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インタビュー

Michael Franti & Spearhead

現実を嘆くだけじゃなにも始まらない。すべてのレベル・ロッカーズよ、いまこそいっしょに歌っていっしょに踊って、音楽で世界を変えてみないかい?


  マイケル・フランティ・アンド・スピアヘッドのニュー・アルバム『All Rebel Rockers』は凄い。全編ポジティヴなヴァイブスに溢れていて、真っ直ぐ前を見つめている。スコンと抜けたアーリー・ダンスホール風の曲があれば、騒々しいパーティー・チューンもある。世界の惨状を嘆く“Hey World(Don't Give Up Version)”のように静かなアコースティック・バラードもあるが、全編を覆うのは陽性のパーティー・グルーヴ。裸足のレベル・メッセンジャー、マイケル・フランティ(ヴォーカル:以下同)はこう話す。

「たくさんの問題を抱えている、いまを生きる人たちがポジティヴでいられる助けになるようなアルバムを作りたかったんだ。世界のどこにいようと、その人たちがこのレコードに合わせてダンスしてくれればいいと思ったんだよね」。

 大部分のレコーディングが行われたのは、前作『Yell Fire!』と同様にジャマイカのキングストン。前作に続いての参加となるスライ&ロビーがタフなビートを提供し、映画「ONE LOVE」で準主役を務めていたシェリーン・アンダーソンも3曲でラフなDJを披露。さらには、これまでも共演を重ねてきたザップ・ママことマリー・ドルヌの歌声も“High Low”で聴くことができる。特にマリーに対しては「自分が女性になるとしたら、彼女のようになりたいね」と手放しの賛辞を送る。

 イスラエルやパレスチナを旅した経験が色濃く表れた前作は、世界中に蔓延する苦悩を見つめ、生々しく音盤化したアルバムだった。マイケルは当時の体験について「困難な時期に音楽がどれほど重要なのか、世界を見て回った時に思い知った」と話すが、今作は世界中を重苦しく包み込む空気感を太いビートと言葉ではね除けようとする力に溢れている。

「アルバムのテーマは、危機に直面しているいまを、ユーモアと笑顔を忘れずに、踊って、心を大きく構えて、愛を信じて、前向きに生きること。そしてそれこそは、宗教的・文化的な恐怖やいがみ合い、いかなる壁に打ち勝つために必要なものなんだ」。

 かつてのディスポーザブル・ヒーローズ・オブ・ヒプホプリシー時代から、マイケルは〈レベル・ロッカー〉としてのスタンスを頑ななまでに貫いてきた。そんな彼が、キャリア20年を超えたいま、あえてタイトルに〈すべてのレベル・ロッカーたち〉と付けた意味とはどこにあるのだろう。

「〈レベル〉っていうのはシステムに対抗するという意味。人々がエネルギーを失い、環境問題が深刻化してくのは、このシステムのせいだ。だからいまレベルでいるということは、ポジティヴでいよう、争いや不安をなくす解決策を探そう、環境への取り組みを続けていこう、ということなんだ」。

 では、〈あなたにとって最高のレベル・ロッカーは?〉と問うと、「ボブ・マーリーとピーター・トッシュ、この2人は僕にとってイコールだ。それとジョニー・キャッシュとジョン・レノン……もうひとり、ジミ・ヘンドリックスは外せないね!」と嬉しそうに答えてくれた。

 この『All Rebel Rockers』にあるのは、音楽に対するマイケルの絶対的な信頼感だ。〈音楽は世界を変えられる〉――そんな揺るぎない信念は、ポジティヴなエネルギーとなって今作に注ぎ込まれている。ダンスホールやソウル、ダブ、ヒップホップ、ファンクなどサウンドの構成要素を分析していくことは、今作においてはあまり意味をなさないだろう。ひたすら前を向いたポジティヴなエネルギー、それこそが今作を最高のパーティー・アルバムにしているのだから。最後に、マイケルにこんな質問をブツけてみよう。〈以下の3つのうち、キャッチコピーとして付けられるとしたらどれがいちばん嬉しいですか?――1:音楽を武器に闘う革命家、2:世界に愛を伝えるメッセンジャー、3:最高のヴォーカリストにしてソングライター〉。

「そうだね……4つ目の〈人々の笑顔を見るのが大好きな人〉がいいかな」。


シェリーン・アンダーソンの楽曲が収録された2005年のサントラ『One Love』(VP)

▼マイケル・フランティ・アンド・スピアヘッドの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年08月07日 00:00

更新: 2008年08月07日 20:49

ソース: 『bounce』 301号(2008/7/25)

文/大石 始