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インタビュー

Aimee Mann


 映画「I am Sam」のサントラでは、夫マイケル・ペンと“Two of Us”を仲睦まじくデュエット。ふたりはこの2年、オシドリ・デュオ〈アコースティック・ヴォードヴィル〉を組んで積極的にライヴ活動もこなしてきた。いまでこそ公私共に順風満帆という感じのエイミー・マンだが、彼女のソロ・キャリアは紆余曲折の連続だった。とくに契約を交わしたレコード会社とは決まって揉め事が起き、「自分自身ではなく、そうしたレーベルの人たちがいいと思うものを書かなければいけない」というプレッシャーにつねに晒されてきた。

「前作では、詩を書くときに新聞や雑誌から言葉を抜き出して、それをアレンジして使ってみたりしたわね。このやり方はフィオナ・アップルに教わったんだけど、なかなか書けなかった時はそうやって新しいアイデアを引き出したりしていたわ」。

 そのフィオナの元カレ、映画監督のポール・トーマス・アンダーソンがエイミーの大ファンで、彼女の曲にインスパイアされて「マグノリア」を制作したことは今さら説明する必要がないほど有名な話。映画の大ブレイクによって彼女の株は急上昇し、みずから設立したレーベル、スーパーエゴからリリースされた『Bachelor No.2 Or, The Last Remains Of Dodo』のセールスを大きく後押しすることになった(日本やヨーロッパではV2がライセンス)。こうしてやっと自由にレコード制作できる環境を手に入れた彼女だが、3年ぶりの新作『Lost In Space』の出来にはかつてないほど確かな手応えを感じているようだ。

「いま私はアメリカではレーベル契約もないし自分でレコードを出しているから、私が曲を書いてレコーディングしたものに文句を言う人間もいない。そんなことに心を煩わされることもないってわけなの。だから今回はずっと楽しめたし、本当に素晴らしいものができたと思うわ」。

 陰影に満ちたメロディー、深い情感を宿しながらあくまでクールなヴォーカル、シンプルでいながらオーガニックな手触りを感じさせるサウンド。それらすべてがしっくりと精緻に組み立てられている。

「私はシンプルにまとめるのが好きなの。アコースティック・ギターにベース、ドラムってやつ。私たちはそこからスタートしてエレクトリック・ギターを入れたり、ピアノやオルガンを足したり……。それに曲のフィーリングに合うようにラジオの雑音みたいなサウンドやスペイシーな雰囲気のギター・ノイズもたくさん入っている」。

 サウンド面でこうしたスペイシーな雰囲気作りも含めて大きな貢献を果たしているのが、今回のプロデューサーでもあるギタリストのマイケル・ロックウッドだ。

「彼は素晴らしいわ。それにずっと学び続けてるってことにも感心する。私のライヴ・バンドでもう何年もいっしょにやっている仲で、前作でもプレイしているわよ。今回、エレクトリック・ギターは全部彼が弾いているし、キーボードのパートもかなり演っているわね。彼は良いプロデューサーがそうであるように決断力があって、クリエイティヴ。統率力も持っているのよ」。

 なるほど。たしか彼はフィオナ・アップルのギタリストでもあったはず。これまでずっとコラボレートしてきた親友のジョン・ブライオンの不参加について尋ねると「いっしょにやらない?って誘ってはいたんだけど、きっと彼は忙しすぎたんだと思うわ」とのこと。また、コラボレートこそしていないものの、彼女の音楽に重要なインスピレーションを与えたというエリオット・スミスについては「もう大、大好きよ。たぶん私はエリオットにずいぶんと影響されているわね。何曲か、いえ、少なくとも1曲はエリオットを感じる曲があると思う」という答えが返ってきた。果たしてエリオットの音楽性に通じる何かをリスナーが感じるかどうかは別として、この『Lost In Space』には彼の傑作『XO』にも匹敵する素晴らしい歌の数々が詰まっていることだけは確かだ。 

 最後に「CDは決して安いものではないから、買う人が欲しくなるようなステキなパッケージのものを作りたい」とも話していたエイミー。イールズのシングル“Last Stop:This Town”のカヴァー絵などでも知られる漫画家、セスのイラストがフィーチャーされたブックレットがまたチャーミングで、うっすらとダークなユーモアを醸し出している。内容、デザイン共に文句ナシ。4作目にして最高傑作の登場だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年09月05日 16:00

更新: 2003年02月13日 12:10

ソース: 『bounce』 235号(2002/8/25)

文/荒田 光一