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インタビュー

System Of A Down(2)

堅固たるバンドの結合力!

 ダロンが話すように、『Mezmerize』の収録時間はわずか37分とほぼアナログLPと同じ長さだが、そこに凝縮された情報量の多さは凄い。メタルからソウルまでの多彩な影響を消化し、アルメニア系という東欧の文化背景を持つ彼らのユニークな音楽はヘヴィー・ロックやメタルといった形容では括れないものだ。この新作では角立ったギター・リフが攻撃的な推進力を与えながらも、頻繁なリズム・チェンジなどの先が読めないジェットコースター的曲展開がさらに発展する。それと同時に、ダロンがこれまでになく前面にフィーチャーされ、サージとのハーモニーを随所で聴かせる新生面もある。今作ではダロンが作曲だけでなく、以前より多くの歌詞を手掛けて歌もたくさん歌っているのだ。

「僕はこれまでもずっと歌詞を書いていたよ。より歌うようになったから、ようやくみんなが気付きはじめたんじゃないかな。ずっと同じだけバンドに貢献してきた。常に曲を作って、プロデュースを担当している。以前より何か多くのことや新しいことをやっているとは思っていない。これがSOADでの僕の仕事なんだ。シェイヴォはアート・ディレクションなどを担当している。このバンドは4人それぞれが強みを持っていて、お互いにそれを表現するスペースを与え合っているのさ」(ダロン)。

「そこがとても健全だよ。僕らはスポーツ・チームみたいなものさ。クォーターバックもいれば、ラインバッカーもいる」(シェイヴォ)。

「この2枚のアルバムでは以前にも増して堅固なバンドの結合力がある。4つの楽器といくつかの歌声が、シンフォニーを思わせるものになっているよ。すべての異なった楽器がひとつになって作品が出来上がっているんだ」(ジョン)。

 先行シングル“B.Y.O.B.”は、音楽性においても、歌詞の内容においても、さまざまな要素を詰め込んだSOADらしさがよく現れている作品だ。〈どうして大統領は自分で戦争を闘わないんだ。どうして常に貧乏人が戦場に送られるんだ?〉という反戦メッセージを叫ぶ高速スラッシュ・メタル調のヴァースと、〈みんなパーティーに出かけてすごく楽しい時間を過ごしている。砂漠で踊って太陽を爆発させている〉とキャッチーなR&B調のコーラスが組み合わされている。このように、政治的なこと、日常的なこと、まじめなこと、ユーモラスなこと……といろんな要素が並置されているのも彼らの特徴のひとつ。

「朝起きてコーヒーか紅茶を飲みながらあることを考える。しばらく後には他のことを考える。その後にはまた別のことを考えているかもしれない。どうしてひとつのことに焦点を合わせなくちゃいけない? そんな1日のような曲を作ってもいいんじゃないか。ダイナミックで、複数の興味が共存する。それが曲をさらに興味深くすると思う。でも、僕らがそれを狙ってやっているとは思わないな。自然に生まれてくるものさ。意図的じゃない」(サージ)。

「僕とサージの歌詞への取り組み方はかなり違う。僕は率直でシンプルな歌詞だけど、彼は複雑な言葉も混ぜ合わせた抽象的な歌詞を書く。それがすごく良い。でも、抽象的なままだったら、僕ですら理解するのが難しい。そこで僕らはそれらをいっしょにする。それがSOADらしいサウンドになる理由だ。異なった世界がひとつになる。僕とサージの相性が重要なんだ。何をするにも彼は複雑なやり方をするし、僕はシンプルなやり方をする。お互いがお互いを必要としている。それがSOADだと言ってもいい。とてもシンプルな曲の構成の中で多くの複雑なことが動き回るんだ」(ダロン)。

 SOADは〈長年迫害されてきた少数民族という立場〉からの政治的メッセージを込めた作品で知られてきたバンドだが、メンバーには政治的な面ばかりが注目されることに少し抵抗もあるという。

「僕らは政治の話ばかりをしているわけじゃないよ。そういう時もあるけど、いつも激論を戦わせているわけじゃない。バカをやって笑っていたりもする。僕らの住む世界を反映しているだけなのさ。この世界は政治だけで成り立っているわけじゃない。楽しいことや悲しいことなど、すごくたくさんのことが世界で起きている。僕らの音楽はそれらを反映しているんだ」(ダロン)。

 ただし、20世紀初めにテュルク(現トルコ)政府に150万以上の同胞が虐殺されたアルメニアの悲惨な過去や、戦時下のイラクに今もダロンの親戚が住むという現実が、彼らにとっての〈自分たちを取り巻く世界〉であることを僕らは知っておく必要があるだろう。

 オーディオスレイヴのトム・モレロと非営利団体=アクシス・オブ・ジャスティス(正義の枢軸)を設立して政治活動を熱心に行うサージは、日本の自衛隊イラク派遣にも苦言を呈してから、こんな思慮深いことを言った。

「現在の世界は危険な状態にある。なぜなら、それは僕らが人間としてこの惑星にどんな意味があるのかだけでなく、この惑星が僕らにとってどんな意味があるのかを誤解しているからだ。こういった多くの人たちは、この惑星を資源として使いたいと望んでいる。彼らは僕らこそが資源だということを理解していないんだ」(サージ)。
▼システム・オブ・ア・ダウンの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月23日 15:00

更新: 2005年06月30日 19:03

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/五十嵐 正