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インタビュー

PE'Z

怒濤のライヴ・ツアーを経て、PE'Zがさらにパワーアップ!! あらゆるジャンルをガブ飲みし、驚異的な進化を遂げた新作『極月 -KIWAMARI ZUKI-』は凄いことになってるぞ!!


〈ジャズの堅苦しいイメージを壊したいからライヴハウスでやる〉って、確かに言ってたっけ。〈生々しさと熱さが大事だから、マシンはもちろんミュートも使わない〉とも。出すシングルはすべてヒットし、ライヴはどこもソールドアウト。目の回るような快進撃が続いているPE'Zだが、ちょっと待ってくれ。今年はジャズ・クラブ・ツアーをちゃっかり成功させ、待望のセカンド・アルバム『極月 -KIWAMARI ZUKI-』では打ち込みもエディットもミュートもありまくりじゃないか。確かに新境地といえば新境地なのだけど、それにしてもOhyama“B.M.W”Wataruさん、昔と言ってること違いませんか?

「そうなんですよ(笑)。最近気付いたんですけど、僕たち、以前は強く否定してたことを平気でやれちゃうんですよ。そういうのが多すぎる(笑)。このアルバムも、以前ならナシだった要素をどんどん入れましたからね。ほんと、あんま無責任なことは言えねぇなって思いましたもん」(Ohyama“B.M.W”Wataru、トランペット : 以下同)。

 しかし矛盾しているようだが、PE'Zのやっていることは常に一貫している。見知らぬ通行人を相手にしたストリートから、汗だくの客を前にするライヴハウス、そして大人向けのクラブと演奏場所を移したところで、そこにはどんな時も〈より多くの人に聴いてもらいたい〉という強い想いがあった。そして〈いかに切り口を広げるか〉という必死の努力があり、結果として新曲が生まれてくるわけだ。踊り好きな若者だけでなく、より幅広い年齢層にアピールできそうな新作は、余裕の表れなんかじゃない。たゆまざる努力の賜物と呼ぶべきだろう。

「たとえば川の魚は海から戻ってきて川を上るけど、そこで滝上りをする、あの必死さを持たないとダメだと思うんですね。なかには上るのを諦めて途中で卵生んじゃうやつもいるんだけど、その卵は他の魚に全部食われちゃう。必死に滝を上っていかないと、いい結果にはならないなって思いますよ」。

  だからなのだろう。いかに洒脱でポップな楽曲であっても、PE'Zの音には〈ド根性〉という言葉が似合う、いい意味での暑苦しさ、力強さ、泥臭さが存在する。タンゴからテクノまで、今までにない要素を意識的に採り入れたという新作も同じこと。テクノの〈テ〉の字だけを残して後はPE'Z流の泥臭さでこねあげてしまったような、要するに消すことのできないPE'Z印が全曲に刻まれているのだ。

「やっぱ情熱は失いたくないですよね。熱いとかトンがってるとか、小粋じゃない部分。そういうところが変わんないから、いろいろ細かいジャンルに手を出したところで、たいして変わらない。でもそれが自信になりましたよ。なにをやってもある程度自分らのサウンドになる、なんでもやれるっていう。だから、なにも変わんないなっていうのは、すごくプラスの自信ですね」。

 自信がついた彼らには、遠慮がなくなった。とにかく新作のカラフルさには容赦というものがないのである。アフロに挑戦したあとにキューバ音楽をつまみ食いし、澄まし顔でサンバとボサノヴァをやってから平気でジャズをやる。言ってしまえば『極月 -KIWAMARI ZUKI-』はそういうアルバムだ。節操がないと言えばそのとおりだし、結局はどんなジャンルだろうと〈ド根性〉印なのだから、そんなのホンモノじゃないという声が挙がるのかもしれない。でも、その声をOhyamaは笑って認めてしまう。いかにそれっぽいものを作るかは目的じゃない。むしろ泥臭くすることのほうが大事なのだと。

「今の時代、カッコいいって言われる音楽を作るのはけっこう簡単かなって思うんですよ。機材も揃ってるし、それっぽいものを作ってカッコ良さげだと思わせるのは難しくないと思うんですね。でも、本気で〈いい〉って言わせるのは難しい。やっぱり僕らは、リスナーの期待に応える、リスナーを感動させるメロディーが作りたいんですね」。

 本物っぽい雰囲気より、感動するメロディーを。その考え方は最近のシンガー・ソングライターよりも、往年の作曲家に近いものだ。一部のマニアを喜ばせるモノホンではなく、老若男女に届く歌心を追求するPE'Z。その志の高さが変わらないからこそ、PE'Zはどんなときでも努力し続けているのだし、その努力が実ったからこそ、『極月 -KIWAMARI ZUKI-』はPE'Zらしい傑作に仕上がっている。

▼PE'Zの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年12月11日 17:00

更新: 2003年12月11日 17:56

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/石井 恵梨子