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インタビュー

Nightmares On Wax

愉快な旅の記憶と楽園のヴァイブで満たされたアルバムに身を委ねれば、最高に心地良い悪夢が見られるはず……


  肩の力を抜いた活動ぶりが音にも表れている、ナイトメアズ・オン・ワックス(以下NOW)ことジョージ・エヴリン。ここ数年は自身で立ち上げたレーベル=ワックス・オンの運営にも力を注いでいるが、商業的な色気をまるで感じさせない姿は相変わらずで、そんな姿勢はファンにとって嬉しい反面、マイペースぶりが小憎らしくなってしまうほどだろう。しかし、このたび完成したニュー・アルバム『Thought So...』は何とNOW史上最短のスパンとなる2年半ぶり(一般的には遅い?)での新作リリース! 彼の心境に変化が生じたのかと危惧したが、そこにはイビザへの移住という理由があった。とはいえ、ただの引っ越しにあらず。スタジオ機材とミュージシャン仲間を引き連れ、トラックで録音をしながら旅をするというとんでもないアイデアの産物だったのだ!

「ロード・トリップをスタートしたのは2006年9月10日だね。辿ったルートは俺のホームタウンであるリーズからUKの南部に向かい、ドーヴァーに行って、ユーロトンネルで海を渡ってフランスに入った。フランス北部からフランス側とスペイン側のピレネー山脈を越えて、スペインの中心を通り抜け、セゴビアを通過して、カディスという街に行き……そしてフェリーに乗って新居のあるイビザへ向かったんだ。全部で10日間の旅。最高のヴァイブだったね。音楽を作っている時は時間がとても短く感じたよ」。

 旅をしながら各地のスタジオで録音したり、素材だけ集めるってのはよく耳にするけど……。イイ意味で〈音楽バカ〉と言えばいいのか。引っ越し業者に機材を運搬してもらうのが心配で、自分のキャンピングカーに積んじゃったのがそもそものきっかけというのも微笑ましい。ますます彼に惹かれてしまいそうなエピソードだ。

 それだけに、レコーディングには何のプランも持たずに臨んだのだそう。「感じたままにやる、そうすればアルバム自体がフィーリングを持つだろうと思ったんだ」と話すとおり、そこには流れに身を任せたくなる、ゆるりとした空間が一定のフィーリングと共に存在している。ジャズ、ヒップホップ、ソウル、レゲエに対する造詣の深さを匂わせつつ、型にはまった曲も見当たらない。ただ誤解してほしくないのは、『Thought So...』が単にまったりしただけの退屈な音楽ではないということ。それぞれの曲からは豊かな感情が湧き出しているし、美しいサウンドスケープにも聴き惚れてしまうだろう。そこには、本作のミックスを手掛けたイビザからのインスピレーションが大きく影響しているという。

「美しい木々、美しい風景、窓の外を見ると海が遠くに見えるし、本当に美しいものに囲まれている。いままでとは違ったエナジーからインスパイアされるし、何て言えばいいかな? 俺はコンクリートの建物だらけの都市で育って、そこにもまた違うエナジーがあるんだけど……イビザのはもっと鮮やかで、明快なエナジーなんだ」。

 こんなにも瑞々しくソウルに満ちた素晴らしいチルアウト・ミュージックを作っておきながら、「いまの俺がフォーカスしているのはNOWよりもワックス・オンなんだ」と言ってしまうジョージ。コマーシャルなハウスが大勢を占めるイビザでもわが道を行っている。

「〈Wax Da Beach〉っていうビーチ・パーティーを、イビザの〈Kuhmaras〉という場所でやっているんだ。それと〈Wax Da Box〉っていう1時間のラジオ・ショウも週1回やっている。俺はそうやって島中に自分のフレイヴァーを撒いているのさ」。

 そのラジオは〈www.ibizasonica.com〉で聞くことができるので、興味のある方は『Thought So...』と共にぜひ!

▼ナイトメアズ・オン・ワックスの作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月23日 21:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/青木 正之