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インタビュー

Mary J. Blige(2)

クイーンの面目躍如

 一日千秋の思いで待ち焦がれた、メアリーとP・ディディのリユニオン。この組み合わせから浮かび上がってくる音像はR&Bファンのコンセンサスとして確立されている印象があるし、それを叶えるのに誰が必要とされるのか、すらすらと名前を挙げていける者も少なくないだろう――『Love & Life』のプロデューサー・リストにはドクター・ドレーやケイ・ジーの他、マリオ・ワイナンズやスティーヴィー・Jなど、バッド・ボーイ・キャンプの面々がずらりと名を連ねている。

「今回のアルバムでは〈Queen of Hip Hop Soul〉の面目躍如が十分に果たされていると思うわ」。

 アトランティック・スター“When Love Calls”を使ったアップリフティングな“Willing & Waiting”、マーヴィン・ゲイ“I Want You”の鮮やかな引用が光る“When We”をはじめ、それぞれエドOG“I Got To Have It”とグランド・プーバ“I Like It”を連想させる“Ooh!”や“All My Love”など、ほぼ全編に渡ってバッド・ボーイ的な方法論が駆使された、サンプリング主体のサウンド・プロダクション。さらには表題曲でのジェイ・Z以下、“Not Today”でのイヴ、“Let Me Be The One”での50セントと、当代きっての人気ラッパーがこぞって参加している点を踏まえても、『Love & Life』を〈『What's The 411?』の2003年ヴァージョン〉とする触れ込みは的確に思える。そういった観点からすると、トライブ・コールド・クエストの“Hot Sex”をサンプリングし、メソッド・マン(SWV“Anything”での名演を彷彿とさせる素晴らしい仕事をしている)をフィーチャーした“Love @ First Sight”は、アルバムをリードするシングルとして打ってつけだろう。

「あの曲はフィアンセと出会った時のことを歌ってるの。サンプルも彼が選んだのよ」。

 その成り立ちを考えると、“Love @ First Sight”は音楽面に限らず、精神面でも『Love & Life』というアルバムを象徴しているのかもしれない――メアリーの話は、アルバムのメインテーマへと立ち返る。

「私はずっと自分を愛してくれる人を探し続けてきたけど、自分自身を愛したことがなかったのね。これまでの人生を通して、自分を愛することができない人は誰からも愛されないんだってことを学んだわ。自分を愛することを学んで、やっと本当のラヴソングが書けるようになったの」。

 いまから11年前、〈リアル・ラヴを探している〉と無邪気に歌った女の子は、幾多の苦い失恋を経験することで逞しい女性へと成長し、ここにきてようやく愛の核心を捉えたようだ。

「私も精神的に不安定なところがあるんだけど、同じような人たちに私の歌がどれだけ影響を与えているか実感できるようになったの。これからもそういう人たちにとって人生を変えてしまうような音楽をやり続けていきたいと思ってるし、ポジティヴなラヴ・アルバムを歌っていきたいわ」。

 痛みを知る者だからこそ表現し得るニュアンスがあるし、痛みを知る者だからこそ聴き手の心のひだにタッチできる。『Love & Life』はメアリーの生き様そのものであり、ラフなビートに乗せて〈一人称のR&B〉を体現し続ける彼女には、やはり〈Queen of Hip Hop Soul〉の称号が相応しい。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年08月14日 12:00

更新: 2003年08月28日 19:15

ソース: 『bounce』 245号(2003/7/25)

文/高橋 芳朗