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インタビュー

Rei Harakami(2)

感情をなるべく抑えようとしていた

――当時、テクノをかなり聴いてらした?

ハラカミ そう……ですね。ただ(自分の)音源を出し始めてから、真面目に聴くようになったと思いますね。むしろその頃はヒップホップをよく聴いてました。トライブ・コールド・クエストとか、ああいう系統の、トリップホップとかになるかならないかぐらいの時期のものを。トリップホップになると、個人的にはつまんないと思いましたね。ラップとバック・トラックの関係性がある上で、バック・トラックをいいなと思って聴いてたんで。ちゃんとラップしている人がいるから、そういうループ・ミュージックみたいなのが聴ける。でもラップっていう中心がないと、ただのコラージュになっちゃう。ただ、何故僕がそっちの方向にいかなかったかというと、まともなサンプラーを持ってなかったからなんですが(笑)。その時期にMPC(AKAIの有名なサンプラー)とかを持ってたらやってたかもしれないですけど、当時買ったのが音源モジュールだったから。買った機材によって、(自分の音楽の)方向性も全然変わっていたと思いますね。当時はサンプラー主導の時期で……でなければ、アナログ・シンセとか。当時仕事でやってたのがBGM制作だったんで、オールラウンドに何でもできるような環境を作ることがまず第一だったんですよ。だけど〈お父さんが趣味で始めるDTM〉みたいな、そういう機材で始めちゃったから(笑)。それで飽き足らなくなったら替えればいいやと思ってたら、ここまできちゃった。

――あの独特な音色はどのように作り上げたんですか?

ハラカミ うーん……明確なイメージがあったわけじゃなく、93~94年ぐらいから(SC-88Proなどを)使い始めたんですけど、それから2、3年たってある程度(その機材の)音色がどういうものかわかってきて。すると、足し算でできるようになるんですよ。こういう音とこういう音を同時に鳴らしたらこういう音になる、とか。そう考えると、架空のサンプリング・ミュージックをわざわざ打ち込みで作ってるみたいな感覚で始めたような気はしますね。

――当時意識してた音楽やアーティストは?

ハラカミ うーん……イシイさんはあまりにもワケがわからないので真似しようがなかったし……当時、オーブとかはすごい複雑なとこにいってた時期だと思うんですけど、音――情報がめちゃめちゃ多くて、でも突然シンプルになったりして、みたいなことは考えてましたね。打ち込みをやってるとナンボでも音を重ねられるんで、つい多くなってしまうんですけど。

――打ち込みを始めて最初はテクノをやろうとしてたというのは、やはりダンス・フロアを意識していたということですか?

ハラカミ いやあ、自分の音楽でそれはできないと思ってましたからね。むしろCDを出す前にはよくクラブとか行ってたんですけど、自分のなかではどうも相容れないものがあると思いました。違うなあ、と。現場感覚に乏しいという自覚もあったし。結局いまに至るまで一度もDJをやったことがないというのも含めて。


――あ、そうなんですか? 興味ない?

ハラカミ なんか、やっちゃうと知っちゃう感じが。俺の曲はかけにくいだろうな、とわかってしまう。でもそういうことを考えていたら自由じゃなくなってしまう。

――ああ、踊らせるというテーマが逆に創作上は制約になってしまうと。

ハラカミ うーん、まあ実際、家で作ってたから、家で聴けるものをっていう。2枚目ぐらいまでは、ライヴとかほとんどやってなかったし。

――全部ご自分ひとりでやられるわけですよね。それが共同作業なら、ほかの人の手が入ることで、自分では予想もしない方向にいくのが醍醐味じゃないですか。

ハラカミ そうなんですけど、それは後にイヤでもやるようになるわけで。一緒にやってくれる人がいればいいなと思ってたとは思うんですが、単純に同期の仕方が難しい。京都ですし、結局周りにいる人って、Tanzmuzikの(佐脇)興英さんとか、竹村(延和)さんとか、もうすでに(スタイルが)できあがっている人たちばかりで。(アーティストが各々)点在してるだけなんですよ、京都なんか特に。だから自分のことで精一杯でしたし、いまでも〈個人でやってる〉という意識はありますね。

――なるほど。『unrest』の反響はどうだったんですか?

ハラカミ いや全然ないですよ。けなされもしなかったけど、別に新しい音楽だとは、僕も思ってなかったから。荒削りな音楽じゃなかったからね、すでに。

――最初から完成度の高い作品を目指してた。

ハラカミ 後悔したくなかったから。これが最後になるかもしれないと思ってたし……いまでもそうですけど。とにかく変なことをしようとはしてました。後々ほど感情は出してない。感情をなるべく抑えようとしている。その当時のテクノに追随しようとしている感じはあるかも。

――匿名的でありたい。

ハラカミ ある程度はそうかもしれないです。当時は匿名性というのがある種、自由に見えてた時期だから。変名を使ったり。そういうことへの憧れがありつつ、でもそういうことをしても、うまく(後の作品へ)繋がっていかなくなる感じも見えてきて。ぼくは作品を作るペースが遅いから、変名とか出す暇がない(笑)。やりたいことが一杯あってしょうがない、というタイプじゃないんで。その後は意識して名前も変えず、レーベルも変えずやってました。

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掲載: 2009年03月19日 18:00

更新: 2009年03月23日 15:01

文/小野島 大