こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

R. KELLY 『Love Letter』

 

キング・オブ・R&Bから届いた1年ぶりのラヴレターは……いつもと違う! ピュアでポジティヴな境地に独りで立つ男が、今回提示してきたものとは?

 

 

車線変更することにした

エル・デバージとフェイス・エヴァンスのプレ・ショウに始まり、ロナルドの出所記念の色彩も濃いアイズレー・ブラザーズ・トリビュートで幕を閉じた2010年のソウル・トレイン・アウォード授賞式。ニーヨ、ジャズミン・サリヴァン、エリック・ベネイ、シー・ローといったR&Bファンにはたまらない顔ぶれが一挙に集う同アウォードで、もっとも目立っていたのはほかの誰もない、このR・ケリーだった。ショウが最高潮に達したロナルド・アイズレー“Contagious”でもステージに上がり、シャンテ・ムーアをロンと取り合ってみせて会場を大いに沸かせた彼だったが、それに負けない見せ場がドラマチックな演出で大喝采を浴びたオープニングのソロ・パートだ。ケリーは、軽めのヒット・メドレーでオーディエンスの期待を煽ると、新作アルバムのジャケットでの姿と同じくメガネをかけ、今度は重々しく“When A Woman Loves”を歌い出した。ジャッキー・ウィルソンやサム・クックを思わせる古式ゆかしきこのソウル・バラードを、何か特別なもののように。

「この曲はタイムレスなピースだ。これは〈ピース〉なんだ。そうさ、オレはこれを〈ソング〉だとは思ってない」。

〈ソング〉と〈ピース〉はどちらも〈曲〉のことで、歌入りのものを〈ソング〉、それ以外を〈ピース〉と使い分けることが少なくない。ただケリーは、クラシック畑で主に使われてきた〈ピース〉という言葉をあえて選ぶことで、時代を超えて愛されるクラッシーなニュアンスを伝えたいのかもしれない。

実際、今回のニュー・アルバム『Love Letter』はエヴァーグリーンな魅力の詰まったナンバーが軒を連ねるバック・トゥ・ソウルな作品集となっている。言い方を換えれば、トランシーだったりオートチューンが飛び交うようなアーバン志向の曲は皆無ということだ。

「ラジオからオレの感じに似た別の誰かの音楽が聴こえてくることがあるんだ。いつもやるような方法でアルバムを作ろうと思えば、きっと違ったものを生み出せたけれど、R・ケリーらしいものをそのままやると、新しい世代のリスナーたちは、彼らが聴いた何かをオレがコピーしたんだって勘違いするかもしれない。だからオレは車線変更することにしたんだ。オレは未来には行きたくなかった。でも、自分がいまいるところに留まる以上のことをしたくもあった。それで音楽のタイムマシーンに乗ることにしたのさ」。

 

ロバートを感じてほしい

ケリーの乗るタイムマシーンが向かったのは、“When A Woman Loves”やドゥワップ調の同曲リミックスなどの世界を育んだ50~60年代、その他の曲では『Happy People』を思わせる70年代。

「『Love Letter』は、聴いた人が誰かを愛したくなるアルバムなんだ。昂揚感に溢れた、うっとりするようなね。魅惑的なのは、さまざまな時代に連れて行ってくれるってことさ。これを聴けば、君はサム・クックやジャッキー・ウィルソン、スティーヴィー・ワンダーのスピリットに触れることができるんだ。それも最盛期のね」。

ケリーは単にその時代のサウンドを身に纏いたかったわけではない。彼が今作でサウンド以上にこだわったのは、歌そのものの圧倒的な存在感だ。先述した“When A Woman Loves”がジャッキー・ウィルソン風なら、タイトル曲“Love Letter”はスティーヴィー。そのほか、マーヴィン・ゲイやマイケル・ジャクソン、ライオネル・リッチーらしき歌唱も登場する。ともすれば物真似タレントの範疇に追いやられかねない危険を難なく回避できるのは、高度なスキルとともに最後までレジェンドたちに憑依され続けているかのような徹底した〈なりきりぶり〉だ。そして、そんな歌声に載せられるメッセージは、いつになく品が良い。

「オレのなかのママズ・ボーイ(お母さんっ子)を聴いてもらいたいんだ。ロバート・ケリーをね。ケルズではなく、パイド・パイパーではなく、ウェザーマンではなく、ロバートを感じてほしいんだ」。

みずから作り出した数々のエイリアスではなく、本名のロバートの音楽。虚飾ではない、鎧を脱いだこのアルバムのラストに、かつてマイケルに提供した“You Are Not Alone”のリメイクが収められていることも、『Love Letter』を特別なものへと押し上げている。彼はマイケルとの印象的なやりとりを述懐する。

「〈僕のために“Ignition”みたいな曲を書ける? あの曲大好きなんだ〉って言われたんだ。で、こう答えたよ。〈“Ignition”は“Thriller”には及びもしません。でもある意味“Thriller”みたいなところがあって……つまり何度も書ける曲じゃないんです。もう書けないと思います、すみません〉ってね(笑)」。

しかし、それは謙遜というものだ。彼は『Love Letter』について自信たっぷりにこう語ってもいる。

「『Love Letter』はひとつの大きなシングルのようなアルバムなんだ。長尺のシングルと言ってもいい」。

全曲自作曲、セルフ・プロデュースで固めた『Love Letter』。ケリーのキャリア史上に残る力作の誕生だ。

 

▼R・ケリーの近作を紹介。

左から、2007年作『Double Up』、2009年作『Untitled』、ヨーロッパ編集のリミックス集『Essential Mixes』、“Ignition”を収めた2003年作『Chocolate Factory』(すべてJive)

 

▼R・ケリーの制作/客演した近作。

左から、ホイットニー・ヒューストンの2009年作『I Look To You』(Arista)、トゥイスタの2009年作『Category F5』(Get Money Gang)、リル・ジョンの2010年作『Crunk Rock』(Universal Republic)、ファット・ジョーの2010年作『The Darkside Vol. 1』(Terror Squad/eOne)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年02月18日 13:35

更新: 2011年02月18日 13:35

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

構成・文/荘 治虫