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インタビュー

INTERVIEW(2)――乾いたブルース

 

乾いたブルース

 

SISTER JET3

 

――ワタルさんの言う〈匂い〉は、いわゆる個性、ですよね。そしてアオキさんのほうは個性というか……〈かもめ〉はパーソナルすぎる、ということ?

ワタルS「あのね、アオキさんが言ってる〈匂い〉はたぶん、この2人以外はわかんない。あの頃は確か、こういうことがあったな、とか、そこまで踏まえてないとね。〈かもめ〉は俺もパーソナルな曲だと思うけど、ギリギリのとこでバランスが取れてるんじゃないかな。あまりにも匂いがありすぎると、聴いた人の入る余地がなくなっちゃうもんね」

アオキ「あ、でも匂いっていうことで言ったら、ワタルさんはやっぱりね、趣味とかでもトラディショナルなものが好きだから。なんか、ちゃんと歴史があるものが好きだし」

ワタルS「そうだね。服にしてもなんにしても」

――そのトラディショナルなもの、っていうのは、例えば映画とかも含まれます? ワタルさんが歌ってることって、突き詰めるとすごくシンプルなことで。〈寂しさ〉とか、そこから派生する〈哀しみ〉とか。そういったことが物語性をもって描かれた世界観のなかに、ときどき、70年代ぐらいまでの古き良きアメリカの風景を感じることがあるんですよね。

ワタルS「ああ、〈マギーメイ〉とかね。いまの話じゃないもんね……あのさ、昨日一人で別のインタヴューを受けたときに言ったことなんだけど、俺は、映画はずるいと思ってるの。映像と音楽があるんだから、完璧なもん作れよ、って俺は思うの。いい映画は脚本に隙がなくて、音楽も素晴らしい。そういうのってなかなかなくて……だから本当に好きな映画って何本かしかないんだけど、それに比べると音楽ってね、1曲で1本分の映画以上の力を持ってて。例えばビートルズの後期とか……“Rocky Raccoon”とか、俺がいちばん好きな曲を聴いてるとするでしょ? ロッキー・ラクーンが恋敵に撃たれて、ジンの匂いをさせたドクターに手当てされるんだけど〈大丈夫さ、ドクター〉みたいな、そういう話なの。俺、この曲もう大好きで、いっしょに歌ったりしてて、それだけで俺は、映画1本分よりも楽しめる。じゃあロッキー・ラクーンはこのあとどうなったんだ、とかね、想像は無限だから。音楽が好きなとこってそこで、だから物語性がある歌詞とかもすごい好き。まあ、映画は古いのばっか観てるわけじゃないけど、聴く音楽は最近、20年代から70年代ぐらいまでだったりする。何度も読む、好きな本――スタインベックとかも、30年代の話だったりするじゃん。ほっとくと、そういう世界で完結したがるよね。その古き良き時代に逃げたがるフシがある。個人的に。2010年を生きてないというか、部屋のなかで勝手に自分はいま、68年ぐらいに住んでるような感覚に持ってくフシはありますね」

――それは、その世界観が好きだから? それとも単なる逃避?

ワタルS「両方だね。その頃はいい時代だったんだなー、と思って。最近、新しいアコギが欲しいなと思ってて、ひとつがね、59年製のちっちゃいアコギで、もうひとつが61年製ので、まったく同じ材料で作ってるんだけど、弾くと全然違う音がするの。その当時って、ギター1本1本を、職人さんが手作りで作ってた時代なの。だから、いま安く売ってる楽器と違って、使ってる木にも樹齢何百年っていう深みがあるし、職人の魂がこもってる。ソウルがあるの。だから、いい時代だったなあって、もっと人間らしかったなって思うんだよね……って、こういう話してていいの?」

――あとに繋がりそうな気がするので、続けてください。

ワタルS「すごく思うのは、いまの10代とか、すごく大人っぽく見えるんだよね。生まれたときからインターネットがあって、何でもググれば答えが出て、情報がたくさんある。それに比べると、俺たちってギリギリ最後のポンコツ世代(3人はそれぞれ82年、84年生まれ)だったなって思ってて。やっぱ辞書で調べたりしたし、なんか、そういうのって逆に想像力は増すよね」

――想像する余地が、いい意味での隙がありますよね。

ワタルS「うん。あと、こないだ母ちゃんと話してて……うちの母ちゃん、昔、黄色のふっるいフォルクスワーゲンに乗ってたの。それで、俺がお腹にいたときかな? 軽井沢かどっかに行ったら案の定ぶっ壊れて、山の上で大変だった、みたいな話をしたんだよな。それがなんか、いまの家族にはない、すごくいい話だったの。なんて言うんだろう? 考えてることとかも、昔の人のほうが少なかったんじゃないかな?」

――よりシンプルに暮らしていたということ?

ワタルS「そう。もっとシンプルに暮らしてたと思うんだよね。何かに忠実に」

――いまの話は、ワタルさんの作風や普段の発言と繋がる気はしますよね。あと音楽も20年代から70年代ぐらいしか聴かないって言ってましたけど、それはどうして?

ワタルS「うーん、なんでだろう? なんか、本質的なもので感動したがってるっていうか……最近いちばん好きなのは、ジョニー・キャッシュなの。今朝も『At Folsom Prison』を聴いてきて。映像にもなってるけど、フォルサム・プリズンっていう刑務所で慰安ライヴみたいなのをやるんだけど、所長に〈お願いだからあんまり囚人たちを煽んないでくれ〉って言われて、わかった、って。なのに1曲目から、〈ちっちゃい頃、ママに言われたんだ。そんなにおもちゃのガンで遊ぶなよ、と。でも、よく考えたら昨日ひいた引き金で、今夜はフォルサム・プリズンに来ちまった〉みたいなことを歌ってて(笑)。客がそれで〈うわー!〉ってなるんだけど、もう、ホントにかっこいい人だなと思って。なんか力強くてさ」

――ジョニー・キャッシュは生々しいを通り越して、血生臭い空気感がありますよね。

ワタルS「うん。なのにゴスペルを歌ったりね。感動する」

―一bounceの特集で〈2010年のベスト3作品〉を挙げていただいたときのコメントのなかにも〈そいつのブルース、ぼやきがちゃんと入ってる曲〉と書いてましたけど、ワタルさんもそこに向かって変化してきた、っていうのはありますよね。

ワタルS「それがロックの根本だなって、最近思うんだよね。昨日読んだ本によると、最初に黒人がアメリカに連れてこられたとき、アフリカの民族楽器は持ってきちゃだめだったんだって。太鼓とか叩くと〈オイ・オイ・オイ!〉みたいに、〈ぶっ壊せ!〉みたいになって(笑)、それを機に暴動が起こり得るから、だって。それでギターを持った黒人たちが、〈綿花畑の仕事がつらいな〉ってパーソナルなことを歌ったところからロックって始まってるから……結局、俺の曲だってぼやきなわけじゃないですか。〈こう思ったよ〉っていうね」

――そうですね。そして、ブルースでもある。

ワタルS「うん、うん、うん。でもなんか、最初の頃のカントリー・ブルースとかって、乾いてんだよね。〈哀しい〉って歌ってなくて、〈ホントに哀しいのかい?〉〈かーなしいなー〉って。その感じは昔から俺たちにもあると思うし……うん、乾いてると思うよ。今回のアルバムもウェットになりすぎてない。それがこう、めざしたいとこかもしれない」

――確かに、先ほど〈パーソナルすぎる〉という意見が出た“かもめのジョナサン”にしてもウェットではないし、われわれリスナーの物語として届くものになっていると思いますよ。基本的なテーマは一貫しているけれど、楽曲も幅広いですし。

サカベ「なんか、人気のあるバンドのフロントマンとか、曲作ってる人とかがソロ・アルバムを出しても、どこかおんなじ匂いはするんだけど、バンドのほうが良いな、ポップだな、人懐っこいな、みたいな作品ってけっこうあると思うんですよ。そういう意味では、“かもめのジョナサン”はワタルくんのソロ・アルバムに当たるんです。だけど、なんでなのかわからないけど、あるバンドの頭脳の人が一人でやってるものよりも、バンドであることによって違う要素が入ってきて、結果的にポップなものになることが多い気がする」

 

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掲載: 2011年01月12日 18:00

更新: 2011年01月12日 18:38

インタヴュー・文/土田真弓