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インタビュー

横山健(2)

いまは、〈愛情〉について歌わないと

 さて、初のソロ作品というだけに、レコーディングのメンツもこだわったものになった。盟友LOW IQ 01(ベース)、ニール&イライザの堀江博久(キーボード)、Jah-Rah(ドラムス)、ザ・コレクターズの古市コータロー(ギター。1曲のみ参加)。2001年の秋にリリースされた矢沢永吉のトリビュート・アルバム『JOYRIDE』に伴ったライヴ・イヴェントで、YAZAWA本人のバックを務めた〈矢沢組〉でもあり。

「このメンツならどんな音が出てもいいや!ってくらい、いっしょに作りたいって思いがありました。そういう思いって、物を作る純粋な動機になるし、大切ですよね。でも、(メンバー全員が対等な)バンドのような意見交換がないのは、ソロでの寂しさを感じた部分ではありますね」。

 といった初体験もありつつ生まれたアルバム『The Cost of My Freedom』。ハイスタ時代を彷佛とさせる勢い全開のナンバーから、優しい響きのアコースティック・ナンバー、グルーヴィーなオルガン・チューン、BBQ CHICKENS“Popcorn Love”のリメイク、リッチー・ヘヴンス“Handsome Johnny”のカヴァー……と、さまざまな世界が広がっている。

「“Believer”は、今回のバンドでやりたいと思ったきっかけの曲ですね。ホントは全部バンドでやっても良かったけど、最後の最後にアコースティック曲“Longing(A Quiet Time)”ができたのは象徴的かな。長いソロ構想があって、最初のところに戻ったわけですからね」。

 そして、飾り立てることない無骨なヴォーカルには、なんとも言えぬ説得力がある。

「最初は相当悩みましたね。でも、レコーディングの最後のころには歌う楽しさも掴みました。気持ち良くなっちゃって、いままでもったいなかったなって(笑)。やっぱり歌がいちばん伝わりますよね。ギター・デュオとかやりたいと思いましたよ(笑)」。

 自分で歌うことによって、歌詞の内容もパーソナルなテーマが多くなったという。

「ぶっちゃけた話、いろいろ考える必要なくて楽でしたよ。たいへんだったんじゃない?って思われるかもしれないけど、逆に出しちゃったほうが楽でした(笑)。アルバムのタイトル曲は自分の半生を書いたものだし、自分の人生観や哲学を書いた曲もあるし。あと、ラヴソングが多いんです。愛とか人生観、深い家族愛とかいろんな角度から見たラヴソングですね。恋愛とかを特別視しなくなったというか……大切なことじゃないですか。僕は、戦争のことも恋愛も同じ現実問題ですから、政治と同じレヴェルで考えられると思うんです。いまは、〈愛情〉について歌わないと、心にポッカリ穴が空いてしまうんです」。

 アルバムのタイトル曲については、さらに突っ込んで訊いてみた。

「〈自由のために払った犠牲〉――自由を得るまでの孤独があって、自由を獲得してからは別の孤独がある。僕は、人間は一人で生まれて一人で死ぬってどこかで考えてるんですよ。冷めてるのかな。自分の人生で成功を掴んでも、それでも寂しい。自由と孤独って表裏一体だと思うんです。やっぱりみんな孤独なんじゃないかなって。他の人はそうじゃないよと思うかもしれないけど、いまの自分はそう思ってますね。まあ、〈意味深〉ってことで(笑)」。

 彼の人生観を映し出した『The Cost of My Freedom』。だからといって、マジメ一辺倒で語るべきアルバムではない。たしかに、アルバムのタイトルやジャケットは意味深だけど……。

「アルバムを出した以上は、たくさんの人に聴いてもらいたいんだけど、そこから先はなんにも求めてないんです。単純に〈イイな〉〈イヤだな〉とかでいいんです。そんなものですよ。〈軽い〉ものなんですよね、音楽って。生活に身近なものだし、なんにも高尚なことはないんです。だからこそ大切だし、さっきの恋愛の話じゃないけど、へんに特別視するものじゃなくね。だからソロに対して気負いもないし。べつに卑下してるんじゃなくね。もっと音楽は、気軽で生活に密着してるものであってほしいな。少なくとも僕の生活には密着してますよ」。

 ソロとしてのキャリアをスタートさせた横山健。彼はこの先、どんなことをやってくれるのだろうか。

「単純に、自分の持ち歌ができたってことはうれしい。自分がいてギターがあればどんな状況でも演奏できるし、自分の今後の活動もワクワクして何からやって良いかわかんないくらい(笑)」。


“Handsome Johnny”を収録したリッチー・ヘヴンスの67年作『Mixed Bag』(Polygram)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年02月26日 17:00

更新: 2004年03月18日 19:16

ソース: 『bounce』 251号(2004/2/25)

文/土屋 恵介