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インタビュー

CALVIN HARRIS(2)

頭のなかの音を具体化できた

 こうして誰よりも早く〈MySpace〉信仰から脱したカルヴィンが、このたび完成させたセカンド・アルバム『Ready For The Weekened』は、限られた機材でシンプルさに徹して作られたファースト・アルバムの制作環境に対し、「デビュー作で使った機材はほとんど全部変えたよ! いまのシステムは俺の頭のなかにあるいろんな音を具体化できるようになったね」と語るように、彼の試したかったアイデアがストレートに音へと反映されている。結果的にアルバムは、前作とは異なるゴージャスなプロダクションが耳を惹く内容となった。

 「今回はとにかくレイヴな感じのダンス・ミュージック・アルバムを作りたかった。でもダンス・ミュージックになんて興味ないよ!と思い込んでいる人たちにも楽しんでもらえる、ポップなアルバムでもあるんだ」。

 なるほど、ディスコ・サウンドにフォーカスした前作の旨味でもある、彼の好きな昔のソウル~R&Bなどのヴォーカル・スタイルを活かしながらも、アップデイトされた自身の感覚と新しい機材の威力も存分に発揮することで、ダンス・ミュージックのさまざまな要素──ハウス、エレクトロ、トランス、ヒップホップなど──を採り入れ、自分色に染め上げてしまっている。この絶妙なフィーリングをどこから手に入れたのかといえば、現行のUKシーンからの影響が大きいようで。

 「UKではハーヴ、トドラT、バーンズ、フェイク・ブラッドといったアーティストたちが素晴らしいんだ。世界的にもエレクトロやダンス・シーンはかなり盛り上がってきていると思う。DJをスタートしてから〈Beatport〉で漁るようになって、そのおかげで素晴らしい作品にたくさん出会えるようになったし、そういった作品たちの影響は大きいんじゃないかな」。

 そもそもが根っからの音楽ファンであるからして、DJすらも新しくてしょうがないといった様子だ。印象的なフックを持ち、シングル・リリース時から話題だったハイライトの2曲……全英1位となったディジー・ラスカルとのエレクトロ・ヒップホップ“Dance Wiv Me”やトランシーな“I'm Not Alone”も、彼の音楽好きが高じて生まれた新機軸なのかもしれない。

 「ディジーとの作業はとても楽しかったよ! 〈何か新しいことをやってくれ!〉みたいな脅しもないし、俺もそういうタイプじゃないし(笑)。でも結果、いいサウンドが生み出せたんだ」。

 ここで紹介しきれなかった発言も含めて、前作のヒットからくるプレッシャーや制作の苦悩といった負の部分をほとんど見せないばかりか、斜に構えたり、偉ぶったりすることもまったくないカルヴィンは、文字通りのナイス・ガイだ。最近ハマッていることを訊ねれば「ミイケ・スノウっていうバンドの最新アルバムにハマッてるよ」なんて、やっぱり音楽の話題になってしまうのも微笑ましい。すでにディジー・ラスカルのニュー・アルバム用にも新曲“Holiday”を提供したというし、この『Ready For The Weekened』の出来を考えれば、今後もカルヴィンの一挙手一投足から目が離せそうにないな。

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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年08月19日 18:00

ソース: 『bounce』 313号(2009/8/25)

文/青木 正之