インタビュー

INTERVIEW(2)――悪役は作りたくない



悪役は作りたくない



高橋優

——しかも、1曲のなかでも表情はどんどん変わりますよね。たとえば“蛍”では〈姉ちゃん今日も可愛いや♪タワワや♪〉というような歌詞から始まり、後半では〈「こっちの水は苦いぞ」って謳うのはヒーローかな? 風評かな?〉と展開していく。こういう曲はどうやって出来ていくんでしょう?

「蛍が自分のおしりを光らせて仲間を探し求めたり、自分の居場所を誰かに知らせようとすることって、雑踏のなかにまぎれている僕らが〈自分はこういう人間だ〉ってアピールしているようなものだなっていうところが、“蛍”という曲の発端になったんです。人と蛍を混ぜ合わせて一つのテーマを見つけようというところから作っていきました。ユーモアとシリアスとの共存は自分のなかで楽しい作業の一つなので、自分自身、かなりおもしろがりながら作りましたね。でも、少しでも言い回しを間違えると、誰かをおちょくったりバカにする感じになってしまう。そこは大変でした」

——確かに、風刺も含まれるけれど、ユーモラスでもある。このバランス感覚は絶妙だと思います。

「ただ説教がましいだけでも、ふざけてるだけでもない、どっちなのかわからないあたりがすごくおもしろいと思うんですよね。そこを追求しようと書いていました。誰か悪役を一人作るわけではなく、暗闇のようなものと、人の滑稽さみたいなものを歌えたらいいなっていう」

——なるほど。そういえば、高橋優さんの曲に悪役はいないですね。

「悪役は作りたくないんです。誰かが悪いとか、誰か一人が滑稽だという話ではなくて、その全体が〈捨てたもんじゃない〉と見えるようにしたい。笑える部分もあるよねって。そういうものになればいいなと思います」



前進することが一貫したテーマ



高橋優

――アルバムの構成としては、イントロ的な“序曲”から“蛍”、“誰がために鐘は鳴る”、“雑踏の片隅で”という曲順で始まることにすごく意味があると思うんです。ここで、2012年の日本を描いたアルバムだということがすぐに伝わる。そういう作品にしようという意識はありました?

「ありましたね。すごく強くありました。“蛍”から始めたいというのと、そこから“誰がために鐘は鳴る”に繋がる流れは変えたくなかった。音楽的に心地良い気もするし、メッセージとしても少しずつヒントが見えていく気になる」

――“雑踏の片隅で”も情景描写から始まる曲ですけれど、歌詞の最後では〈それぞれのゴールを目指して〉と歌われていますよね。“蛍”でも最後には〈嘆いて悟って立ち上がって明日へ踏み出していく〉と歌われている。他にもいろんな曲で〈明日に向かって歩きはじめる〉ということが着地点になっていると思うんです。これは、いまの高橋優さんの〈こういう歌が歌いたい〉という意志が反映されたんじゃないかと思うんですけれども。

「それは大正解ですね。情景描写をしたり、何か一つテーマや題材を持ってきて歌うときは、そこで立ち止まって、考えているような状態で。そうして、また歩き出す。それって、悩みごとを抱えているときに似ていると思うんです。挫折している状態というのは、自分が歩んできた道に迷いを感じて立ち止まっているというイメージがあるんですね。立ち止まっていると、人は苦しくなる。どうしていいかわからなくて踏み出せないでいる状態が、一つのキーポイントになっていて。だから〈明日〉という言葉を歌っている。〈いま〉と〈明日〉ということを今回のアルバムでは意識していますね。前に踏み出すとか、羽ばたくとか、前進するということが一貫したテーマになっていると思います」

――それは、そういう歌が求められているという意識があったんでしょうか? それとも、自分のなかから自然に出てきたものだと思います?

「自分から出てきているのが大きいと思います。僕自身、何かにつけてすぐ悩むし、立ち止まりやすい人間なんですよね。弱気になりがちだし、自分に自信が持てないときもある。大好きな人のことを疑ってしまうこともある。そういう自分へのメッセージでもある、というか。そんな自分の本音を書き連ねていくと、そういう言葉が出てくるんですよね」

――“卒業”はラジオのリスナーからのメッセージがヒントになった曲ということですけれども。どういうようなことを思いながら作っていったんでしょう?

「〈“ほんとのきもち”を教えて〉というテーマで、みんなからのメッセージを募ったんです。で、みんなからメッセージがきたときに、自分の立ち位置を考えたんですね。自分は、いろんな人たちの上に立っているような特別な人間じゃない、カリスマじゃない、と思った。たまたまみんなのメッセージを読ませてもらったのが自分なだけで、それを読む権利は誰にでもあるはずだと。読んでほしくてみんなが発信してくれたなら、自分もみんなに読まれてもいい“ほんとのきもち”を出すだけ。横並びだと思いました。自分がみんなの気持ちを代表するというつもりはまったくなくて。みんなと同じ人間のなかの一人というニュアンスがいちばん強いですね」

――アルバムの真ん中に“この声”というタイトル曲がある。この曲は言葉数も少なくて情景描写もない、高橋優さんの楽曲のなかでも異色な曲だと思うんですけれど、これはどういう位置付けなんでしょう?

「この曲は自分の宣言みたいな曲にしたくて作ったんです。作ったのはだいぶ前のことで、路上ライヴでは必ず1曲目に歌うんですね。自分が歌を歌ううえでどういうことを思っているのかというのを、できるだけ明快に書いた曲です。この声で生まれて、この声で歌を歌っていて、自分はあなたの笑顔を探したい。そういういちばんシンプルなメッセージが届けばいいなと思って書きはじめた曲ですね」

――この曲をアルバム・タイトルにしようというのも、最初から決まっていたんでしょうか?

「いや、タイトルは『リアルタイム・シンガーソングライター2』にしようとか、いろんな考えがあったんですけど。“この声”というのがいちばんしっくりきたんですね。この曲の持つメッセージ性もあるし、自己紹介として〈この声〉という言葉もわかりやすい。〈この声で歌ってます、高橋優です〉という。それから、〈声〉という言葉は〈主張〉という意味でも使われますよね。そういう意味でもしっくりきました」


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掲載: 2012年03月14日 18:01

更新: 2012年03月14日 18:01

インタヴュー・文/柴 那典