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インタビュー

TOWA TEI 『LUCKY』



〈角丸〉感のある音が、近作以上に開放的な印象を与える新作。それはまるで、PCを携えたシンガー・ソングライター作品のようで……



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「7枚目のアルバムだから、〈ラッキーセブン〉の『LUCKY』。そのままなんだけど(笑)」というTOWA TEIの新作『LUCKY』は、その気負いない語り口からも窺い知れるヌケの良さと、タイトルから喚起されるポジティヴなムードを全編に纏ったアルバムだ。『BIG FUN』や『SUNNY』といった近作の軽やかな感触を継承しつつ、より開放的で自由に拡散するサウンドが詰まっている。

「前作の『SUNNY』では、〈気持ちのいい晴れた日だけに制作する〉という実験的なコンセプトを立てたんですけど、今回も気分的にはその続きですね。ノートPCを持ち歩いて、曲を作りたくなった時だけ作る。温泉宿で作ることもあるし、移動中の新幹線でアレンジを進めることもある。そうやっていろんな場所で曲を形にしていくプロセスは、ギター1本でさすらうシンガー・ソングライターに近いのかなと。自分の場合はギターの代わりにPCを抱えて」。

日本語詞の歌ものやエキゾで和みモードのインスト、穏やかなボサノヴァなど、スタイルはさまざまながら、いずれの楽曲も選り抜かれた音数でシンプルにまとめられており、余白を取ったサウンドが優雅に響く。電子音を主軸にしながら、耳に優しい柔らかな音像で統一されているのも印象深い。

「昔はもっとたくさんの音を入れ込んでいたけど、それは自分の言いたいことに自信がなかったり、ひとつの曲のなかでいろんなことを言おうとしていたからかもしれない。いまは伝えたいイメージを明確にするためにも、なるべくシンプルに成立させたいし、経験を積むことでそれができるようになったのかなと思います。音の手触りに関しては、エッジが効いているようで、よく見ると角が丸まっているようなものが好きなんですよ。昨今の世間は刺々しいけど、そのなかで刺々しい音を出すのは簡単だし、やりたくない。自分なりの楽しくて〈角丸〉感のある柔らかな音を提示していくことのほうにやりがいを感じるんです」。

シンプルに磨き上げられたサウンドに華やかな色を添えているのがゲスト陣だ。椎名林檎に手嶌葵、YMOの3人といった名うての歌い手やヴェテランのミュージシャン勢を招聘する一方で、DORIANやPredawnといったフレッシュな顔合わせも実現。モデルの玉城ティナと中田絢千という「音楽的にはド素人」を混ぜ込むあたりもTOWA TEIらしい采配だ。

「中田絢千ちゃんはモデルとして出会ったんですけど、フランス語で歌える人を探していたら〈できますよ〉というのでお願いして。もちろん、もっと確実な人を探すこともできるけど、僕はそういう縁が大事だと思っているので」。

心地良いビートも、ファンキーなベースも、ここにはふんだんに盛り込まれている。しかし、現行のダンス〜エレクトロニック・ミュージックのタームを引き合いに出して説明しづらいアルバムだし、そういった行為はそもそも意味がないかもしれない。もとより唯一無二のスタイルを携えた作り手だが、その独自性を際立たせ、自身の表情やエモーションを打ち出しているという意味でも、シンガー・ソングライター的な作品だ。

「若い頃は、近いテリトリーの音楽と比べながら曲を作ったりもしたけど、もうそういうリファレンスすらしません。ほかの誰かの曲よりも自分が作る音に興味があるし、自分の作品をもっと聴きたいんですよ。いまはそういうシンプルなモチヴェーションでやっています」。



▼『LUCKY』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、高橋幸宏のニュー・アルバム『LIFE ANEW』(ユニバーサル)、細野晴臣の2013年作『Heavenly Music』(スピードスター)、坂本龍一+テイラー・デュプリーの2013年作『Disappearance』(commmons)、DORIANの2011年作『Studio Vacation』(felicity)、椎名林檎の2013年のシングル『いろはにほへと/孤独のあかつき』(ユニバーサル)、手嶌葵の2011年作『Collection Blue』(YAMAHA)、Predawnの2013年作『A Golden Wheel』(Pokhara/HIP LAND)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月22日 14:40

更新: 2013年08月22日 14:40

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/澤田大輔

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