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インタビュー

INTERVIEW with 志磨遼平――毛皮のマリーズ 『THE END』



自他共に認める傑作『ティン・パン・アレイ』にあったものとは真逆の、悲しみや絶望を描いた新作を紐解く! また志磨遼平が〈悲しみを美に昇華した盤〉も解説!




毛皮のマリーズ_A



『ティン・パン・アレイ』へのアンサー

〈宣教師〉であることを自覚してミッションを背負いつつ、そこだけに固執しない柔軟性とユーモアを持ち合わせ、そのうえで徹底的に謳歌しようとしている男。リーダーの志磨遼平はそうやってロックという音楽に向き合っている、どうしようもなくチャーミングな男だ。今年1月、バンド名義ではあるものの、実際は志磨一人によるアイデアを多数のミュージシャンの手を借りて具現化した『ティン・パン・アレイ』を発表、ポップ・ミュージックへの親愛を作り手の目線から丹念に表現し過去最高の高評価を得た一方で、例えば、フォトグラファーの有賀幹夫による初の写真集「夜明け」などを見ていると、演奏にかけるくどいまでの熱が伝わってくる。毛皮のマリーズとは、恐らくそういう二面性を持っており、それらが組んず解れつでがんじがらめになることを猛烈な推進力としているようなバンドだ。

「今度のアルバムを作るにあたっては、『ティン・パン・アレイ』が転機になったのは間違いないんです。あれがバンドで作られたものじゃなかった以上、今度は絶対バンドで作るぞ、というのがまず最初にありました。ただ一方で、僕のなかにはかなり昔から、例えば『戦争をしよう』(2006年)と『ティン・パン・アレイ』の両方のアイデアがあったんです。何者でもなくてどこにでも行ける、でも若者ゆえに時間もない、みたいな状態のなかで何ができるか?ってことを考えつつ、そのまったく違う性格の作品を考えていたんですね。でも、いざ『ティン・パン・アレイ』を作り終えて、今度は自分のなかで〈毛皮のマリーズって何やろ?〉ってところを捉え直すことを始めてみたんです。僕、毛皮のマリーズをカッコイイとは思っていないんですよ(笑)。いや、結成した頃は世界一カッコイイと思っていたんです。なぜなら僕が一人で背負っていたわけではなかったから。となると、今度は音楽を突き詰めることそのものより、昔みたいに僕ら4人の個性とかドラマを尊重した作品にしようって思ったんです。今回の第一歩はそこからでした」(志磨遼平、ヴォーカル:以下同)。

そうなれば話は早かった。まずは「毛皮のマリーズがカッコイイと感じていた時代の曲ばかりをやった」ツアーを敢行。この春まで『ティン・パン・アレイ』とは対極にある、瞬発力勝負のバンド感ある演奏がメインのライヴを重ねた。だが、結局「サティスファイドしなかった」という。新作に向けての葛藤がふたたび訪れる。

「ツアー自体から得るものはあったんです。でもそれは震災があったから。日本中があんな辛い状況のなかで、それでも歌を歌えたというのはまだ音楽が全然認められなかった23歳頃の、太宰治とかを読んでいた頃の自分がいまなお有効だってことですからね。それは真理としてある。でもバンドとしてどうか?と思ったら……う~ん。昔の自分たちっぽい曲も書いてみたんですけど結局今回の作品には入ってないんです」。

「本音を言えば、『ティン・パン・アレイ』を否定されたかった」と言う。だが、売れた。自身も一方で「あのアルバムは自分にとっても誇り」と胸を張るが、「自分はロックンローラーだから、前作へのアンサーをみずから作らなければならない」と。そしてバンドの一員として彼は、前作で歌われた真理の正反対の感情、すなわちネガティヴな目線を作品に落とし込むことにした。



悲しみも希望も愛も絶望も表裏一体

「あのアルバムは美しく正しく前向きで、愛に溢れていた。でもバンドとしてはそれだけをずっと肯定し続けるわけにはいかないし、そこに対する懐疑もあったんです。そこでテーマにしたのが、悲しみ、絶望、喪失感。で、すぐに初期マリーズのようなノイジーなサウンドの悲しみのある曲を作ってみたんですけど、これが合わない(笑)。悲しみって何や、絶望ってどんなの?……ってことを自分に問いかけてみたんです。幸いなことに、自分はいままで本当の絶望とか喪失感を味わったことがなかったんで、何度も何度も自問自答して出てきたのがこのアルバムの音だったってことなんですよ。そしたら何と、『ティン・パン・アレイ』の続編みたいなサウンドになったと(笑)」。

前作を否定することで、結果として肯定する作業。今回のアルバムはそうしたねじれた深層心理が働いて誕生した。制作中、あがた森魚や楳図かずおのアルバムなどを聴いていたというだけあって、確かにここでの11曲はかなり明確に、負の感情にフォーカスしたものばかりだ。サウンドも思った以上にバンド感に依ってはいないし、アレンジも丁寧に施されている。アルバムの約半分はロンドンのアビー・ロード・スタジオでレコーディングしたそうだが、志磨に言わせるとそれは「本当にたまたま」。録音からアレンジまでゴージャスだった『ティン・パン・アレイ』と正反対の内容にするべくチープな録音にしつつ、それとは反対のハイクォリティーな環境で録音したものも入れてみたのだという。その結果、こんなにも絶望や喪失感を歌ってもやっぱり美しい作品となった。この真理こそが毛皮のマリーズなのだ、と確信を持てる内容になっている。

「いやもうそりゃあ考えましたよ。で、作り終わってみて気付いたのは、悲しみも希望も愛も絶望も表裏一体だなってことなんです。哀しみとか絶望は耐え忍ぶものだと思っていたんです。で、その先には何があるのか、悲しみの果て、絶望の淵には何があるのかってことを突き詰めていくと、それは祈りに似てくるんですよね。で、つまりは希望なんだと。だからこそ美しいのだろう、だからこそ『ティン・パン・アレイ』に近いのだろうって思いましたね」。

ところで、ジャケット写真や正式なアルバム・タイトルはリリース日の9月7日まで発表されないことになっており、現段階で伝えられている仮題は『毛皮のマリーズのハロー!ロンドン(仮)』。店頭で見て初めて知ることができるその全貌は、もしかするとこのバンドの運命を示唆するようなものかもしれない。その時、志磨遼平はどうするのか。毛皮のマリーズの未来は、まだ誰にもわからない。



▼毛皮のマリーズの作品を紹介。

左から、2006年作『戦争をしよう』、2007年作『マイ・ネーム・イズ・ロマンス』、2008年のミニ・アルバム『Faust C.D.』(すべてDECREC)、2008年作『Gloomy』(JESUS)、2010年作『毛皮のマリーズ』、2011年作『ティン・パン・アレイ』、ライヴDVD「CONCERT FOR "TIN PAN ALLEY"」(すべてコロムビア)、写真集「夜明け」(音楽出版社)


 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年09月07日 17:59

ソース: bounce 335号 (2011年8月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野

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