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インタビュー

Superfly 『Mind Travel』

 

デビュー以来、休みなく突き進んできた3年間。一旦のブレイクを挿んで届けられた3作目は、彼女のこれまでにない表情も覗かせている〈心の旅〉の記録

 

優しい気持ちを取り戻した

3年やって一人前。3年間は何を言われても言い返さず、ただ実績を残すのみ──とは、シアトル・マリナーズのイチローがメジャー・リーグで2年目のシーズンを終えた後に残したコメントだが、発表した2枚のアルバム『Superfly』『Box Emotions』をいずれもオリコン・チャートNo.1に送り込み、2009年には日本武道館での単独公演も実現させたSuperfly=越智志帆は、イチローが言うところの〈一人前〉なメジャー・プレイヤーとして誇れる実績を最初の3年間で残している。そして4年目のシーズンとなった2010年。配信シングル“タマシイレボリューション”を皮切りに、快調にリリースを重ね、中村達也(LOSALIOS、EORなど)、日向秀和(ストレイテナー、killing Boyなど)、百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)、蔦谷好位置、八橋義幸といった面々と組んだSuperfly & The Lemon Batsでミニ・ツアーを敢行するなど目新しいアクションを見せながら、ニュー・フェイズへと展開してきた。

「The Lemon Batsの皆さんはものすごく野性的で、誰も後ろに引かないし、みんなが〈オレオレ〉って前に出てくるので、その波に押されて聴いたことないような自分の声が聴けたりとか、抑えるっていうことを知らない、常にMAXの状態で歌うっていうことが、歌いはじめた頃の自分に近い感覚でした。衝動だけでやってた頃を思い出しましたね。本能というか、〈思うままにやればいいんだ〉ってことを気付かせてもらったし、あの経験は貴重でした」。

そして2011年1月。ほぼノンストップで走り続けてきた彼女は、デビュー以来初めてのオフらしいオフを過ごしていた。

「とにかく何かインプットしなくちゃと思って、タイに行ってみたり、伊勢神宮に行ってパワーいただいてみたり。タイは……時間の流れがゆっくりで、不便なところに行きたかったから。日本で暮らしていると、自分は恵まれているというか、恵まれているのにどこか物足りなさを感じるんです。自分と向き合う……じゃないですけど、いろいろ深く考える時間を作るために一人になる必要があったし、そのためにコミュニケーションの取りづらい場所に自分を置いてみたかったんですよね」。

そしてオフが明けた2月からレコーディングに入り、このたび完成を見た3枚目のニュー・アルバム『Mind Travel』。まず一聴して感じられるのは、そこはかとなく漂っている開放感……のようなものだ。

「1か月の休暇後に、こんなに穏やかに過ごしていていいのかなっていうぐらい優しい気持ちを取り戻したんですね。ファーストからセカンドにかけて穏やかな心境で何かを作るっていうことはなかったし、むしろあってはいけないぐらいに思ってたんですけど(笑)、今回は、こんなに穏やかでいいのかなと思いつつ、でもそういう心境だからこそ見える不安だとか幸せだとかがきっといろいろあるんだろうなと思ったので、その気持ちに沿うように作っていったのが開放感に繋がったんだと思います。サウンドも、セカンドのような攻撃的な感じじゃなくて、優しい、のびのびとした、空にはまっていくような感じ(笑)。多保(孝一)くんに曲を作ってもらうときも、こういう音でっていうよりは、こういう情景が見えるとか、私はこういう感じでそこに立ってる、みたいな漠然としたイメージを伝えたりしながら作りましたね。今回は使わなかった曲も多かったですし、多保くんは私からの注文が多くてかわいそうでしたけど(笑)、そこは譲りたくない、自分の思いをちゃんと表現してくれるメロディーが欲しかったんですよね」。

 

ポジティヴな気持ちで聴けるアルバム

〈穏やか〉〈のびのび〉〈優しい〉とは言うものの、完全にレイドバックしたような楽曲ばかりではなく、先行シングルとなった“Beep!!”や、The Lemon Batsで共演した中村達也がドラムを叩く“Free Planet”のようなハードなナンバーも並んでいる。

「パワフルであっても攻撃的ではないっていうのが、セカンドとは違う部分かな?って思いますね。すごく女性的?——まあ、歳を取ったってこともあるんですけど(笑)、女性的な心境とかも出やすくなりましたし、そういうところもいままでとは違うな……って、そこは悩みどころだったんですけどね。Superflyが女性的になったら成立しないんじゃないかなってちょっと心配してましたけど、形になったときにはこれがいまの色なんだなって納得のいく仕上がりになりました」。

他にも、おおはた雄一の温かみのあるアコギをフィーチャーした“Morris”、百々和宏がコーラスで参加した“悪夢とロックンロール”、元BEAT CRUSADERSのマシータが叩く勇壮なロック・ナンバー“Deep-Sea Fish Orchestra”といったゲスト参加曲もあれば、“Only You”“Secret Garden”といったバラードやアーバンなファンク・チューン“Fly To The Moon”で、これまで意外と見せてこなかった黒っぽいテイストを聴かせていたり。

「ここまで黒っぽさを意識してやったのは初めてだったので、すっごく楽しく歌わせてもらって。ソウル・アレンジのメロディーとか演奏ってすごく抑揚があるので感情が乗せやすいし、抑揚に合わせて歌いたい内容とか言葉とか考えたりするのがおもしろいんですよね。よりエモーショナルに歌えるんで、いまの私の心境にすごく合ってるなって思ったし」。

そして、今回のアルバムでいちばん最後にレコーディングされたのが、オープニング曲となる“Rollin' Days”だ。

「いままでだったらきっと力いっぱい歌ってたような曲なんですけど、なんか少し楽しみながら歌ってる、ちょっとした余裕が感じられるんです。震災後に歌入れをしたんですけど、歌うかどうかもすごく悩んで、でも、いま歌わなきゃだめだって、ひとりでも多くの人が元気になれますようにって祈りを込めて歌いました」。

しかし、『Mind Travel』というタイトルを聞いて、内省的で内向的なイメージを想像するかもしれないが……。

「うん、曲のなかではいろいろ悩んでたりしますけど、全体のトーンとしてはとても明るいし……ポジティヴな気持ちでいつでも聴けるようなアルバムになったと思いますね」。

 

▼Superflyの作品を紹介。

左から、2008年作『Superfly』、2009年作『Box Emotions』、2010年のシングル&カヴァー・ベスト『Wildflower & Cover Songs; Complete Best 'TRACK 3'』、2011年のシングル『Beep!!/Sunshine Sunshine』(すべてワーナー)

▼『Mind Travel』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、EORの2010年作『ENTITY OF ROAD MAN』(WILDDISK)、MO'SOME TONEBENDERのベスト盤『BEST OF WORST』(コロムビア)、killing Boyの2010年作『killing Boy』(VeryApe)、おおはた雄一の2010年作『光を描く人』(ワーナー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年06月01日 18:01

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

インタヴュー・文/久保田泰平