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インタビュー

 

感情表現の抑制

 

──冨田さんの編まれるサウンドを簡潔に言い表すと、〈エレガント〉という言葉がまず思い浮かぶんです。エレガントでありながら、人肌感もあり……そういった構造というのは理論的に組み立てられるものなんですか?

「僕の編んだ曲には、一定の抑制があるような気がするんですね。その抑制具合が〈エレガント〉って言葉だったり人肌感になってるんじゃないかな。抑制っていっても抑え込んで抑え込んで感情を外に出さないわけではなく、僕は音楽に感情がなければなんの意味もないと思ってるので、感情は表現するんだけども、ストレートに出すのはあまり好きではないんです。僕が作った曲の場合は、メロディー構築の時点で自分好みの温度感になっていて、メロディーとハーモニーやリズムの関係性を作ったところから自分なりにストレートであり、なおかつある程度必要な抑制をしている状態になっていますけど、他の作家が書いたメロディーだと、このまんまやるとストレートすぎるな、ここはもう少し抑えてもこの歌詞を歌うんだったら十分伝わるなとかバランスを考えますね。ストレートに伝えすぎてしまうとトゥーマッチになる、トゥーマッチになるっていうことは賞味期限が短くなるっていうような感覚が僕のなかにはあって、でも、抑制するって言ってもクールなオケにするわけではなくてね、ハーモニーとリズムとかのちょっとしたバランスでトゥーマッチじゃない楽曲の成り立ちにしてるような感覚です。とはいえ、〈WORKS BEST〉を聴いて思ったのは、シングルで1曲だけやった曲が多いし、いま言ったようなバランス感やらなにやらすべて込めて作るので、並べてみるとやっぱり濃いなあって」

──新録曲となった“エイプリルフール”についてですが、坂本真綾さんとは彼女の最新アルバム『You can't catch me』でもごいっしょしていて。

「彼女のアルバムでごいっしょした時、良いシンガーだなあと思ってね。この曲は前からあった曲なんですけど、去年ごいっしょしたあとに、この曲を坂本さんの声で聴いてみたいなあと思ったんです。坂本さんはキャリアの長い方ですから、プロフェッショナルであることはもちろんなんですけど、ごいっしょしてておもしろいなあと思ったことがあって。他の歌手の方ってだいたい自分の歌い方っていうのが決まっていて、8割9割方、その歌い方で何テイクか録るんですよ。そのなかに若干ヴァリエーションが出る時もあれば出ない時もある、でまあ、それはそれで全然いいんですけど、坂本さんの場合、大筋ではご自身の歌唱プランというのを持ってきてるんでしょうけども、わりと声の表情が変えられる……歌詞に寄った表情付けだと思うんですけど、平たく言えば違う歌い方、違う表現方法のヴァリエーションが広いんですね。声優さんだからなのかもしれませんけど、それが取って付けたような感じじゃないんですね。たとえば、〈今年で三度目かな〉って歌い出しがありますよね。〈な〉の部分のニュアンスが変わったとすると、それに付随して、これは必然だろうって感じで長い時間違う表現で歌えたりするんですね。そこは新鮮でしたね」

──ところで、5月には5年ぶりのライヴがありますね。

「ライヴのタイトルに〈COMBO〉という名前を付けてるんですけど、基本のバンド構成に加えて管が2人、シンガーは坂本さんと秦基博さんとbirdさんとHiro-a-keyさんの4人。ですから、冨田ラボで他のシンガーに歌ってもらった曲を自分が歌わなきゃいけないっていう場面も出てくるし、サウンドのほうも弦が8人いた5年前のライヴをダウンサイズさせたものじゃなく、その編成でやるアレンジに変えてやろうと思ってるんですね。Blue Noteって場所はよく観に行ってるところなんですけど、近くで観られるっていうのがいいんですよね。開場前にがんばって並んでいちばん前とかで観ると、自分がいっしょにリハーサルやってるような距離だから、得るものも多くて。まあ、自分がその場所でやるとなると、そんな近くで、それこそミュージシャン志望のお客さんとかに手元とか見つめられたら相当緊張しますけどね(笑)。20代後半の頃からよく行ってた場所でライヴができるのは嬉しいですし、すごく楽しみですね」

 

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掲載: 2011年03月02日 17:59

更新: 2011年03月02日 18:47

インタヴュー・文/久保田泰平