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インタビュー

べイベーも男子も必聴! 華麗なるミッチーの軌跡 その1

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2008年07月10日 18:00

更新: 2008年07月10日 18:01

文/笹川清彦(cast)


『理想論』 東芝EMI(現・EMI Music Japan)(1996)

いきなりセミヌードのジャケットで登場し、度肝を抜かれたファースト・アルバム。結果的に商業的成功は得られなかったが、世間に打ち出したい世界観や表現というものに対するエネルギーが高濃度で凝縮されており、及川光博の原点として見逃せない作品だ。サウンド面で言えば、とにかく収録曲の振り幅がすごい。みずから声色を変えて多重録音した一人芝居“「宇宙人デス。」”で幕を開け、プリンスの影響をモロに感じるファンク・チューン“ワルイコトシタイ”、ジャジーな名バラード“SNOW KISS”、ボサノヴァ・タッチの“真昼の月”、アイドル・チックなポップス“「テイク・マイ・ハート」”、ギターやホーンがうなるブラス・ロック“運命のいたずら”など、とてもひとくくりにはできない多彩な楽曲が並ぶ。それゆえに「一体、何がやりたいの?」と戸惑う人も多かっただろう。だが、この多面性――「これを全部、表現したい!!」というのが〈表現者・及川光博〉の実像であり、その姿を赤裸々にさらけ出したからこそ、このジャケットが必要だったんだと思う。そして、葛藤や欲望を含む人間の本質に鋭く迫った深い歌詞世界が、アルバム全体を筋の通ったものにしている点も見落とせない。特に冒頭2曲――“「宇宙人デス。」”と“モラリティー”は、彼の哲学が刻まれた重要作。自分にしか表現できないものを徹底的に詰めこんだこのアルバムで、及川光博は音楽シーンという広大な海原に船を出した。


『嘘とロマン』 東芝EMI(現・EMI Music Japan)(1998)

ファースト・アルバム『理想論』の後にリリースした4曲のシングル“三日月姫”“その術を僕は知らない[G]”“フィアンセになりたい”“悲しみロケット2号”、デビュー時からライヴでやっていた人気曲“忘れてしまいたい”などを収め、セカンド・アルバム『嘘とロマン』は、全体的に歌謡成分も高いポップな仕上がりとなった。ミッチー本人の言葉を借りれば「自宅録音の延長で、ある意味、自己完結の世界とも言えるファーストに対し、セカンド・アルバムは、世の中やベイベーたちのことも意識した〈外向き〉の作品になった」――。無論、これは売れ線狙いの下世話なポップ感の露出ではなく、彼の哲学を閉鎖的な美学のまま完結させないように作品化した結果。アルバム・タイトルも含め、〈光と陰〉など二律背反な面を追求する姿勢や、“忘れてしまいたい”のラップ部分で歌われる〈恋愛は共同幻想〉という思想は、いかにも彼らしい深さを伴った表現だし、そういった根幹をそのままに、“三日月姫”でのファンキーさ、“その術を僕は知らない[G]”で披露するカッコいいギター・ロックなど、ファースト・アルバムで示したさまざまな要素を社交的な明るさをまとって発展させた作品集なのだ。ミッチーの持つポップセンスを最大限に発揮したこのアルバムは、発売後にチャートでトップ10入りを果たし、セールスや認知度という面でも成果を収めることに。だが、この路線をなぞるようなアルバムを彼はこれ以降、作っていない。それもまた、及川光博らしさと言える。


『欲望図鑑』 東芝EMI(現・EMI Music Japan)(1999)

前作『嘘とロマン』で世間に認知されたミッチー。だが、当時はテレビや〈王子〉のイメージがまだ強く、残念ながらアーティストとして正当な評価を得たとは言いにくい状況だった。そのジレンマに悩み始めた彼は、パブリック・イメージに逆行し、D.I.E.などバリバリのロック畑の面子を迎えた“僕のゼリー”を敢えてシングルで発売。及川光博のダーク・サイドと言えるこの曲を機に、サード・アルバム『欲望図鑑』は〈自己解放〉をテーマに制作されていく。「もう、やるだけやってやる!」とばかり、曲ごとに彼の持つ音楽性が爆発。〈Make It〉とタイトル(名器)を掛けたセンスが光る“名器”、インディーズ時代の名曲“S.D.R.”というファンキーでカッコいいグルーヴ・チューンもある一方、凄まじく内向的でマニアックな音世界が展開する“血管と白夜/1999”など、振り幅の大きさはファースト・アルバム以上。そんな各曲の世界観を、優れたミュージシャンと共に徹底的に詰めた完成度の高さもファースト以上だ。なかでも“意気地なし”“帝王学”“S.D.R.”をニューヨークで録音し、スティーヴ・ガッド(ドラムス)など憧れのプレイヤーに参加してもらった体験が彼に大きな自信と満足をもたらす。及川光博の音楽史に燦然と輝く“バラ色の人生”が放つ開放的な幸福感こそ、制作過程において精神面でのアップ・ダウンを経て産み落とされた本作の代表曲にふさわしい。


『ニヒリズム』 東芝EMI(現・EMI Music Japan)(1999)

デビューから1999年までの約3年半に発表した中から12曲をセレクトしたアルバム。言わば90年代のベスト盤で、シングル曲を中心としたソウルフルなダンス・チューンがズラリと並ぶ構成は、文句なしに楽しめる。ただし、単に曲をまとめるだけでなく、本人作・演出・出演による寸劇(?)をインタールード的にはさみ(“さて、問題です。”“発信音のあとに”“最終問題です。”)、完全録り直しによる新ヴァージョンを6曲も収録するなど、オリジナル・アルバムに準じた構成にしている点が彼らしい。及川光博にとって、〈作品〉に対するこだわりや情熱の注ぎ方は、たとえベスト盤であっても同じなのだ。新ヴァージョンで収録されたのは“三日月姫〈スペシャル〉”“ワルイコトシタイ〈I・N.Y.〉”“理想論'99”“SNOW KISS -again-”“モラリティー〈完全版〉”“求めすぎてる?僕。〈デラックス〉”。“三日月姫〈スペシャル〉”を除き、すべてファースト・アルバム『理想論』収録曲というところに、「あの当時からレベルアップしたいまの自分で、もう一度しっかりと形にしたい」という音楽家としての意志が感じられて頼もしいかぎり。“S.D.R.”も、アルバム『欲望図鑑』収録時とはまったく違うテクノ風の〈nihilism mix〉で収められた。なお、古き良き時代のアイドルを模したブロマイド風のジャケットは、老舗・浅草マルベル堂で撮影したもの。初回盤には、1999年12月リリースということで〈可憐だ…2000〉と題した2000年カレンダーが封入されていた。


『聖域~サンクチュアリ~』 東芝EMI(現・EMI Music Japan)(2001)

オリジナルとしては、前作『欲望図鑑』から2年5か月もの間隔をあけて発表された4枚目のアルバム。この『聖域~サンクチュアリ~』を及川光博の最高傑作と呼ぶ人も多い。相変わらず多彩な内容だが、とにかく楽曲そのものが粒ぞろいなのは事実。ポイントのひとつは、他者とのコラボレーションだ。ミッチーは2000年に、歌謡界の大物作曲家・筒美京平と曲を共作(“君の罪、僕の雨。”“パズルの欠片”“CRAZY A GO GO!!~この世でオンリーワン!!~”)。その後、リスペクトしていたオリジナル・ラヴの田島貴男にオファーし、作曲&編曲&コーラスを担ってもらう形で“特別なひと”を作り上げる。そういったコラボレート作業により、創作面で新たな扉を開ける一方、それは自分の音楽を見つめ直すことにつながった。自作曲においては、不安も弱さも交え、心のままに自身の本音を綴る姿が映し出されている。その代表格が“サンクチュアリ”と“ココロノヤミ ―聖域―”。“サンクチュアリ”はアップ・テンポのロック・チューン、“ココロノヤミ ―聖域―”は壮大なミディアム・ナンバーと音の質感は全然違うが、両曲とも、飾りを取っ払ったところで見せる〈一人の男としての意志と存在感〉が聴き手の心に響く。そこには、スターでもなく恋愛伝道師でもなく、僕らと同じように毎日を懸命に生きる〈人間・及川光博〉がいる――だからこそ、このアルバムを大切な1枚と挙げる人が多いのだろう。特に“ココロノヤミ ―聖域―”は、いつ聴いても胸が締めつけられる不朽の名曲。


『禁猟区~サンクチュアリ~』 東芝EMI(現・EMI Music Japan)(2002)

タイトルと同名の全国ツアーより、2002年2月17日・18日に行なわれた大阪フェスティバルホール公演の模様を収録した2枚組ライヴ・アルバム。及川光博にとって初のライヴ盤であり、ライヴ・パフォーマーとして定評のある彼を音で体験できる作品集だ。視覚的に堪能できる映像作品とは違い、ライヴCDは聴覚のみ。それゆえに、かえって聴き手はイマジネーションを働かせ、より臨場感の増した聴き方ができるように思える。で、肝心の内容だが、傑作アルバム『聖域~サンクチュアリ~』を作り終えた後のツアーだけに、悪いはずはない。バンド・メンバーも阿部薫(ドラムス)や原田喧太(ギター)などツワモノ揃いで、重厚かつパワフルな演奏を聴かせるうえ、音質も最高。それまでの活動の軌跡を総括するような選曲もいい。2枚にわたって収められた全23曲を通して彼のワンマンショーを存分に味わえるし、もし〈ミッチーのライヴには、まだ行ったことがないんだよねぇ……〉と食わず嫌いの人がいたら、ぜひこのアルバムを聴かせたいものだ。おもしろいのは、ディスク1の“長めのトーク”と“短めのトーク”、そしてディスク2の“愛と哲学の小部屋”で、計20分以上にも及ぶMCを完全収録していること。これらのトークを曲とクレジットすること自体笑えるが、ベイベーたちの乗せ方など、ミッチーの見事なエンターテイナーぶりを理屈抜きに楽しめる。


『流星』 ワーナー(2002)

あいだにライヴ盤を挟みつつ、前のオリジナル・アルバム(『聖域~サンクチュアリ~』)から1年弱という短いインターバルでリリースされた新作。完璧主義者のミッチーが初めて「時間をかけずに作ろう!」と思ったアルバムで、本人いわく「〈録って出し〉って言うか、真空パックみたいな瞬間冷凍レコーディングをしたかった」。この頃のミッチーはライヴを重ねるたびに自信も深めていたはずで、前作の〈心のままに〉という制作テーマを、より肉体的なグルーヴで作品へと昇華させたかったのだろう。イントロからエレキ・ギターが豪快に鳴る“月下美人”やルースターズのカヴァー“NEON BOY”など、エイト・ビートのロックンロール曲が多いのも頷けるところ。忌野清志郎とのグラマラスなユニット、ミツキヨによる“強烈ロマンス(ミツキヨ)”も実にパワフルで刺激的な仕上がりだ。“ベストフレンド”“シャンデリア・ラブ”は加藤ひさし(ザ・コレクターズ)が作曲し、多くの楽曲で深沼元昭(mellowhead)がアレンジを担うなど、他者とのコラボレート作業にも積極的に向かっている。そんななか、詞においては“月下美人”やタイトル曲などで歌われる〈美しいものの儚さ〉――この、華やかさの背後にある日本的なリリシズムが今作のポイント。異色作は“セルロイドの夜”で、このムード歌謡はもはや演歌の一歩手前の世界。〈ミッチーは何でもあり!〉ってことを改めて見せつけてくれた。

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