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インタビュー

cero 『world record』

 

 

ceroの音楽に初めて触れたのは、昨年6月に行われたイヴェント〈SHIMOKITAZAWA INDIE FANCLUB〉でのこと。スティールパンやトランペットなども採り入れ、メンバー間で楽器を持ち替えながら繰り広げられた演奏は、人懐っこくもボトムがしっかりしていて、〈ライフサイズ・リズム&ブルース〉なんて冠したくなる印象を持った──それから約半年。ceroのファースト・アルバム『world record』がリリースされる。東京・武蔵野界隈で音楽を奏でてきた20代前半の4人から成るこのバンド。まだレーベルが決まらないうちからマイペースにレコーディングを開始したというその音源を耳にして、ライヴで感じた印象を遥かに超える、多彩なサウンドスケープにまず驚かされた。

「ティン・パン・アレーのようにエヴァーグリーンな、いまでも聴けば発見がある豊穣な日本の音楽の土壌がまずあって、それをいまのフリー・フォーク……例えばスフィアン・スティーヴンスとかワイ?とか、いろんなアイデアを持った人たちの音楽から受ける刺激や情報と混ぜてアップデートさせたような音楽をやりたいなっていうのは、以前から思ってて。だけどそういうのって口では言えるけど、ライヴでは上手く表現しきれないところがあって。それが音源だったら編成に縛られずに、好き勝手にできる。だからいろんな人を呼んでレコーディングに参加してもらいまくって。ライヴではできないぶんの欲求を満たしまくったというか(笑)」(高城晶平)。

エンジニアリングはギターの橋本翼が担当。レコーディングは、猫が足下にまとわりついてくる自宅の部屋や、メンバーが家族と経営しているバーの店内など、日常にある場所で約1年間、たっぷりと時間をかけて音を録り貯めていった。

「(高城が持ってくるデモは)MTRでサラッと作ったものでも、空気感みたいなものがすごく良かったんですよね。その空気感が、いざレコーディングでカッチリ作ってしまうと失われてしまうことがいままでに何度かあったので、今回はその良さを失わないように意識して作りました。例えばデモ段階のトラックをそのまま採用したり、ユルいけど良い空気感のものはなるべく採り入れました」(橋本翼)。

『world record』で全貌があきらかになったその音楽は、はっぴいえんどやティン・パン・アレーから続く〈都市の音楽〉の系譜にありながら、カットアップでシーンを紡いでいく様はアヴァランチーズを初めて聴いた時に感じたドリーミーさもあるし、淡々と過ぎていく日常のなかで人の温もりや優しさに包まれるような聴後感は映画「スモーク」の後味にも似ていたり……。

「例えばリチャード・ブローティガンっていうアメリカの小説家の〈西瓜糖の日々〉って作品は、短いセンテンスの詩みたいな章が何百もあってひとつの物語を形成してるんですけど、僕、そういうのがすごく好きなんです。描きたいシーンが絵のような感じであって。そこに別のシーン、また別のシーン……って重なり合うレイヤーを紡いでいく。同時進行で起こってることを多角的に表現するような」(高城)。

キラキラとしたパラレル・ワールドへの扉を開く“ワールドレコード”、ありふれた生活の光景と隣り合わせの異界を表現したようなサイケデリックな展開を見せる“あののか”“exotic penguin night”、ただただ美しい音に浸っていたい“大停電の夜に”──そんなカラフルなシーンの移り変わりを描いたこのアルバムは、“小旅行”という曲で幕を閉じる。

「〈ワールドレコード〉ってデカイことを言いつつ、〈小旅行〉で終わるっていう(笑)。結局は小さい世界なんだけど、そこにすべてがある、みたいな」(高城)。

 

PROFILE/cero

高城晶平(ヴォーカル/ギター/ベース)、荒内佑(ベース/キーボード)、橋本翼(ギター)、柳智之(ドラムス)から成る4人組。2004年に橋本以外の3名で結成。吉祥寺で毎月イヴェントを行うなど、都内を中心にライヴ活動に励む。2006年に橋本が加入して現在の編成に。その後、鈴木慶一のプロデュースによる作品を含むデモCDを2枚リリース。その鈴木が2008年のコンピ『細野晴臣STRANGE SONG BOOK - Tribute to Haruomi Hosono 2 -』で担当した楽曲では演奏に抜擢され、同年の『にほんのうた 第二集』には“青い眼の人形”のカヴァーで参加。2010年に10インチEP『21世紀の日照りの都に雨が降る』を発表。1月26日にファースト・アルバム『world record』(exotic orphans/KAKUBARHYTHM)をリリースした。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年02月25日 15:13

更新: 2011年02月25日 15:14

ソース: bounce SPECIAL (2011年1月25日発行)

インタヴュー・文/宮内 健