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インタビュー

LONG REVIEW――藍坊主 『あさやけのうた/すべては僕の中に、すべては心の中に』

 

藍坊主_J

理由はわからないけれど、なんだか、ざらついた気分になることがある。あくまで個人的な感覚だけれど、それは、2010年に入ってずいぶん増えた気がする。TVを観ても新聞を読んでも、Twitterやネットに流れる情報を眺めても、どこかで誰かが言ったことを喧伝するような借り物の言葉ばかりが目につく。メディアスクラムと炎上がほうぼうで巻き起こり、コピペでそれが増幅していく――。そういう感覚に押し流されそうになったときに、僕は、音楽を聴く。真っ直ぐな本気で綴られた言葉と、生身の熱量を持つサウンドは、軽薄な情報の濁流に毒された気分を洗い流してくれる。ただ単に背中を押すとか共感するとかだけでなく、優れたポップ・ミュージックは、聴き手の日々の暮らしを支える〈薬〉として作用してくれる。僕にとってそういうミュージシャンは沢山いるが、藍坊主も、そういう存在の一組だ。

バンドの新境地を開拓した今年2月のアルバム『ミズカネ』の完成以前から、じっくりと制作されていたという新曲“あさやけのうた”と“すべては僕の中に、すべては心の中に”。“あさやけのうた”のライナーノーツには〈矛盾〉をテーマにしたと書かれているけれど、〈生きることの意味〉をもがきながら探してきた藍坊主というバンドにとっては、それはこれまでのすべての曲に通じるテーマでもあるだろう。中間部での〈君は君がいない世界を想像できるかい? 家族、友人、恋人、風景、どんな映像を浮かべてるんだい?〉という言葉から始まるアジテーションのような叫びが、突き刺さるように響く。激情を感じさせるメロディーと、〈この鎖を絆に変える、雄叫びをあげろ。〉というサビの言葉に、ゾクっとする。

“すべては僕の中に、すべては心の中に”は、後期ビートルズを思わせる豊穣なアレンジが印象的なバラード・ソング。〈疑いの網を取り払えるのは/他の誰でもない/この僕なんだ〉と歌う曲のテーマは、“あさやけのうた”とも通じ合っている。すなわち、不安も憂鬱も、何かの絆を信じるということも、すべてのキーは自分自身が握っているということ。壮大な風景が広がるサビの旋律も、曲後半のストリングスのアレンジも、胸が熱くなる。

バンドが追い求めてきた表現の〈核〉のようなものを2曲に凝縮したシングル。こういう曲を届けてくれるバンドは、やっぱり、信頼できる。

 

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掲載: 2010年11月10日 17:59

更新: 2010年11月10日 19:19

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