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インタビュー

星野源 『エピソード』

hoshino Gen



インストゥルメンタル・バンド、SAKEROCKのリーダーであり、舞台や映画やテレビでひっぱりだこの人気俳優であり、
「そして生活はつづく」などの著書を持つ文筆家であり、そして1年前から本格的に<ソロ・アーティスト>にもなった
星野源。その2作目のフル・アルバム『エピソード』について聞いた。



「死ぬことを、じゃなくて、生きることを書きたい。で、
              生きることを正直に書くと、死ぬことを書かざるをえない」


 アニメやホームドラマなんかの、テレビの30分番組についての歌。
コンビニの店長とバイトの会話についての歌。
営業マンの歌。恋愛の歌。というような、ごく普通な、そして些細な日常のことを綴った歌と
並列に、火葬場の歌や、老いることについての歌や、死ぬことについての歌が、並んでいる。
いや、「並んでいる」という言い方は、正確ではないかもしれない。
「この曲はラヴ・ソングで、この曲は死の歌です」みたいに、曲ごとに分かれているとは
限らず、1曲がラヴ・ソングであり、同時に死の歌でもあったりするからだ。というか、
そういう歌の方が、多いからだ。

 星野源の2ndアルバム『エピソード』は、そんな作品になっている。
昨年6月にリリースされた1stアルバム『ばかのうた』もそういう作品だった。
つまり、星野源とは、そういうアーティストである、ということだ。って、そんなのファンは
みんな知っているが、一歩引いて客観的に見ると、たとえば、生活の歌を歌う人も、
ラヴ・ソングを歌う人も、未来とか孤独とかについて歌う人もいくらでもいるが、
それらと一緒に「死」や「老い」を歌う人は、あまりいない。
しかも、特別なものとしてではなく、あたりまえのこととして、こんなふうにフラットに
歌う人は、とりあえず今この国において、ほとんどいない。
ましてや、それを「誰もやっていない珍しいことを狙いました」みたいなものとしてではなく、
どうしようもなくリアルで、どうしようもなく切実で、だからどうしようもなくすばらしく、
かけがえのない音楽として表現できている人は、もう、まったくいないと思う。
まるで、日常の些細なことと、死や老いとの両方が音楽の中にないと、おかしいんじゃないかとすら思えるのだ。
星野源の歌を聴いていると。と、本人に言ったところ、「ああー。そう言われると、うん、確かに。そう思います」
という答えが返ってきた。ということは、自分では意識していなかったってことだけど。


「(笑)そうですね、そうじゃなきゃいけないとか、そうあるべきとは思ってないんです。
単純に、自分が歌を作る時はそこに垣根がないんだと思います。
火葬場の歌詞も、エロい歌詞も、死の歌詞も、全部並列で同じ気持ちで書いているし。
ハゲって言葉が入ってるから変な曲だとか、お墓のことを歌ってるから暗い曲だとか、
全然思わないんですよ。いい歌を作りたいって言う気持ちは同じだし、自然とそういう曲が
できてしまうから。」



「でも確かにほんと、歌に、死ぬことばっかり出てきますよね。
自分でもなんでだかわかんないんですけど……でも、その、死ぬっていうことに対しては、
すごく興味はあるんですよ。『死んだらどうなるのかなあ』っていうのは、
昔からずっとぼんやり考えてました。一人っ子だったし、考える時間は山ほどあったから。
ただ、なんとなく思ってるのは、たぶん、死ぬことを書きたいんじゃなくて、
生きることを書きたいんだと思うんですよ。
で、生きることを正直に書くと、死ぬことを書かざるをえないっていう。
死ぬってことをなしにして、前向きにはなれないっていうか。
それだと、なんかだましてる感じがしちゃうんです。」





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 「本当に前向きなことを歌いたいんです。これまで、自分が音楽を聴く時に、
いろんな前向きな歌に励まされつつも、『なんか嘘っぽいな』とか、
『なんかこう、足りないな』って思うことが多くて。だからやりたい。」

 「このアルバムを制作していた時は、個人的に、ほんとに、いろんなことがあった時期だったんです。
ほんとにしんどくて(笑)精神的に…ちょっとこう、発狂寸前ぐらいまでいきました。
だから、自分で自分を励ますとか、自分みたいな状況になってる人が聴いた時に、
ちょっとでも励まされてほしい、って気持ちで作った曲が多いんですよ。
でも、励ますってなると、なんか嘘ついてる感じがしちゃうわけです(笑)。
だからそれを、自分の中で、自分の気持ちに嘘をつかないレベルまで持っていくと、
自然と、死ぬことだったり、何かが終わるっていうことだったりを、書いてしまうっていうか。
『それでも、進むでしょ? まあ、進みましょうよ』っていう、そんな方向の曲が多くなりました」



声も、メロディーも、言葉も、アレンジや各楽器の録り音といったサウンド・プロダクトも、
いちいちどれも、やわらかくて、やさしくて、あったかい。にもかかわらず、
星野源の音楽を「なんかいいよね」とか、「気持ちいいから好き」とか、「気分いいからよくかけてる」みたいな
聴き方をしている人は、少なくとも僕の周囲には、ひとりもいない。
みんな、ちょっとやばいんじゃないかっていうくらいのはまり方をしていたり、
ものすごく精神的に依存していたりする。若い女の子も、おっさんも、みんなそうだ。って、
自分もなんだけど、それってつまり、こんなふうに本人が説明してくれたような音楽だからだと思う。



■New Album『エピソード』……9/28 on sale!

■ SONG LIST…
01.エピソード
02.湯気
03.変わらないまま
04.くだらないの中に
05.布団
06.バイト
07.営業
08.ステップ
09.未来
10.喧嘩
11.ストーブ
12.日常
13.予想

■ PROFILE…星野源 (ほしの げん)

81年、埼玉県生まれ。シンガーソングライター。
自身がリーダーを務めるバンド・SAKEROCKや、
俳優、文筆業、など多方面で活躍中。『ばかのうた』
(CDショップ大賞入賞)で本格的にソロ活動を開始。


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記事内容:TOWER 2011/9/20号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2011年09月20日 12:00

ソース: 2011/9/20

TEXT: 兵庫慎司(ロッキング・オン/RO69)