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インタビュー

SISTER JET 『MR.LONELY』 ロング・レヴュー

 

MR.LONELY_J170

まずは“to you”の話から始めさせてほしい。

タワーレコード限定シングル“MR.LONELY”のカップリングには、昨年末に開催されたSISTER JETのワンマン公演〈OUR WORLD〉からのライヴ・テイクが7曲収録されている。そのラストが“to you”だ。と同時に同曲は、彼らにとって2009年の最重要ステージであった(だろう)当日のセットリストのなかで、本編のフィナーレを飾った楽曲でもある。

あれは2008年6月――会場は新宿LOFT。その日に“to you”の生演奏を初めて体験した時の記憶は、いまだに鮮明に刻み込まれている。それは、演奏中に起きた(アオキが言うところの)〈現象〉が強く印象に残っていたからだろうと――長くそう思っていたのだが(失礼)、その認識は誤っていた。1年半ぶりに観た彼らのライヴで“to you”のサビに突入した瞬間、思い出したのだ。この曲は、生で聴くと切実さの度合いが格段に上がる。

歌われているのは喪失感と孤独、だと思う。失われた〈きみ〉に想いを馳せながら、たった一人で前に踏み出そうともがく主人公を描いたラヴソング。そのもがきが――トリートメントされた楽曲の奥底に存在していたエモーションが、隙間なく敷き詰められたリズムの乱打のなかで、揺らぐグルーヴのなかで、それでも三人で鳴らし続けるロックンロールのなかであきらかに増幅し、言葉の威力を高めていた。その時に味わった形容しがたい切なさは、その後もライヴ会場で、そして音源で、幾度聴いても生々しく甦る。

前置きが長くなったが、ここからは彼らの新曲“MR.LONELY”の話だ。

上述の〈OUR WORLD〉における初公開を経てこのたびパッケージ化された同曲は、前回のインタヴュー時にワタルが宣言した通りのSISTER JET版“Help!”である。負け続きのボクサーがモチーフとなってはいるが、ここで彼は、助けを求める代わりに初めて真っ向から孤独を歌い、歌うことで孤独に対峙しようとしている。〈一歩を踏み出す〉という意味では“to you”の詞世界にも通じるが、あきらかに異なるのは〈ラヴソングというコーティング〉がなされていない点だ。無防備なエモーションがそこにはある。

そんな歌を際立たせるべく彼らが今回セレクトしたサウンドは、エッジを最大限に効かせた直球のガレージ・ロック。ライヴ感を意識した前作『JETBOY JETGIRL』の延長戦にあたるとも言えるプロダクションだが、骨組みはより太く、そしてシンプルな仕上がりだ。そのなかで、8ビートを刻むドラムはアオキ以外の何者でもないパワフルさで激走し、サカベのベースは要所を弁えてメロディアスに歌う。どんなに削ぎ落とそうとも、この三人にしか鳴らし得ないダイナミックなロックンロールが、孤独との闘いを頼もしく援護している。

今回の取材において、ワタルは現在進行形の制作活動についても多く語ってくれた。そして、そこにはエモーションをよりダイレクトに伝えるための歌/表現方法を模索する彼の姿があったように思う。次作のリリース時に持ち越すべき発言は本文から割愛したが、いまの段階で、これだけは断言できる。変革に対する彼らの力強い意思表示――それが、この“MR.LONELY”である。

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2010年02月03日 17:59

更新: 2010年02月28日 00:20

文/土田真弓

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