた制作は昨年の夏頃からスタートしたものの、「俺はイメージするのに時間がかかるから、ちゃんと全体のイメージを自分でわかってきたのは年末、年明けぐらい」。つまり、昨秋に配信された先行シングル“終わる日まで”と“はいしんだ”は、アルバムの全体像が固まっていく過程の産物だったということになる。特に後者は「ネガティヴな情報ばっかりうるせえなと思って」というリアルタイムな苛立ちをSAMI-T(MIGHTY CROWN)と共にぶっちゃけるダンスホール・チューン(プログラミングとミックスにはスティーヴン・マクレガーも関与)だったが、アルバム全体のムードがそういったテンションに引っ張られているわけではない。それらシングルを除いて最初に出来た曲は、穏やかなクロージング・ナンバーの“友達”だったそうだ。

「あれはすんなり書けた曲。(同曲を手掛けた)PENTAXX.B.Fをはじめ、今回のトラックメイカーはいままで以上に、みんな良い仕事をしてくれて、頭が上がんないっすね。俺も凄い開けてたし、いいタイミングでやれて良かったです」。

そのPENTAXXやRoderickは過去の公募によって縁のできたトラックメイカーながら、今回は結果的にすべて般若の側からアプローチしたそうで、怪曲“タケダ、ラップ辞めるってよ。”などを手掛けるALI-KICK、“船は揺れている”のJIGGら初顔合わせの名前も多い。SAYの溌剌とした歌唱が洒落たビートに馴染む“Longtime Friend”では久々にBACHLOGICと合体してもいる。例えばRoderickによる表題曲ではアウトロ部分にウォブリーなベース(般若いわく、毎日のフィジカルトレーニングの際に聴きたくなるノリだという)が唐突にドロップされるが、そうした細部の演出もひとつひとつ要望をやりとりしながら、入念に仕上げていったそうだ。



とても清々しい

——アルバム・タイトルはどういうニュアンスの言葉ですか? 〈ライヴ〉や〈ショウ〉とはまた違うニュアンスですよね。

「これは初期段階ですんなり降ってきたタイトルなんです。作りはじめた時にもう俺の中で言葉が直結して、恐らく『コンサート』ってアルバムだなって。〈コンサート〉っていろんな要素があるじゃないですか。クラブのパフォーマンスとも違うし、〈ライヴ〉っていうのとも違うし、もうちょっと豪華で、いろんな色彩のある、緑黄色野菜があって、真っ赤なトマトがあって……俺的な表現ですけど、そういう感じのものです」

——そのカラフルさが、最初のイメージでもあったということですね。

「そうっすね、打ち出し方としては。あと今回は細かいところに気を配ったかな。曲順や曲間、全体的な聴かせ方とか。それと、凄く日本語にこだわった。〈マザーファッカー〉とかも入れないで。聴いてもらえれば、どの作品よりも日本語が入ってくると思うんですよ。前からやってるけど、もっと追求したくて」

——滑舌も良くなってるように思えます。

「どうなんですかね。普段は〈何言ってるかわかんない〉ってよく言われるから、ラップぐらいしっかり聴かせようかって(笑)。ただ、ラップ慣れってあるじゃないですか。まったくラップ慣れしてない耳にも伝わるようにしたいなと。フロウをマニアックに突き詰めればもっとやれるけど、そこはあえてやらないっていう判断もありました」

——歌い方もいろいろで、例えば“譲れないモノ”はラップに馴染みがなくてもわかる、童謡みたいに素朴な味がありますね。

「CAMELのトラックを聴いた瞬間、何年かぶりにすべての絵が見えて。あれ、2、3分で作ったんですよ。録るのもほぼワンテイクだったし。後からCAMELが歌を入れたり細かく作業してくれて。久々に衝動に駆られたっていうか」

——〈衝動〉っていうと言いっぱなしみたいですけど、ここ数作の般若さんは特に言葉の届け方を凄く工夫されてる気がします。

「それは凄く考えてますね。落語を観たりしてると、間の重要性とか、言葉の流れとかオチの付け方とかがよくわかるし、漫才もそうっすよね。サンドイッチマンとか大好きなんですけど、やっぱ巧いじゃないですか。突拍子のなさとか、タイミングの外し方とか、そういうのは凄い気を遣ってる。それは毎週くだらないブログ(文章ではなくフリースタイルをアップしている)やってるから、そういう意味で瞬発力が鍛えられてきたかなと思うんですけど」

——ブログがあることで、作品として出す曲は作り込む度合いも強くなりました?

「おのずと強まりますよね。ブログは趣味なんで、旬なものを入れたり、その時に試したいことをやってるだけで」

——作り込みということで言うと、特に後半の流れが素晴らしいんですが、ALI-KICKさんの“ひとつ”はリリック面でも考えさせられる内容で。

「俺の中では大切なこと、避けられないことだったり。凄く深いところまで行く話になっちゃうけど、この曲については、みんな否定はできねえんじゃねえかなという部分が入ってますね。うん」

——民族差別と国家間の関係って、一口には語りづらい、重いテーマです。

「うん、それも言いたかった」

——“存在”にはまた違う重さがありますけど、DJ Mitsu the Beatsさんのジャズっぽいトラックと絡むのも新鮮でした。

「デモを貰った時に、これいいな、楽器入れたいな、と思って。彼も昔からどこかのタイミングでやりたいと思ってた一人ですね。あと、ずっとTOKONA-Xの声を自分のアルバムに入れたくて……あのフレーズを凄く入れたかったんですよね」

——初顔合わせでいうと、オープニングの“朝、目が覚めて”を手掛けるstillichimiyaのYOUNG-Gさんもそうですね。

「僕は彼らにめちゃくちゃヒップホップを感じてるし、尊敬してるんですよ。で、自分の中ではYOUNG-Gの魅力が大きくて、凄くクリエイティヴな人間なんです。めちゃくちゃ細かいやり取りを何回もして、彼もそれに情熱で応えてくれて……作ってる最中からこれが1曲目だなって思ってました。とても清々しい、抜けるような空みたいな絵がね、あのトラックからは出てくる」

——この曲のトーンがアルバム全体の明るい色合いにも繋がっている気がしました。

「うん、自分にしては意外に明るいところを選んでったっすね」

——“終わる日まで”もリリックだけ見てると明るさと暗さが半々なんですけど、曲を聴けばポジティヴな響きが残ります。

「NORIKIYOも凄く良いヴァースをやってくれたし、あの曲に関してはそうアレンジしていったんです。わかりやすく言うと〈希望〉だったりとか」

——そういうアルバムになりましたね。

「少なくとも、地べたに唾吐いてるようなヴァイブスではない。明るいかどうかはわかんないけど、大まかに言うとそうですね」

——いままででいちばん好きなアルバムです。『HANNYA』にあった要素が、『BLACK RAIN』を通過して混じったというか、強くなった気がします。

「かもしれない。俺も今回がいちばんいいんじゃないかなと思います」



自分でやって見せていく

恐らく、般若がこういう作品を作(ってい)る人だと知らない人も多いのではないか。楽曲に触れたことがなければ、彼を一面的にハードコアな存在だと分類して素通りしているかもしれない。もしくは往時の印象が強い聴き手ほど、破天荒な危険物というイメージを抱いたままかもしれない。そうしたギャップについては「〈まだいるのかコイツ〉って思われてるんでしょうね」と述べつつ、それでも彼はマイペース。アルバムの華やかな〈コンサート感〉という点では珍しく客演ラッパーがいるのもトピックだが、本人は「そこに対するこだわりは、別にないんで」とあっさり。

「いつも〈ゲストがいない〉とか言われること自体がよくわかんなくて、まず一人で曲もやれないんじゃ意味ねえだろって思うし、やるなら最高のタイミングで、最高の人選でやるからこそ意味があるって思ってるんすよね」。

なお、田我流とZONE THE DARKNESS、SHINGO★西成を迎えた“倍ヤバイ”は、リミックスの配信も決定。オリジナルではフックのみを担ったSHINGOがヴァースもドロップし、〈UMB〉の岡山予選を制した実績もある紅桜と、〈高校生ラップ選手権〉準優勝で知られる静岡のGOMESSが新たに登場だ。今年3月には若手主体のイヴェント〈乱 THIS TOWN〉もSHINGO★西成と共に開催した般若だが、自分なりの歩みを続けること自体が後進にとっての道標なのは間違いない。新作を引っ提げてのツアーは、年明けのSHIBUYA-AXまで続く。

「やってる奴らの意識も凄く変えたいけど、まずは自分が見せていかないと周りも変わんないんで、まずはそれしかないですね」。



▼『コンサート』参加ゲストの作品。
左から、NORIKIYOの2011年作『メランコリック現代』(諭吉)、MIGHTY CROWNの最新コンピ『MIGHTY CROWN PRESENTS LIFE STYLE RECORDS COMPILATION VOL.5』(LIFE STYLE/ユニバーサル)、SHINGO★西成の2012年作『ブレない』(昭和レコード)、田我流の2012年作『B級映画のように2』(Mary Joy)、ZONE THE DARKNESSの2012年作『DARK SIDE』("S"Muzik)、SAYのコラボ・ベスト『Sing wit You!! 〜10th Anniversary Featuring Best〜』(インペリアル)

 

 

▼参加トラックメイカーの関連作を一部紹介。
左から、YOUNG-Gが参加した2012年のコンピ『HEAVYSICK ZERO 10TH ANNIVERSARY』(HEAVYSICK ZERO)、DJ RYOWのライヴDVD+ミックスCD『LIFE GOES ON LIVE DVD AND MIX TAPE』(MS)、ALI-KICKが属するRomancrewの2011年作『ロマンのテーマ』(ファイル)、DJ Mitsu the Beatsの2013年作『Beat Installments Vol.2』(Jazzy Sport)

 

▼関連盤を紹介。
左から、DJ FUMIRATCHのミックスCD『般若万歳』(昭和レコード)、“WHO ARE U?”の2009年版を収めたDJ RYOWのミックスCD『BEST OF TOKONA-X』(MS)、般若が客演したI-DeAの新作『12ways』(Flashsounds)

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