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インタビュー

『equality』参加メンバーのセレクトから見える、福富幸宏の現在のヴィジョン

 ソウルフルで黒くって、文字どおり〈ミュージカル〉。そして先端をいくクラブ・サウンドの成果が血肉化された作品。福富幸宏の新作『equality』はそんなふうに紹介できる。また、長年自由な立場で音作りを追求してきた福富が、はっきりとした意図を持ってゲストの魅力を活かしきった作品だともいえる。ここでは参加した面々に触れつつ、今の福富の志向するところを追ってみよう。まずはイザベル・アンテナ。ニューウェイヴ世代には懐かしい名前だ。80年代初頭、彼女を中心としたグループ、アンテナはボサノヴァを取り込んだエレポップの種子を蒔いて、今のクラブ・サウンドのひとつの原型を示した。だから同じくあの時代に活動を始めた福富が、ハウスを経由してブラジル音楽を取り込んだ音を作るのもわかる気がする。一方、この方面での今の声の主役、ヴィクター・デイヴィスの起用にも注目。ブロークンビーツ調サンバに乗った実にセンシティヴな歌声が出色だ。ブラジルとハウス、またはジャズとの密なる関係。これは今の福富のなかで不可分なのだ。そのバックボーンが、〈ソウル〉への熱い希求なのだと思う。もともと福富作品は黒いが、洗練された音の表情からかその部分はこれまでさほど指摘されなかった。が、新作は〈濃さ〉が違う。クロスオーヴァーのディーヴァと囁かれるレディ・アルマのパワフルな喉、ギル・スコット・ヘロンを彷彿とさせるリッチ・メディーナのディープなリーディングはその代表だ。その一方で、〈ミュージカル〉な充実具合も聴き逃せない。吉澤はじめの流麗な鍵盤、またorange pekoeとはひと味違う藤本一馬のファンキーなギターに代表されるように、これまで以上にふんだんに生演奏を散りばめているのも福富の今の志向がよく反映されているところなのだ。

▼文中に登場したアーティストの作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年11月11日 11:00

更新: 2004年11月11日 18:08

ソース: 『bounce』 259号(2004/10/25)

文/池谷 修一

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