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インタビュー

一十三十一

ミステリアスな美を放つ彼女が、直感や閃きを込めた新作について語る!


 この一十三十一(ヒトミトイ)というシンガーの存在には実は前々から惹かれる部分があって、それはどういったところかというと、ひとつに独特な節まわしだったり、一風変わった衣装の写真だったり、そしてそもそも奇妙なアーティスト名義そのものだったりするわけである。

「この名前ですか? ハハ、たしかによくわかりませんよね。でも見る人に〈何だろうこれ?〉って思われた時点で思惑どおりというか。その時点でリスナーと私はすでにセッションしてるっていう」。

 訊けばこの漢数字の並びは、彼女の本名をモジったものらしい。人間というものは実に単純なもので、そうタネ明かしをされた途端、これまで無機質に見えていた〈一十三十一〉の字面から、ある種の表情のようなものが受け取れるから不思議だ。しかし続けて彼女は軽々とこうも付け加えた。「意味は大してありませんよ」と。

 一十三十一というこのミステリアスな女性は、2002年にシングルを3枚、翌2003年にはアルバムを1枚、それぞれ同じインディー・レーベルから発表している。そのアルバムのタイトルは『360°』といって、全18トラックを収録した圧巻のヴォリュームであった。

「前のアルバムに関しては、音楽を作り始めた10代から当時(23歳)までの自分を圧縮した集大成。そんな意識ですかね。で、それを基準に考えるなら今回の新作ミニ・アルバム『  (フェルマータ)』は〈それ以降の私〉であり〈最近の私〉かな」。

 こう彼女が説明してくれたメジャー・デビュー作品『  (フェルマータ)』。楽譜面でいうところの〈余韻〉を表す記号である。これまた深読みを誘うタイトルではあるが、前で触れた名義同様、「フトした思い付きのようなものです」とのこと。

 内容としては彼女が「空間の美、マイナスの美。今回の主役はメロディーと声でした」と語るように、シンプルでいながら実に力強い表現が行われている。言葉と言葉、声と声の間にひっそりと空けられた隙間。ポップスとしては若干ビターな印象さえ受けるこの意図的な引き算というものに、むしろ聴き手として参加欲求のようなものを掻き立てられるのはなぜか。

 音楽とはコミュニケーションである。〈異郷の人物と食卓を共にすることでお互いをわかり合う、それと同じように、いっしょになって音楽に興じ踊ることによってわかり合えたことがたくさんあった〉と彼女は、幼少期より家族と頻繁に浸かってきた漂泊のような旅行のような、そんな体験談の中で話す。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年07月15日 11:00

更新: 2004年07月15日 17:31

ソース: 『bounce』 255号(2004/6/25)

文/西崎 博之