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インタビュー

アギレラ、BEP、ファーギー、キーシャ、そしてPCDを育てるロン・フェアとは何者だ?

  何かしらの作品で〈Executive Producer〉というクレジットを見れば、そこにロン・フェアという名前を見つけることができるかもしれない。そもそもエグゼクティヴ・プロデューサーというのはその作品の〈最高責任者/総監督〉的な意味で、音楽面にタッチする人というよりもレーベル代表の名前などがそこに載ることが多い。とまあ、業界臭いハナシで恐縮だが、ロン・フェアはレーベルのトップでありながらミュージシャンとしても活躍する数少ない存在なのである。彼はもともと70年代からエンジニアとしてスタジオ勤務していたようで、ビル・コンティ“Gonna Fly Now”(あの〈ロッキーのテーマ〉!)の録音に立ち会っていたそうだから、相当なヴェテランだ。スタジオ付きのエンジニアなので手掛けた仕事のジャンルは不問。アンスラックスからアスワドまで関わった作品は幅広い。が、大ヒットしたサントラ『Pretty Woman』(90年)をプロデュースして業界内の地位を高めると、続いてもサントラ『Reality Bites』(94年)及び、その収録曲でロンが直接制作したビッグ・マウンテン“Baby, I Love Your Way”の大ヒットで一気にRCAのA&Rエグゼクティヴに昇り詰める。そこで辛抱強く育てた女子トリオ=ワイルド・オーキッドは成功には至らなかったが、続いて契約したクリスティーナ・アギレラは世界的なブレイクを達成。ロンはその成果を引っ提げてA&M(→ゲフィン)の社長に就任している。ここでもすぐにヴァネッサ・カールトンをスターにしているが、最大の功績は地味だったブラック・アイド・ピーズを大変身させたことだろう。ここで元ワイルド・オーキッドのファーギーを投入されたBEPの『Elephunk』における大飛躍は説明不要だが、同作のヒットを先導した“Where Is The Love”にのみロンの制作クレジットがある。これはロンにとっても勝負だったのだろう。

  以降、PCDとキーシャ・コールを続けざまにブレイクさせ、メアリーJ・ブライジに決定的なヒット“Be Without You”(ロンが直接ヴォーカル・プロデュース)を授け……と、背広組でありながら要所(重要な曲)でのみ楽曲に手を加えるというロンの独特な手法は確立されていく。自分が前に出るのではなく、ウィル・アイ・アムやポロウ・ダ・ドンら新進を積極的に登用したことも傘下アクトの活性化に繋がった。一方では他社の作品にも演奏家として参加したり、A&Rとしてアギレラ作品に関与し続けていたりするからおもしろい。近年は、元ワイルド・オーキッドのステファニーが発掘したプリマJ、そしてPCDの妹分であるガーリシャスがロンの重要な案件。粘り強く次代の大物を見い出し、音楽的にも高みへと導いていく手腕はまだまだ衰えていないようだ。
▼ロン絡みの作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年11月20日 17:00

更新: 2008年11月20日 17:26

ソース: 『bounce』 304号(2008/10/25)

文/出嶌 孝次